
トランプ関税交渉、日本のカードは?
トランプ関税ショックは「ニクソンショック、プラザ合意に匹敵するインパクト」—元経済安全保障担当大臣が警鐘
トランプ次期大統領が打ち出した追加関税政策は日本経済にどのような影響をもたらすのか。対応策はあるのか。元経済安全保障担当大臣の小林鷹之氏が語る日本の戦略とは。

Q: このトランプ関税の流れは歴史的なパラダイムの変化と見るべきか、一時的な揺れとして考えるべきか?
これはあまりにも不透明感がありすぎて断言することは難しい。ただ、トランプ大統領による今回の関税政策の変化はインパクトで言うと「ニクソンショック」あるいは「プラザ合意」に匹敵するくらいのインパクトがあると思う。
Q: これから日本政府の交渉が始まるが、追加関税24%に対して何が鍵になるか?
まず体制面では、赤澤大臣が担当閣僚に指名されたが、日本政府としてオールジャパンでアメリカに向き合っていく体制づくりが重要だ。TPP交渉時のように強い権限を持たせ、しっかりと引っ張っていく力を持つ体制が必要だ。
また時間が重要になる。トランプ大統領の政策も不変ではなく、90日間の総額関税停止発表があったように、政策変化や市場変化が起こり得る。スピーディーに動く必要はあるが、状況をしっかりと注視する姿勢が求められる。
関税を含めたアメリカとの交渉では、様々なディールが出てくるだろう。しかし、日本自身ができること、すなわち日本経済をどういう状況においても下支えし国民の暮らしを守ることについては日本政府として責任がある。内需を喚起することが重要だ。
Q: 日本はこのディールにおいて立場が弱く見えるが、強力なカードはあるのか?
これは関税だけの問題ではない。まず関税について言えば、例えば米の関税が非常に高いと言われている。実際の数値は別として、もし本当に700%の関税がかかっているのであれば、その数字を大胆に軽減することも選択肢になる。
また自動車について「非関税障壁」と言われているものについても、アメリカが非関税障壁として挙げているものを徹底的に洗い出し、日本として切れるカードを思い切って切っていくことも考えられる。
関税だけでなく投資や安全保障の話もある。投資については、2月7日の首脳会談で日本はアメリカに対し投資をするというメッセージを伝えたが、それでも関税をかけられたということは、日本企業にとって投資余力がなくなるというメッセージを伝え続けるべきだ。
例えば日本製鉄のUSスチール買収案件では、買収に加えて設備投資や雇用確保、先端技術導入などを約束しているが、関税が上がれば設備投資が難しくなる。これはアメリカの国力そのものに貢献できなくなることを意味するので、そうしたメッセージをしっかりと伝えていくべきだ。

Q: 米の関税について、農業との関係や農政トライアングルの歴史からすると自由化は難しいのではないか?
農業政策は慎重に議論する必要がある。ただ個人的な考えだが、今回の「令和の米騒動」のような事態は食糧安全保障上良いことではない。
減反政策は長く続いてきたが、これを転換して米をたくさん作り、輸出もしっかり行うべきだ。日本の美味しい米を買いたいという人は海外に潜在的にたくさんいるはずで、海外市場を取りに行くべきだ。何らかの事情で国内供給が不足する場合は、輸出を減らして国内供給に当てればいい。
米をたくさん作って海外にも売り、儲かる農業を実現する。そして食料安全保障にも貢献する体系を追求すべきだ。農業は日本の基幹産業であり、それを担う農家の存在は極めて重要なので、農家が儲かる米づくりができる環境を作っていくことが大切だ。
Q: 自動車については既に25%の追加関税が発動されたが、どう考えるか?
これがフィックスされたわけではなく、将来変わる可能性はある。影響は非常に大きい。日本で作ってアメリカに輸出しているのは年間150万台で、日本からアメリカへの輸出総額の約3割を占める。ここに25%の関税がかかれば相当な影響がある。
自動車産業はサプライチェーンが広く、中小企業を含めて影響が広がるので、突破口を開いていく必要がある。さらに5月3日以降は自動車部品にも25%の関税がかかることになっている。これは90日間停止された総合関税とは別枠だ。
アメリカのビッグ3も日本から部品を輸入しており、コスト増となれば価格転嫁するのかどうか、アメリカの自動車メーカーの動向も見極める必要がある。
Q: 自動車関連税制の見直しについてはどう考えるか?
