
高市早苗氏に聞く、安全保障の行方
アメリカのトランプ関税を「令和の黒船」と捉え、自立した日本経済の構築へ
経済安全保障のスペシャリストとして知られる衆議院議員の高市早苗氏が、アメリカのトランプ政権が掲げる「相互関税」について語った。トランプ大統領の突然の関税政策発表から90日間の猶予期間に入った今、日本はこの危機をどう乗り切るべきか。高市氏は「これは令和の黒船。ピンチではなくチャンスと捉え、日本の自立性を強める取り組みを急ぐべき」と主張する。

トランプの「相互関税」は突然降って湧いた言葉
Q: トランプ関税、相互関税という言葉が出てから半月経ちましたが、ここまでの一連の流れをどのように見ていましたか?
「相互関税」という言葉は、経済産業省で長く通商交渉を担当していた方からも「貿易用語に相互関税なんて言葉はありません」とメールが来るほど、突然降って湧いたような話です。緻密に計算されたものでもなく、非常に驚きました。
Q: 90日間の停止というところから、市場も一喜一憂する状況がありましたが、日本の初動はどうだったと思いますか?
実は東南アジアのある国は、昨年11月のトランプ大統領の選挙勝利直後から、こういった事態を想定して水面下で交渉を続けてきたと言われています。日本もある程度想定して、早めに人を送る対応があっても良かったと思います。特に就任後のトランプ氏のスピーチを聞けば、「これは来るな」という感じがしました。
私としては、例えばペンス副大統領と良い関係を築いた麻生元副総理を特使として派遣するか、あるいはトランプ前政権時代にライトハイザー氏と交渉した茂木前大臣を特使として送って、ワシントンに張り付いていただくという方法もあったと思います。ただ今となって申し上げても仕方がないので、赤澤大臣に頑張ってきていただきたいと思います。
交渉窓口の不明確さはなぜ起きたのか
Q: 初動で人道識を誰が取っているのか最初わからないという問題がありましたが、なぜそういうことが起きるのでしょうか?
特使を指名するのは総理が決める話です。カウンターパートについては日米首脳会談でお互いに決めようということになりました。最初は自動車関税についての話が早かったので、その場合、向こうは安全基準と言っていますが、自動車産業全体をどう日本国内での生産体制を維持していくかという問題は経済産業大臣の担当でしょうし、安全基準なら国土交通大臣の担当です。そういった方々が少しでも早く乗り出していれば良かったと思います。
ただ、私自身はこれを「令和の黒船」だと思っています。ピンチだと思うのではなく、チャンスだと捉えて、日本国の自立性を強めるための取り組みを急ぐべきです。その時間もありますし、今すぐ着手した方が良いと思います。
ピンチをチャンスに変える具体策
Q: ピンチをチャンスにというところで言うと、具体的に何ができるでしょうか?
私は去年の総裁選挙で負けてしまいましたので、私の政策がそのまま政府与党の政策になる可能性はありませんが、3年半前の総裁選挙でも基本的に同じ政策を訴えていました。
1つは食料安全保障です。日本国内で全ての農地をフル活用して農作物を作り、できたら輸出をする。輸出する力があるということは、緊急時に国内での食料として活用できるわけですから、日本の農業や水産業を成長産業にしていくべきです。輸出先はいくらでもありますし、海外には日本の高付加価値の食料品へのニーズがあります。
もう1つは資源エネルギー安全保障です。ロシアとウクライナの戦争でも、レアアースの権益が問題になりました。中国も米国との関税戦争の中で「レアアースを出さない」という切り札を持っています。日本のEEZ内にもレアアースやレアメタルがありますから、開発を急いで、できるだけ他国に依存しない形を作るべきです。
さらに医薬品の原料についても、健康医療安全保障として重要です。できる限り他国に薬の原料を頼らずに、原料から製造プロセス、人材まで国内で完結する体制を作ることが大事です。
他にもサイバーセキュリティ対策や国土強靭化、防災対策なども重要です。日本の自立性を高めて国内の雇用を守り、技術革新の種を絶対に守り抜くことが大切です。
アメリカが求める新しい通商秩序とは
Q: アメリカが求めている新しい国際通商秩序とは何だと思いますか?
それは分かりません。ホワイトハウスの中にも保護主義派とディール派がいますので、赤澤大臣の交渉相手はどちらかというとディール派で保護主義派ではないと聞いています。徹底して保護主義と自国ファーストを貫いていくのか、それとも打ち出しておいてディールで自分に有利な条件を引き出そうとするのか、それは私にも分かりません。
Q: 90日の猶予がある中で、交渉に関わっていない日本国民に何ができるでしょうか?
