ECONOMICS101
日本のインフレは定着するか?(後編)
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2025年4月9日

デフレとは何だったのか?なぜ今、インフレが始まったのか? 物価研究の第一人者である渡辺努氏から、ゼロからでも分かる物価の知識を学ぶ。 聞き手は第一生命経済研究所 首席エコノミストの永濱利廣氏。 <ゲスト> 渡辺努|物価研究の第一人者 ナウキャスト創業者・取締役 1982年東京大学経済学部卒業後、日...
「インフレ経済で最も得をするのは政府」〜日本経済はいつから良くなる?
物価と賃金の正常化が進む日本経済。この状況をどう捉え、私たちはどう備えるべきか?経済学者の渡辺努氏が語る日本経済の現状と将来展望を紐解いてみよう。

Q: インフレ経済で最も恩恵を受けるのは誰ですか?
インフレ経済になると得をする人と損をする人が出てきます。得をするのは基本的に借金をしている人です。借金の実質価値が目減りするからです。そして日本で最も借金をしているのは政府です。1,000兆円以上の債務を抱えていますから、2%のインフレによって政府が受ける恩恵を計算すると、約180兆円にもなります。
これは債務が消えるわけではありませんが、実質的な債務負担が大きく軽減されることを意味します。政府債務のGDP比率も、インフレで名目GDPが拡大することで自然と改善していきます。財政再建の観点からも、インフレ経済への移行は大きなメリットがあります。

Q: 実質賃金はいつ上昇に転じるのでしょうか?
実質賃金は基本的に上昇すると考えています。理由は単純で、日本は人手不足だからです。労働供給が足りない状況では、実質賃金は必ず上がります。
現在、名目賃金は上昇していますが、物価上昇に追いついていないため、実質賃金がマイナスになっています。しかし、企業は人材を確保するために物価上昇を上回る賃金引き上げを余儀なくされるでしょう。これは経済学の原理から考えても必然です。
エコノミストの予測では、2025年度後半には実質賃金が安定的にプラスに転じる見込みです。時間がかかっているのは事実ですが、大企業だけでなく中小企業も、組合員だけでなく非組合員も含めて、全体的に実質賃金の上昇が実現すると予想されます。
Q: 日銀の金利政策をどう評価していますか?
日本では長らく賃金、物価、金利が低すぎる状態が続いていましたが、現在はこれらが正常化しつつあります。日銀は賃金・物価の動きを後追いするかたちで金利の正常化を進めています。
2023年3月と7月の利上げは、当時のタイミングとしては早すぎるという印象を持っていました。しかし、その後の賃金や物価の動きは予想以上に強く、経済全体の力強さも増しています。2024年1月の利上げを含め、現在の政策は現状に見合った調整だと考えています。
今後については、インフレ率が2%程度で定着するなら、最終的には政策金利が2%程度まで上昇していくことが想定されます。日本経済の理想的な姿は、物価が2%で上昇し、賃金が2%プラス生産性向上分(約3%)で上昇し、金利は2%強で安定するという状態です。これは今年中に実現するのは難しいですが、2025年終わりから2026年にかけて見えてくるでしょう。
Q: 日銀のバランスシート縮小(量的引き締め)は必要ですか?
私はミルトン・フリードマンの考え方に近く、中央銀行は人々が必要とする分だけマネーを供給すべきだと考えています。これは一見実現不可能に思えるかもしれませんが、異次元緩和によって実質的にそれに近い状態が実現しています。
現金と同様に、金融機関が日銀に持つ預金も、必要な分だけあることが金融システムにとって便利です。いくらでも増やせというわけではなく、必要量には自ずと限界があります。現在のマネー供給量を維持することで、金融システムが円滑に機能し続けるでしょう。
アメリカなど他の国でも、リーマンショック後やパンデミック時に大量のマネー供給を行い、その後も元の水準まで戻していません。構造的な変化が起きたと考えるべきで、過去の水準に戻す必要はないのです。
Q: 最低賃金の引き上げによる悪影響は考えられませんか?
最低賃金を引き上げると、それに対応できない企業が倒産し、失業が増えるのではないかという懸念があります。しかし、現在は基本的にどの産業でも人手不足の状況です。この状況では、仮に一部の企業が最低賃金の引き上げに対応できなくても、その企業の従業員は、より高い賃金を提供できる生産性の高い企業に移動することができます。
このような労働移動は、経済全体の資源配分を効率化し、より生産性の高い企業に人材が集中することを意味します。マクロ的に見れば、最低賃金の適切なペースでの引き上げは、労働市場の効率化を促進し、生産性向上にも寄与する良い政策だと考えられます。

Q: 2030年頃の日本経済はどうなっていると予想されますか?
現在進行中の賃金・物価・金利の正常化は「第1ステージ」に過ぎません。それが完了した後に「第2ステージ」が来ると考えています。第2ステージでは、正常化によって何が良くなるかが実感できるようになります。
デフレ時代の日本では、生産性の高い企業でも賃金を上げることができず、労働者が生産性の高い企業に移動するインセンティブが働きませんでした。しかし、インフレ経済では生産性の高い企業が賃金を上げることで、低生産性企業から高生産性企業への労働移動が促進されます。
これにより経済のダイナミズムが回復し、イノベーションや生産性向上が加速します。さらに、企業の設備投資も活性化し、借入を伴う投資が増えることで、さらなる経済成長が期待できます。2030年までに、この好循環が定着すれば、日本経済は本格的な復活を遂げることができるでしょう。

Q: トランプ政権など国際情勢の変化は日本経済にどう影響しますか?
1980年代から2000年代初頭にかけては、企業がより安いコストで生産できる国々に進出するグローバリゼーションが進みました。しかし、リーマンショック前後から、このトレンドに変化が生じています。パンデミックやトランプ政権の保護主義的政策も影響し、企業は単に安いところで生産するのではなく、地政学的リスクを考慮した安定供給を重視するようになっています。
これにより、国内生産や近隣国での生産が増え、コストが上昇することでインフレ圧力となる可能性があります。ただし、日本と海外のインフレ率の差は縮小しつつあるため、今後5年程度の間にグローバルなインフレ率は収斂していくでしょう。そのため、国際情勢の変化があったとしても、日本だけが大きな影響を受けるということは少なくなると予想されます。