
進むアメリカの孤立主義、日米安保はどうなる?
「脱アメリカ」の流れで日本はどう立ち回るべきか?元駐米大使の現実的見解
トランプ前大統領の復権で再び揺れる日米関係。「日本はアメリカを守らない」との発言や関税政策など、新政権の姿勢に世界が注視する中、日本はどのような外交戦略を取るべきなのか。元駐米大使の杉山晋輔氏が語る現実的な日本の立ち位置と今後の世界情勢について解説する。

トランプ大統領は「日本はアメリカを守らない」と不満?実際はどうなのか
Q: トランプ大統領が「日本はアメリカを守ってくれない」と不満を漏らしたという話がありますが、この発言についてどう思いますか?
日米安全保障条約の仕組みをトランプ氏が理解していないことが問題です。この仕組みが永遠に続くかどうかは分からないので、日本も考え直す必要があるかもしれません。しかし、だからといって別の道を選び、日本が再び軍事大国になるべきとは思いません。
トランプ氏がこのような発言をする背景には、日本がもっと防衛費を負担すべきだという考えがあります。これは「売り言葉に買い言葉」で対応すべきではありません。冷静に考えて、日米同盟の重要性を再確認する必要があります。
「自前の核武装」は日本の選択肢になり得るのか
Q: もしアメリカとの同盟関係が弱まった場合、日本の安全保障はどうなりますか?
もしアメリカが信頼できないとなると、日本は戦略的自立を考えることになります。突き詰めると、より軍事大国になり、核兵器も自前で持つという方向に進むかもしれません。周りの国々は核兵器を持っているので「自分で自分のことは守れるようにしよう」という考え方です。
しかし、これは1930年代後半から日本が失敗した道です。核武装への道は日本にとって良い選択とは思えません。トランプ氏の発言に感情的に反応せず、冷静に対応すべきです。
Q: 日中関係について、今後どのような姿勢で臨むべきでしょうか?
中国は日本にとって最も近い隣国の一つであり、人口、面積、資源、歴史、そして今や経済的にも非常に大きな存在です。このような国と付き合わないという選択肢はありません。ビジネスでも関わらないということは考えられないのです。
だからこそ「戦略的互恵関係」の旗を下ろさないわけですが、尖閣諸島問題など中国の行動が全て良いとは言えません。もっとルールに従い、勝手な行動を控えてほしい。これこそ日本が言うべきことです。ASEANの国々やアジアの国々も、日本が中国とどのように関係を築くかに注目しています。
日本は独自の対中外交を展開するわけではありませんが、日本にとって良い関係構築の方法をもっと堂々と主張すべきです。
トランプ大統領の真の狙いは中国にあるのか
Q: トランプ大統領の外交政策の最終目標は何だと思いますか?
トランプ大統領の最終的なターゲットは、ロシアのプーチン大統領ではなく中国の習近平国家主席である可能性が高いです。アメリカにとって対外政策の1丁目1番地は対中政策です。
かつての東西冷戦時の旧ソ連と違い、中国は経済的にも非常に強大です。現在、世界のGDPの2割近くを占め、2032年にはアメリカを超えるとも言われています。これは冷戦時代のソ連には見られなかった状況です。
アメリカから見れば、考え方の全く異なる国が台頭し、世界的な影響力を持つことに危機感を抱いています。これは共和党・民主党、中央・地方を問わず、アメリカ全体の懸念事項です。
トランプ大統領は中国とどのような「ディール」を目指すのか
Q: トランプ大統領は中国とどのような交渉を行うと思いますか?
まず関税を課して通商・経済面で圧力をかけるでしょう。多くのアメリカ人は、中国がこれほど経済的利益を得ているのは不公正な貿易慣行があるからだと考えています。ある部分ではそれは事実かもしれません。
国家貿易のような形式や、国際ルールに反する行為を正すよう求めると思います。また、台湾問題については現時点であまり触れていませんが、「力による一方的な現状変更」は認めないという立場を取るでしょう。
Q: 今年のG7サミットはどうなると予想しますか?
今年のカナダでのG7サミットは非常に難しいものになるでしょう。トランプ大統領は二国間の交渉を好み、多国間フォーラムには積極的でない傾向があります。しかし、G7が分裂することはG7自身のためにも、国際社会全体のためにもなりません。
G7が結束して、ウクライナ問題、ガザ問題、北朝鮮問題など、世界の課題に対して一致したメッセージを出すことが重要です。そのためには、トランプ氏を説得すると同時に、ヨーロッパ諸国も説得する必要があります。
トランプ氏は「何をするか分からない」という不確実性が最大の抑止力となっていますが、G7に欠席するようなことはないでしょう。

日本は「脱アメリカ」の流れにどう対応すべきか
Q: 世界が「脱アメリカ」の方向に向かっているという見方がありますが、日本はどう対応すべきでしょうか?
世界が「脱アメリカ」、あるいはアメリカ依存を減らす方向に向かう可能性はあります。そうした中で、例えば環境問題などで中国が国連で建設的な提案をするようになれば、世界の見方が変わる可能性もあります。
日本としては、アメリカとの同盟関係を維持しながらも、中国との関係においては日本独自の立場を持つべきです。日本は中国と1000年近い交流の歴史があり、アメリカとは異なる関係性を持っています。「あなた(アメリカ)とは一緒ではない」という立場を明確にし、日本の対中政策の独自性を示す必要があります。
多国間協力でアメリカも日本も利益を得られる
Q: トランプ大統領は多国間の枠組みより二国間交渉を好むと言われていますが、実際はどうでしょうか?
トランプ氏は確かに二国間交渉を好みますが、多国間の枠組みも完全に否定しているわけではありません。例えば日米豪印の「クアッド」は日本が提案したものですが、トランプ氏はこれを高く評価しています。
また、日米韓の協力関係についても、韓国との関係は複雑な面がありますが、北朝鮮問題などに対処するためには三カ国の協力が不可欠だとトランプ氏も理解しているはずです。
重要なのは、個別の問題だけでなく、大きな戦略の中で同盟関係を位置づけることです。関税問題やLNG輸出など個別の案件について協議するだけでなく、より大きな国際戦略の中で日米関係を考えるべきです。