淡々と間違っていることは間違っていると、他言語で発信することが重要です。例えばWTO協定で上限税率が定められています。アメリカもWTOに加盟しているため、WTOで定められた上限を超える関税をかけることはできません。自動車は2.5%、自動車部品のブレーキやワイパー、シートベルトも2.5%です。それにプラス25%というのは完全にWTO協定違反です。
提訴しようと考えている国もあります。日本は同盟国としてそれを見送るのか、淡々と提訴するのか、その判断は政府に委ねられますが、間違っていることはきちんと発信していくべきです。
例えばトランプ大統領は「日本国内でアメリカ車は1台も走っていない」と言いましたが、昨年は1万6千台輸入されていますし、手数料も増えています。また「日本が米に700%の関税をかけている」と言いましたが、これも間違いです。そういったことは淡々と発信していくべきです。
WTOの機能不全と自由貿易の将来
Q: 国際的な枠組みが見直される可能性もあると思いますが、どうお考えですか?
WTOがあまり機能していないというのは昔から言われてきたことです。日本は自由貿易の旗手として、これをチャンスと捉え、G7の各国、アメリカは今すぐには乗ってこないかもしれませんが、その他のEU諸国、G7には入っていないオーストラリアやニュージーランド、東南アジアの国々と連携しながら、自由貿易を守っていくべきです。
ただし、それぞれの国にとって生存権に関わるようなものはあります。そういったものについては保護しても良いでしょう。日本もこれまでお米を守ってきましたが、基本的には自由貿易でお互いに繁栄していこうという理念を日本がどんどん発信していけば良いと思います。
ジャパンファーストで自動車産業を守る
Q: ジャパンファーストを掲げるとしたら、どのような政策が考えられますか?
私がジャパンファーストと言うと、アメリカ的な保護主義のようなイメージを持たれるかもしれませんが、世界中どの国も自国ファーストで、自分の国の国益や国民、雇用を守り、未来に伝えられる技術をしっかり守るのは当然のことです。
特に製造業、代表的には自動車産業は日本にとって間違いなく基幹産業です。製造業の設備投資の26〜27%、研究開発費の30%を占め、関連産業で働く人は約550万人、納税額でも15%を占めています。自動車メーカーの方々も国内の生産台数を守りたいという強い意志を持っています。輸出産業は相対的に研究開発投資が大きいので、技術の種火となる技術を次世代に継承し、その技術を製品化できる人材も育てたいと考えています。
過去の民主党政権時代には、円高の影響で多くの企業が海外に出て行きました。しかし現在は円安傾向なので、日本に戻ってきて海外に輸出するのに有利な状況です。政府がやるべきことは、そういう企業が帰ってきやすい条件を整えることです。工業用水のインフラ整備や安価で安定的な電力供給の確保、高度な人材の育成が必要です。
自動車産業を支援する具体策としては、EV補助金の見直しや環境性能割課税の一時停止なども考えられます。EV補助金は1台あたり85万円の国の補助がありますが、これは日本製の自動車だけでなくテスラやBYDなどの外国製EVにも適用されるため、一時停止しても良いと思います。また、自動車購入時にかかる環境性能割課税を2年間限定で廃止すれば、国産車の購入を促進する効果があるでしょう。
日本をリードする人物像とは
Q: 今後の日本をリードしていく人物像はどういう人間であるべきでしょうか?
先見性を持ち、あらゆるリスクを想定してそれらを最小化するための対策を打っておける人です。それは今生きている私たちを守るだけでなく、次の世代への贈り物にもなります。
食料安全保障、資源エネルギー安全保障、サイバー攻撃に強い日本、災害に強い日本、健康医療で自立した日本、そういった国づくりは次世代への贈り物になるので、今手をつけるべきです。
また、財政政策と金融政策を間違えてはいけません。金融政策は本来、政府が決めるべきで、金融政策の手段は日銀が決めるべきです。日銀は政府の経済政策に整合的であるように、日銀法第4条に則って共に歩まなければなりません。
最近の利上げは疑問に思います。金利が高くなると企業は現預金の金利で稼ごうとするので、設備投資や従業員の給与に回すモチベーションが下がります。今はむしろ生産性を上げていく時期であり、設備投資を促進できる環境を整えるべきなので、金融緩和を続けるべきだと思います。
円安が行き過ぎていることを理由に金融政策を変更しましたが、効果はほとんどありませんでした。むしろ円安はバッファーになっており、アメリカに輸出する際に高い関税がかかっても、円安の強みを活かして輸出を伸ばすという発想も大切です。
Q: 最近は政治活動の変化はありますか?
周囲からは「勉強はもういい。家に帰って資料を読んだりするのもやめて毎日飲み歩け」と言われ、以前より会食の回数は増えました。でも今日も企業の方から技術系のお話を聞く予定があるなど、新しい研究開発中の技術系の話を聞くのも相変わらず好きなので、そういった活動も続けています。
