
トランプ関税は交渉で下げられるのか?
トランプ関税で日本はどうなる?専門家が語る対応策と世界経済の新秩序
アメリカのトランプ政権が打ち出した全世界向け関税政策。多くの国が困惑する中、日本はどう対応すべきか。地経学研究所長の鈴木一人氏が、今後の世界経済の展望と日本の取るべき道を解説する。

トランプの関税は「ブラフではない」—世界経済に激震
Q: トランプ政権の関税政策は想定外だったのでしょうか?
選挙公約として関税政策を掲げていたことは知られていたが、これほど大規模かつ雑な計算で世界中のあらゆる国(「無人島でも関税をかける」ような勢い)を対象にするとは想定外だった。

Q: 本気で実行する意図があるのでしょうか?それともブラフなのでしょうか?
これはブラフではなく真剣なものだ。アメリカは歴史的に貿易赤字を出すことで世界中にドルを供給し、世界経済成長を支えてきた。一方で、ガーファム(GAFAなど)のデジタルサービスでドルを回収するメカニズムを構築していた。しかしこのシステムは、製造業に関わる人々を豊かにできなかった。特に「ラストベルト」と呼ばれる地域の白人労働者層が取り残され、それが選挙の鍵を握ることになった。
トランプ政権は製造業を守るために、関税を武器として貿易赤字を減らそうとしている。世界中を敵に回しても構わないという強い意思を持っているため、日本だけを例外にしてくれという要求は難しいだろう。
アメリカのシステムは「サステイナブル」だったのか
Q: 従来のアメリカのシステムは持続可能だったのでしょうか?
理論上はサステイナブルだったはずだ。しかし2つの問題があった:
1. アメリカ国内での再分配の弱さ - デジタル企業で稼いだ富が国内の貧しい人々に分配されなかった
2. 労働セクター間の移動の困難さ - 製造業からサービス業への労働移動が進まなかった
日本は産業構造の変化に合わせて人々が地域や職種を移動してきたが、アメリカでは「生まれた町で死ぬまで生きる」人が多く、労働力の移動が進まなかった。結果として社会的・政治的なバックラッシュが起き、トランプ政権はそれに関税政策で対応しようとしている。
Q: 関税政策は製造業復活に貢献するのでしょうか?
二つの効果がある。まず、本来なら競争力がなく潰れるべき産業が守られることになる。一方で、関税を避けるため海外企業がアメリカ国内に直接投資をするようになる。すでにヒュンダイやTSMCなどがアメリカ国内投資を増やすと宣言しており、こうした動きが製造業の新しいダイナミクスを生む可能性はある。
しかし問題もある。トランプ政権は世界中の国に関税をかけており、メキシコなど部品調達先も含まれているため、アメリカ国内で全てを生産するとコストが大幅に上昇する。これではアメリカ国内に製造拠点を作るインセンティブが弱まってしまう。
「FTAすら無視する」—交渉の余地はあるのか
Q: 各国との交渉にどれくらい余地があるのでしょうか?
交渉の余地は極めて小さい。アメリカと貿易黒字を持つオーストラリアのような国にはある程度余地があるかもしれないが、イスラエルの例が象徴的だ。イスラエルはアメリカとの間に自由貿易協定(FTA)があるにもかかわらず、トランプ政権は17%の関税をかけた。FTAという法的拘束力のある合意すら無視する姿勢を見せており、外交関係や同盟関係よりも「貿易赤字を減らす」という目標を最優先している。
ネタニヤフ首相が最初にワシントンに乗り込んだが、共同記者会見も中止になるなど、交渉は難航していると見られる。関税政策に対する各国のオファーを全て内外にすることはないだろうが、大きな譲歩は期待できない。
Q: 日本はどんなカードを持っているのでしょうか?
日本は2019年に結んだ日米TAG(物品貿易協定)を交渉の土台にできる可能性がある。これはトランプ自身がサインした協定なので「あなたの約束でしょう」と主張できる。しかしFTAすら無視するトランプ政権がこれをどこまで尊重するかは不明だ。
農産物市場の開放などを交渉材料にする考え方もあるが、それで関税が下がる保証はなく、日本国内の農家に大きな打撃を与えるだけになる可能性がある。交渉の効果は限定的だろう。

自動車関税のインパクト―日本経済への打撃
Q: 自動車関税による影響はどの程度でしょうか?
自動車関税は25%と高率で、これは国別関税(日本は24%)とは別に課される。各自動車メーカーの米国内生産比率によって影響度は異なるが、特にスバルや松田(マツダ)といった企業は現地生産を増やす方向に進まざるを得なくなるだろう。
GDP成長率を0.2〜0.3%押し下げる効果があると推測され、世界最大の市場へのアクセスが制限されることで日本の輸出主導型企業は厳しい状況に直面する。
「1945年コンセンサス」の終焉—新しい世界秩序への転換
Q: これは自由貿易体制の終わりなのでしょうか?
自由貿易の枠組みはここで終わったと考えるべきだろう。現在はアメリカ一国の一方的な関税政策だが、各国が自国産業を守るために関税政策を導入し始めるとブロック経済化が進む。第一次トランプ政権がWTOなどの自由貿易ルールを壊し始め、バイデン政権でもその流れは変わらなかった。中国製電気自動車に100%の関税をかけるなど、保護主義的な政策は継続している。
民主党政権になってもこの基調は変わらないと考えるべきで、政権交代によって状況が大きく改善する可能性は低い。
Q: 今後、日本はどうすべきでしょうか?
日本を含む自由貿易に利益を見出す国々がまとまり、新たな貿易ルールを形成することが重要だ。例えば、日本、オーストラリア、シンガポールなど考え方が近い国々で関税同盟を形成することも選択肢となる。EUも関税同盟から始まったが、各国の強い産業と弱い産業のバランスを取ることは容易ではない。
しかし最低限、ブロック経済化を避けるため、各国が次々と関税で自国を守るような状況を作らないよう日本がリーダーシップを発揮する必要がある。単にルールに従うだけでなく、ルールの元になるフレームワークを作る「秩序形成者」としての役割を担うことが求められる。
Q: 中国との関係はどうあるべきでしょうか?
中国も一方的な関税に苦しんでいるため、日中FTAなどを通じて中国をルールに基づく国際秩序に参加させる試みは価値がある。しかし中国が自国の経済力を武器にルールなき世界で利益を独占しようとするなら、距離を置く必要がある。中国をルールベースの秩序に巻き込む努力が重要だ。
まとめ
トランプの関税政策は短期的には避けられず、日米同盟や歴史的関係にも関わらず例外は期待できない。日本は自動車産業を中心に大きな影響を受けるが、長期的には新たな国際経済秩序の形成者として役割を果たしていくべきだ。戦後続いてきた自由貿易体制は大きな転換点を迎えており、日本は単にルールに従うだけでなく、新しいルール作りをリードしていく必要がある。