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財務のプロが分析。パナソニックのリストラ20年史
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2025年3月24日

毎年、リストラを繰り返し、完全復活の道が見えてこないパナソニック。過去20年の財務分析から見える課題とは何か?再生のお手本となる企業はどこか?財務戦略アドバイザーの田中慎一氏に分析してもらった <ゲスト> 田中慎一| 財務戦略アドバイザー/インテグリティ代表 1972年東京都生まれ。慶応義塾大学経...
「数字は正直だ」パナソニック財務20年で見えた日本企業の課題とは
失われた30年の象徴的存在とも言われるパナソニック。長年にわたる構造改革やリストラを繰り返しながらも、収益性の改善に苦戦し続けている。財務戦略アドバイザーの田中慎一氏が20年間の財務データを分析し、数字に表れた課題と今後の展望について解説する。

Q: パナソニックの財務を分析して見えてきた全体像は?
パナソニックの財務分析をすると「数字は正直だ」という印象を強く受ける。課題がどこにあるのか、どういった課題があるのかが数字に如実に現れている。
過去20年の業績推移を見ると、売上高のピークは2007年3月期の約9兆1,000億円。それ以降、一度もこのピークを超えていない。営業利益も2008年3月期の約5,200億円が最高益で、その後更新できていない。ただし、本業の儲けという意味では一度も赤字になっていないという特徴がある。
注目すべきは収益性の低さだ。日本の上場企業の平均営業利益率は約6%だが、パナソニックはここ数年5〜7%の範囲で推移しており、一度も平均の6%を超えたことがない。
Q: パナソニックはなぜ「リストラ疲れ」と言われるのか?
パナソニックの有価証券報告書を過去約15年分見ると、毎年リストラの歴史だと言える。事業構造改革費用として数百億円から数千億円、買収した企業の償却費用などが毎年続いている。これはいわゆる「特別損失」があらゆる種類で計上され続けていることを意味する。
会社再生には2つのフェーズがある。1つは生き残りフェーズ、つまりマイナスを0に持っていくこと。もう1つは成長戦略フェーズで、0からプラスに持っていくことだ。
問題は、パナソニックが年がら年中リストラを続けていることだ。危機感を持って改革を進めるのは重要だが、長期間それを続けると人々は疲弊し、持続力がなくなる。マイナスを0に持っていく改革は一気に行うべきで、小さく長く続けるのは最悪の選択と言える。

Q: パナソニックの労働生産性はどうなっているのか?
労働生産性、つまり1人あたりの営業利益を見ると、パナソニックは2008年3月期の163万円がピークで、その後は100万円前後で推移している時期も多い。これは上場企業の平均的なボリュームゾーンである100〜200万円の間に位置している。
対照的に、ソニーは約1,000万円、トヨタは約1,400万円という高い労働生産性を誇っている。サムスンに至っては約4,000万円に達する。この低い労働生産性は、社員にとって希望を見出しづらい状況を作り出している。
1人あたり営業利益が100万円程度だと、優秀な社員に対して年収を100万円上げるような待遇改善も難しくなる。これは日本企業全体が一種のセーフティネットとなり、失業率を低く維持する要因にもなっているが、成長という観点では課題となっている。
Q: パナソニックの事業ポートフォリオはどう変化してきたのか?
2008年3月期の事業セグメントを見ると、アプライアンス(家電)、デジタルAVCネットワーク、電工・パナホームなど、約3/4が家電関連事業で構成されていた。つまり、基本的に家電メーカーだった。
2012年3月期(大坪社長の最終年度)には、自動車関連やシステム系の事業が増え、少し様子が変わってきた。さらに2021年3月期(津賀社長の最終年度)、そして現在の楠見社長の下では、「くらし事業」として家電がまとめられる形になったが、依然として家電の割合は大きい。
各事業の収益性を見ると、2008年3月期はデジタルAVCネットワーク(テレビなど)の売上が4兆3,000億円と大きかったが、利益率は低かった。2012年3月期になると、このセグメントが大きく赤字に転落している。
現在の楠見社長の下では赤字の事業がなくなり、特にエネルギー事業(車載バッテリーなど)の利益率が10%程度まで改善している。これには米国のインフレ抑制法(IRA)による補助金も含まれているが、2008年3月期と比べると事業構成は大きく変わってきている。

Q: パナソニックの借金(有利子負債)はどう変化してきたのか?
パナソニックの有利子負債は売上が増えていないにもかかわらず、大きく増加している。2008年3月期以降、三洋電機の買収(2009年12月)やブルーヨンダーの買収(2021年9月)などで借金が膨らんでいる。
三洋電機からはテスラに納めている車載バッテリーの技術を獲得したが、この事業も中国のBYDやCATLとの激しい競争にさらされている。将来の成長を見込んで買収を進めているが、今のところ結果が出ていない状況が続いている。
Q: なぜパナソニックの改革には長い時間がかかっているのか?
パナソニックは日立やソニーに10年ほど遅れてゼロリセットの状況にある。2012年3月期と2024年3月期を比較すると、事業ポートフォリオが少しずつ改善していることは確かだが、12年かけてようやくここまで来たという印象だ。
時間がかかった理由として「リストラ疲れ」が挙げられる。毎年のように費用を計上し、組織を頻繁に変更するなど、本来の意味での事業再構築(リストラクチャリング)が一貫して行われなかった。また、内部昇格の社長では思い切った改革が難しいという指摘もある。
たとえば、武田薬品がアリナミンを売却したり、資生堂がコンシューマープロダクツを売却したりするような大胆な決断は、内部昇格の社長には難しい場合が多い。OBの反対や社内の抵抗が大きいからだ。
日立の東原氏やソニーの平井氏のように、グループ会社から抜擢されたり、目立たない部署から登用されたりするような「暗黒馬」的な人材が改革を進めるケースが多い。
Q: パナソニックがイケている企業になるためには何が必要か?
パナソニックの課題は、アイデンティティが見出しにくい点にある。典型的な投資家は会社の2つの特性を重視する。1つは収益性(儲かっているか)、もう1つは成長性(伸びるか)だ。パナソニックは売上が横ばいか微減で、収益性も高くないため、投資家から見て魅力が乏しい。
シーメンスのような「イケているグローバル企業」は、20年間で売上は変わっていないものの、利益の質が大きく変わった。ハードウェア中心の企業からソフトウェア中心の企業へと変貌を遂げ、市場評価(株価)が劇的に上昇している。
パナソニックも家電事業に依存した体質から脱却し、特定の領域に特化することが求められる。家電事業の売却も選択肢の一つだが、会社のアイデンティティにも関わる問題なので難しい決断になる。
「未来を予想することは占い師ではないのでできないが、歴史から学ぶことはできる」という観点から過去を振り返りつつ、明確なビジョンを持って改革を進めることが重要だ。