自動車関連税制は広く複雑だが、アメリカとの関税交渉は相手のある話である一方、日本の内需を喚起することは日本自身ができることだ。何らかの形で税を軽減することで、買い替えを考えている人の潜在的需要を掘り起こすことは十分可能だ。
例えば取得時に消費税と共にかかっている環境性能割などの負担を軽減することで需要を掘り起こし、内需を喚起する。輸出が減る可能性がある中で、その分の生産能力を国内販売につなげ、自動車産業の広いサプライチェーンを支えることが重要だ。
Q: エネルギー分野では、アラスカLNGやシェールガスへの投資について、トランプ大統領は巨額の出資を求めているが、これについてどう考えるか?
日本のエネルギー安全保障を考えると、地政学的リスクがある。特定の国や地域に依存しているリスクを考えれば、調達先を分散していくことは日本のエネルギー安全保障上絶対に必要だ。
また、DXや生成AIの普及に伴い、日本のエネルギー、特に電力需要は激増していく。安定的なエネルギー・電力調達のためには、火力を含めてバランス良く持つ必要がある。アメリカ全体でシェールガスへの投資は十分あり得る選択肢だ。
天然ガスを日本に輸入するには液化設備などへの投資も必要になるので、日本が自らのエネルギー安全保障の観点から投資していくことは十分あり得る。アラスカについては確実性もありリスクもあるが、一切関与しないというのではなく、日本もエネルギー安全保障の観点から関心を示すべきだ。
Q: アメリカのエネルギーが他国よりもコストが高くても、ポートフォリオとして考えるべきか?
アラスカについては現時点でコストが見えない部分があるが、他の地点のアメリカのエネルギーは必ずしも高いわけではない。エネルギー需要はどんどん膨らんでいく中で、これまで他の地域に頼っていた分をアメリカにも振り分けることは十分検討すべき選択肢だ。
Q: 日本にとって最良のシナリオは何か? どのような結果なら「勝ち」と言えるか?
追加関税24%をゼロにすることを目指すべきだが、相手はアメリカだけではない。お互いにウィンウィンの関係を作っていかなければならない。関税だけでなく、エネルギーや安全保障の話もある。
日米関係は日本の外交安全保障上の基軸であり続けるわけだから、トータルで見たときに日本の国益がプラスになり、国民の暮らしを守れるようにすることが第一だ。
また、世界の大きな市場であるアメリカへの各国のアクセスが制限されることで、これまで各国が作っていた製品の行き場が一部失われ、供給過剰が起こりうる。特に米中の報復関税合戦により、中国がアメリカに出せなくなった製品を他国に流し込んでくる可能性もある。
そのような状況で日本の経済を守るためには、内需喚起と国内投資が重要だ。手取りが増えても海外に流出するようでは意味がないので、日本の供給力を高める産業政策の強化も必要だ。今回の関税政策をきっかけに、日本の経済構造をさらに強靭化するチャレンジをすべきだ。
Q: 防衛費増額と防衛産業育成についてはどう考えるか?
防衛費については単なる数字の議論ではない。より防衛力を強化する必要があるが、GDP比2%にすれば日本が守れるというわけではない。国民の命を守るためには現実の脅威や将来の脅威に備える必要な防衛力を確保するための防衛費が必要だ。
防衛産業基盤も強化していく必要がある。防衛装備品投資のルールは少し変わったが、まだ足りない。世界平和への貢献や日本の防衛産業基盤強化のためにも投資を行い、日本の防衛装備品を世界に供給していくべきだ。それが結果として日米同盟の強化にもつながる。
さらに国際秩序の観点からも考える必要がある。アメリカが安全保障を含めて国際社会から引いていけば空白ができる。それを中国が埋めようとするだろう。日本は米中のような巨大なパワーではないが、世界に一定の経済力を持つ国として、できた空白を自ら埋めていく役割がある。それが結果的にアメリカの国益にもつながることを示していくべきだ。
Q: 消費税減税についてはどう考えるか?
これを議論の俎上から外す必要は全くない。自動車関連税制の軽減は自動車に限った話だが、今回の物価高にトランプ政権の関税政策が加わり、先行き不透明な状況の中で内需を喚起する一つのツールとして消費税のあり方は検討に値する。
消費税の軽減は対象を絞れば絞るほどインパクトは小さくなる。日本経済への下振れ圧力を見極めつつも、対象は広く取ることも含めて議論すべきだ。一時的なものであっても検討の価値はある。