
トランプ関税の狙いと影響
トランプ関税の真の狙いとは?通商政策のプロが解説「世界大恐慌以来の規模」
世界を震撼させたトランプ前大統領の総合関税発表から1週間、マーケットはジェットコースターのような乱高下を続けています。菅原淳一氏(オールズコンサルティンググループ シニアフェロー)が、トランプ氏の本当の狙いと日本の取るべき政策について解説しました。

Q: トランプ氏が掲げる「総合関税」の本質は何ですか?
トランプ氏が掲げる関税は歴史的に見ても前例がない規模です。アメリカの平均実行関税率の推移を見ると、第1期トランプ政権で若干上昇したものの、今回の総合関税が全て実行されれば20%を超える水準に達します。
これはスムート・ホーリー法の時代を超える水準であり、実質的に19世紀末期まで遡るほどの高さです。スムート・ホーリー法は世界大恐慌を引き起こし、第二次世界大戦の一因となったと言われています。
トランプ氏はこの関税政策の先例として19世紀末期のマッキンリー大統領を自らのロールモデルと考えているようです。
Q: トランプ氏の関税政策の真の目的は何ですか?
トランプ氏の関税政策には大きく4つの目的があります:
1. 貿易赤字の削減: トランプ氏は貿易をゼロサムゲームと考え、貿易赤字は負けであるという立場です。「外国がアメリカを搾取してきた」という考えのもと、特に同盟国からの搾取を問題視しており、戦後80年かけてアメリカがリードしてきた貿易秩序そのものを変えようとしています。
2. 投資誘致と雇用創出: 関税をかけることで外国企業がアメリカ国内に工場を建てるよう促進し、製造業を復活させようとしています。バイデン政権も同様の「アメリカファースト」政策を推進していましたが、補助金や税制控除といった形で支援してきました。一方トランプ氏は、関税は「外国が払うもの」でアメリカの税金を使わずに投資を誘致できると考えています。
3. 交渉のテコ: 関税を交渉カードとして使い、相手国に譲歩を引き出そうとしています。トランプ氏は「既に75カ国がアメリカに交渉を申し入れている」と述べており、関税の威嚇を効果的に使おうとしています。
4. 財源の確保: 関税収入を減税政策の財源として活用しようとしています。

Q: 今回の関税発表後のマーケットの混乱は想定内だったのでしょうか?
今回のマーケットの反応はトランプ陣営の想定を大きく超えた可能性が高いです。VIX指数(恐怖指数)は過去を振り返ると、今回の上昇幅はリーマンショックとコロナショック以来の高さを記録しました。
特に異例だったのは、通常なら「リスクオフ」の局面では株が下がれば債券は買われるはずが、今回は米国債までもが売られて金利が上昇したことです。これはリーマンショック時に見られた「どの金融商品も信頼できない」状況に近く、現金だけが信用される状態に近づいていました。
この想定外の市場混乱を受けて、トランプ陣営は発表からわずか13時間後に「一部の国は上乗せ関税を90日間一時停止する」と発表しました。表向きには「想定通り」としていますが、実際にはスティーブン・ムニューチン元財務長官などが説得し、急遽方針を修正した可能性が高いと考えられます。

Q: 日本は今後どのように対応すべきでしょうか?
日本がとるべき戦略としては、以下の点が重要です:
1. 焦らない交渉: 早期決着を急ぐよりも、じっくりと時間をかけて交渉することが有利になる可能性があります。関税の長期化はアメリカ自身にもダメージを与えるため、時間の経過とともにアメリカ側の譲歩を引き出しやすくなります。
2. 複数の交渉カードを用意: アメリカが関心を持つ分野での協力を提案することが重要です。例えば、LNG(液化天然ガス)の輸入拡大や防衛装備品の調達拡大は、貿易赤字削減という観点からアメリカにとって受け入れやすい提案となります。農産物市場の一部開放も交渉カードとなり得ますが、国内対策とセットで検討する必要があります。
3. 米国債市場の安定化への貢献: 日本は米国債の最大保有国であり、米国債市場の安定化に寄与できる立場にあります。これも交渉カードとして活用できる可能性があります。
4. 長期的にはアメリカ依存度の低減: 中長期的には、CPTPPの拡大など、アメリカ抜きの自由貿易圏を拡大していくことも検討すべきです。
Q: この関税政策は世界経済にどのような影響を及ぼしますか?
この関税政策が実行されれば、世界経済、特に日本経済への影響は避けられません。前回のトランプ政権時の米中貿易摩擦でも、アメリカ経済が減速し、日本はそれ以上に景気後退に陥りました。
今回は関税の範囲と水準がさらに大きいため、影響はより深刻になる恐れがあります。特に日本は中国とアメリカが貿易相手の4割を占めており、両国間の貿易戦争の影響を受けやすい構造にあります。
ただし、この状況が「実感なき景気後退」をもたらす可能性もあります。製造業の生産は落ち込むかもしれませんが、商品価格の上昇が抑制されれば、インフレ圧力が緩和され、消費者にとってはある程度の恩恵もあるかもしれません。
企業としては、目先の動きに一喜一憂するのではなく、中長期的な視点でビジネスモデルや生産拠点の最適化を検討することが重要です。

Q: 米中関係はどうなりますか?
米中関係は最も厳しい状況になる可能性があります。すでに中国に対する関税は総合関税と追加関税を合わせて145%という前例のない水準に引き上げられる予定です。
これにより中国からアメリカへの輸出が大幅に減少し、その製品が日本を含む他の市場に流入する「迂回輸出」の問題も生じる可能性があります。EUはすでに中国製品の流入を防ぐための対策を検討し始めています。
しかし、トランプ氏は権威主義的な指導者との関係構築を好む傾向があり、交渉次第では中国との間で何らかの合意に達する可能性も否定できません。この不確実性こそが、トランプ政権の通商政策の特徴と言えるでしょう。
Q: 今後さらに追加関税が課される可能性はありますか?
すでに総合関税の例外として挙げられている品目(銅、木材、レアアース、医薬品、半導体など)については、今後個別に232条に基づく関税が課される可能性が高いです。これらが総合関税の対象外となっているのは、「今後個別に関税をかける」という「予告編」と考えるべきでしょう。
特にレアアースや医薬品については、トランプ氏が分野別の関税をかけると明言しているため、今後の動向に注意が必要です。
最終的には、これらの関税政策がもたらす不確実性に企業が対応していくことが求められます。急激なサプライチェーンの変更や投資計画の見直しではなく、複数のシナリオを想定した上で、冷静に中長期的な戦略を立てることが重要です。