
コメ価格急騰は農政の失敗だ。農政トライアングルの闇
「米が高騰する日本で農業の真実とは? トライアングル構造の裏側」
現在の米価格高騰の背景には、複雑な「農政トライアングル」の存在がある。この構造がどのように機能し、消費者の利益よりも生産者の利益を優先させているのか、『対馬の海に沈む』の著者である窪田新之助氏に詳しく聞いた。

Q: 今起きている米価格高騰の原因は何ですか?
端的に言うと、これは農政の失敗だと言えます。構造的な要因を分析すると、2年前に遡る問題があります。2023年の夏に高温障害という暑さでお米がうまく育たなかったことが大きな要因です。それによってお米が足りなくなり、その状態が2024年まで引きずられています。
しかし問題はもっと根深いところにあります。民間で貯蔵しているお米の在庫が、この5年ほどずっと減少し続けていたのです。これは明確な理由があって、1970年から国は米の作付けを減らし続けてきました。その代わりに、家畜の餌用米を増産するという政策が取られてきました。つまり、我々が食べる米を減らし、その結果として米価格を高く維持するという政策が続いてきたのです。

Q: なぜそのような政策が取られてきたのですか?
この米価を高く維持するのは、農家の利益を上げて政治家が票を得るためです。これは農政トライアングルと呼ばれる構造があり、農林水産省、農協、農林族議員の3者がこの構造を維持することで利益を得ています。この構造を変えるインセンティブが3者のどこにもないのです。
消費者の利益は基本的に無視されています。現在の高騰で農家や農協は利益を上げていますが、それを表立って喜ぶことはできません。なぜなら国民を敵に回すことになるからです。しかし、この高い価格維持は彼らの目的に合致しているのです。
Q: 自由市場が作られない理由は何ですか?
米に限っては実質的な市場がなく、適正な価格が分からない状態です。唯一あるのは農協と卸売業者の相対取引価格だけです。農協はここで価格決定権を持っているため、先物市場のような自由市場が立ち上がることを望みません。
実際、大阪の堂島取引所では2010年に米の先物取引が試験上場されましたが、2021年頃に農協と当時の農林族議員の反発によって潰されました。もし先物市場があれば、米価格の高騰を予測し、備蓄米の供給などの対策が事前にできたはずです。また、先物市場の役割として価格変動を抑える効果もあったでしょう。

Q: 農業従事者の減少は問題解決につながりますか?
農家数の減少は、特に兼業農家が多いのですが、これにより農業のあり方が変わる可能性があります。兼業農家の多くは、本業としてサラリーマンや年金収入があり、農業は副収入もしくは趣味で行っている方が多いです。彼らが多いほど農協や農林族議員の票田になるため、政策的に保護されてきました。
一方で、70歳前後になると体力的な限界から農業をやめる方が多く、現在の農家平均年齢が70歳近いことから、多くの農家が離農している時期です。これにより大規模化や株式会社的な農業経営が進みつつあります。
これは日本農業にとってチャンスとも言えますが、労働力の問題や地域共同体の崩壊など、新たな課題も生まれています。大規模化が進むと、地域の農業の受け皿が1社に限られ、その会社に倫理観がなければ地域全体が問題を抱えることになります。

Q: 日本の農業は輸出産業として成長できますか?
輸出については現実的には難しい面があります。特に野菜などは鮮度が求められるため、輸出するのは容易ではありません。米にしても、世界市場はそれほど大きくありません。
また、中国や東南アジアでは日本人が技術指導して高品質な米の生産が始まっています。そのような状況で日本が今から輸出に力を入れることが良いのかは疑問です。中国の生産力は非常に高く、同じような品種を作れば、現在の日本の価格では関税を払っても輸入した方が安くなる状況です。
農産物の輸出額は増えているように見えますが、これには海外から原料を輸入して加工し再輸出しているものも含まれています。チョコレートや清涼飲料など、実際には日本で生産していない原料が含まれる製品も輸出額に計上されており、ある意味では農水省のアリバイ作りと言える面もあります。
Q: 日本農業の知的財産戦略はどうなっていますか?
日本には優れた農産物の知的財産、特に種や苗の品種があります。これらの日本オリジナル品種を知的財産として海外に提供し、ロイヤリティを稼ぐという戦略も考えられます。
法律上はこれは可能で、品種保護のための国際条約(UPOV)もあります。しかし実際には品種が盗まれるケースが多く、シャインマスカットなどは中国で無断栽培されています。日本の研究者や農家が自ら持ち出したり、来日した外国人が持ち帰ったりするケースもあるようです。
品種を守る法律は整備されていますが、保護する仕組みや活用する体制が整っていません。これは日本が内向きで、外で新しい仕組みで稼ごうという意欲が乏しいことが原因の一つです。日本の農政は基本的に縮小均衡型で、新しい成長戦略を描けていません。
Q: 農業の構造問題を解決する道筋はありますか?
現在の農政トライアングルが続く限り、変革は難しいでしょう。ただ、農家人口の減少や高齢化により、この構造も弱体化しつつあります。これにより農業経営に視点を持ったプレーヤーが増えることは良い流れです。
しかし、人口減少に伴う歪みにも目を向ける必要があります。テクノロジーやDXによる効率化も言われますが、それだけでは解決しません。テクノロジーはあくまでツールであり、それをどう経営に組み込むかが重要です。
また、かつては村の目が光ることで維持されていた倫理観が失われつつあることも問題です。法律だけでは捉えきれない問題も多く、地域社会の弱体化が新たな課題を生んでいます。
農業の未来については、経営力を持ったプレーヤーが増えることで変化の可能性はありますが、このトライアングル構造が根本から変わらない限り、抜本的な改革は難しいでしょう。
