
日産新社長の次の一手は?ホンダ・鴻海との3社連合がベスト
内田社長退任の真相とは?日産の新体制で本田との再交渉はあるのか
日産自動車の内田誠社長が退任し、新CEOにイヴァン・エスピノサ氏が就任することが3月11日に発表された。この大型人事の背景には何があるのか?ホンダとの経営統合交渉が破談になった真相と、今後の日産の行方について、ジャーナリストの井上久男氏に聞いた。

Q. 内田社長はなぜ退任したのか?
内田社長の退任には大きく2つの理由がある。一つは本田自動車との経営統合交渉が破談になったこと、もう一つは業績が一向に上向かないことだ。特に経営統合の破談が大きな要因といえる。
日産のメインバンクであるみずほ銀行は、日産が本田と経営統合しないと生き残れないと考え、統合交渉を側面支援していた。みずほ銀行と関係が深い長井氏という社外取締役が、内田社長の退任を強く画策した形だ。
内田社長は統合交渉で本田側から子会社化の提案を受け、「日産のポテンシャルが発揮できない」として断った。しかし、日産内部には「子会社化になっても生き残りを優先すべき」という声も多くあり、内田社長は社内の意見をまとめきれなかった。
また、ルノーとの関係においても問題があった。統合交渉破談時に、ルノー側は「プレミアムの条件さえ示されなかった交渉は受け入れられない」とコメントしたが、実際には日産株に対するプレミアムの交渉はなされていなかった。この点で内田社長に対する不信感が高まり、取締役としての忠実義務に反するのではないかという声が出始めた。
Q. 新CEOのエスピノサ氏はどんな人物か?
イヴァン・エスピノサ氏は1978年生まれの46歳。メキシコ出身で、エンジニアとしてのバックグラウンドを持ち、商品企画を得意としている自動車愛好家(カーガイ)だ。官僚的と言われる日産の中では、「車が大好き」という情熱を持つ人材として目立つ存在だ。
趣味はドラム演奏で、音楽を愛する明るいメキシコ人らしい性格の持ち主。周囲を引き付けるタイプで、メキシコ日産やタイ日産など国際的な経験も豊富であることが評価されている。
CFOのジェレミー・パパン氏は投資銀行出身で、数字に強く、本田との統合に前向きだと言われている。一方、エスピノサ氏は日産の独立による再生も可能と見ている可能性がある。両者のコンビネーションは、数字に強いパパン氏と、定性的な評価が得意なエスピノサ氏の相性が良いとの見方もある。

Q. 内田社長は本田との交渉をなぜ破断したのか?
本田側が子会社化という「豪速球」を投げてきたことが大きな要因だ。当初の交渉では、共同持株会社を設立し、その下に日産と本田という2つの事業会社をぶら下げる形で合意していた。ところが本田側が急に子会社化案を提示してきた。
本田の三部社長自身が、「子会社化案は日産側が受け入れられないことも想定したが、ワンガバナンスの方が意思決定が早くなるから提案した」と述べている。つまり本田側は「豪速球」を投げ、意思決定が遅い日産がそれを打ち返せなかったのが破談の原因だった。
日産側の問題として、内田社長をサポートする経営戦略機能が弱かったことも指摘されている。特に経営戦略担当だった渡辺氏が内田社長の補佐役としての役割を十分に果たしていなかったという見方もある。

Q. 本田との再交渉は可能なのか?
本田側は日産から再交渉の打診があれば応じる可能性が高い。新体制となった日産では、経営戦略担当に若手の坂根氏が就任する予定だ。坂根氏は日産と本田の業務提携の協業交渉時に、エンジン領域をどうするかという重要な役割を担当し、本田側からも認知されている人材だ。
エスピノサ氏はクレバーで柔軟な思考の持ち主であり、みずほ銀行の支援がなければ日産の経営が立ち行かなくなるリスクを考慮し、みずほの意向をある程度受け入れるだろう。CFOのパパン氏も本田との統合に前向きとされており、新体制では本田との再交渉に向けた動きが加速する可能性がある。
ただし、再交渉には日産側から本田に「協議しましょう」と言い出す必要がある。また、統合前に日産は自社の経営立て直しを確実に進める必要があるだろう。
Q. 日産と本田の統合にはどんなメリットがあるのか?
両社の統合には大きなシナジー効果がある。発表時に本田の三部社長は営業利益を1兆円程度押し上げる効果があると説明した。企業文化の違いが統合の障壁になるという見方もあるが、実際には技術面での相乗効果は大きい。
例えば、日産が弱いハイブリッド技術は本田が強みを持っており、共有することで開発コストの削減や日産の商品力向上につながる。また、エンジンや変速機などの設計・部品の共通化も大きなコスト削減効果が期待できる。
興味深いことに、日産と本田の統合交渉が破談した日に、トヨタ自動車の首脳が「何かお手伝いできることはないか」と日産に連絡してきたという。トヨタは日産と本田の統合によるシナジー効果を理解しており、自社の競争環境に影響すると考えている可能性がある。
Q. 統合の具体的な形態はどうなるのか?
当初計画されていた持株会社方式が望ましいと考えられる。この方式では、持株会社の下に日産と本田という事業会社をぶら下げる形になる。取締役構成は「7対3」で本田優位となるものの、日産の経営の自由度はある程度担保される。
本田が子会社化案を提示したのは、持株会社や事業会社のガバナンス構築に時間をかけすぎると、競争環境の変化に対応できないという懸念からだった。しかし、エスピノサ体制下で意思決定のスピードが上がれば、元の持株会社方式に戻る可能性もある。
Q. 本ファイの関潤氏の役割は?
本田が日産に興味を持つ理由の一つに、リストラを指導できる経営人材の不足がある。一方、本ファイ(鴻海)のEV事業責任者である関潤氏は、日産時代に構造改革を担当した経験を持ち、「日産ネクスト」計画の中心人物だった。
関氏はしがらみのない改革ができるとして評価されており、本田にとって魅力的な存在だ。このため、日産・本田・本ファイの三社連携という可能性も浮上している。
具体的には、例えば本田が20%、本ファイが15%出資して1/3超の株式を取得する形や、本田が90%、本ファイが10%出資して完全子会社化するスキームなどが考えられる。あるいは本田との持株会社に本ファイが戦略的提携を結ぶという形も可能だ。
最も可能性の高いシナリオは、エスピノサ氏をCEOとして残しつつ、関氏を会長として迎え入れるという形式だという。日産内部の情報では、エスピノサ氏と関氏は相性が良いとされており、両者がコンビを組むことで強力な改革が期待できる。

Q. 日産の今後の課題は?
日産には多くの課題がある。まず経営立て直しのためのリストラ計画を明確にする必要がある。内田社長は2月13日に「1ヶ月以内にリストラ計画の詳細を説明する」と述べていたが、社長交代で計画発表が遅れる可能性がある。
現在の発表されているリストラ計画では日産の再生は不可能との見方が社内外に広がっており、新たな計画策定は急務だ。本田との統合交渉を再開する前提条件として、確実な立て直し計画の実行が求められる。
また、社外取締役の刷新も検討すべき課題だ。現在の社外取締役8名には、自己保身に走っているとの批判もあり、会社のためという視点が欠けているとの指摘もある。内田社長を選んだ責任もあり、経営責任の明確化という観点からは、社外取締役の交代も検討する必要があるだろう。