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「静かな退職」が日本を救う。年収を下げて70歳まで働く
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2025年3月13日

必要最低限の仕事しかしない「静かな退職」が増えている。「静かな退職者」に対する批判も多いが、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏は「静かな退職が日本を救う」と主張する。その理由は何か?なぜ「勤労屋」を撲滅すべきなのか?日本の生産性を上げるための処方箋について聞いた。 <ゲスト> 海老原嗣生|雇用ジャー...
「静かな退職」という選択肢ー日本で実現可能な新たな働き方
「人は会社に期待せず、会社も人に期待しない。昇進もしないが解雇もされずに長く働く」―これが「静かな退職」という新たな働き方のコンセプトだ。雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏が提唱するこの考え方は、日本社会の「一丁目一番地の改革」となり得るのだろうか。

Q: 「静かな退職者」とは何か?
「静かな退職者」とは、会社にしがみつく「勤労屋」の対極にいる存在です。勤労屋が縦軸である一方、静かな退職者は横軸を表します。つまり、右下から左上へのシフトが理想的な働き方の変化となります。
「静かな退職」の本質は、必要な仕事をきちんとこなしつつ、過剰な労働や無駄なことに時間を費やさない働き方です。会社との関係性においても、「損する分、得するんだよ」という合理的な選択を前提としています。働けるうちは仕事をし続け、能力に応じた給与をもらいながら長く働くという考え方です。
Q: なぜ今、「静かな退職」という考え方が必要なのか?
日本では1995年から生産年齢人口が減少し続け、約1400万人が減りました。それにもかかわらず、労働者数は400万人以上増加しています。これは「日本の奇跡」とも言える現象です。
その背景には女性の社会進出があります。かつて大企業の30代前半女性の正社員比率はわずか5%、30代後半では2.4%でした。それが2023年には30代前半が36%、30代後半が31%と大幅に増加しています。
また、育児・家事分担にも大きな変化が起きています。6歳未満の子どもがいる共働き夫婦の場合、夫の家事・育児時間は以前に比べて大幅に増加し、妻の約3分の2が「夫が頻繁に手伝ってくれる」と回答しています。
こうした社会変化の中で、「24時間戦えますか?」というような働き方はもはや持続不可能になっています。そこで必要になるのが、「静かな退職」という新たな働き方のコンセプトなのです。

Q: 「右肩上がり」の賃金カーブの問題点は?
日本の賃金システムの問題点は、年功序列による「右肩上がり」の賃金カーブにあります。若いうちは能力以上に低い賃金で「働き損」が生じる一方、年齢が上がるにつれて能力以上の賃金をもらう「もらい過ぎ」が発生します。
これは「ラジアーの法則」として知られており、「働き損」と「もらい過ぎ」がちょうど釣り合う点で雇用が終了する仕組みになっています。しかし、この賃金カーブを修正し、一定水準で横ばいにすれば、70歳まで、あるいはそれ以上働き続けることが可能になります。
この「静かな退職者」の賃金カーブは、企業と労働者の双方にメリットをもたらします。企業は人件費の増大を抑えつつ経験豊富な人材を確保でき、労働者は長期的な安定雇用を得られるのです。
Q: 労働力不足の現状と今後の見通しは?
現在、日本は深刻な労働力不足に直面していますが、これはまだ「始まったばかり」の状態です。22歳で労働市場に入る人口(青色)と65歳で退出する人口(赤色)のギャップは今後さらに拡大します。
現在のギャップは年間約30万人ですが、10年後には年間100万人の不足が生じ、それが継続していくと予測されています。この状況下では、「誰でも働ける体制」を整えることが不可欠です。
これまで非正規雇用では、パートタイム労働という形で多様な働き方が進められてきましたが、正社員についても同様の柔軟性が求められています。「静かな退職」の考え方は、この課題に対する一つの解決策と言えるでしょう。
Q: 「静かな退職」はどのように実現できるか?
「静かな退職」を実現するためには、賃金制度の改革が必要です。例えば、賃金を650万円から700万円程度に設定し、その水準で70歳まで働ける仕組みを作ることが考えられます。
大卒の正社員男性の約7割は100人以上の企業で働いており、そうした企業では賃金が700万円前後まで上昇します。夫婦共働きの場合、世帯年収は1000万円を超えることも珍しくありません。そのため、賃金が横ばいになったとしても、十分な生活水準を維持できるのです。
また、役職定年後の長期間(現状では10年、将来的には15年)を無為に過ごすよりも、早い段階から専門職として働き続ける方が、本人にとっても企業にとっても有益です。
Q: 「静かな退職」と従来の働き方の違いは?
従来の日本の働き方は「勤労屋」文化に基づいています。これは会社や上司に対する過剰な忠誠心と長時間労働を特徴とし、「お客様は神様」という考え方とも結びついています。
一方、「静かな退職」は合理的な選択に基づく働き方です。仕事の本質に集中し、過剰なサービスや無駄な時間を削減します。
例えば、ラーメン店で考えると、愛想がよくても味が悪ければ客は来ません。つまり、本質(ラーメンの味)が重要で、過剰なサービスは必ずしも必要ないのです。これは仕事においても同様で、本質的な価値を提供することに集中すべきだという考え方です。

Q: 「静かな退職」の社会的影響は?
「静かな退職」の考え方が広まれば、日本社会に様々な好影響をもたらす可能性があります。労働力不足の解消、長時間労働の是正、ワークライフバランスの改善などが期待できます。
また、男女の役割分担にも変化をもたらすでしょう。現在、高収入の女性ほど未婚率が高い傾向がありますが、これは「自分が働きながら家事・育児も担う」という二重負担を避けるための選択とも言えます。パートナーが「静かな退職」の働き方を選べば、こうした負担の均衡が取れ、結婚や出産の選択肢も広がる可能性があります。
この概念は一見後ろ向きに見えるかもしれませんが、実は非常に前向きな社会変革を促す可能性を秘めています。従来の「勤労屋」文化から脱却し、より合理的で持続可能な社会を実現するための重要なステップとなるでしょう。
Q: 「静かな退職」の名称について再考の余地はあるか?
「静かな退職」という名称には、やや後ろ向きなイメージがあります。この働き方をより肯定的に捉えるための別名称が必要かもしれません。例えば「合理的な選択」や「サイレントワーカー」など、前向きな意味合いを持つ言葉が考えられます。
重要なのは、この働き方が「昭和的な価値観を捨て、合理的な選択をする」という積極的な意思決定であることを伝えることです。そうすることで、より多くの人々がこの働き方を選択肢として検討するようになるでしょう。

Q: 日本企業における女性の社会進出の変化は?
日本企業、特に大企業における女性の社会進出は過去数十年で大きく変化しました。かつては「カスハラ」(顧客によるハラスメント)や商慣行の問題から、女性が働きにくい環境がありました。
例えば、銀行では融資を引き上げる際に拉致されるリスクがあったため、女性を法人営業に出せないという理由がありました。また、メーカーでは工場ラインとの付き合いなど、いわゆる「接待文化」が女性の活躍を阻んでいました。
しかし、これらの商慣行は時代と共に変化し、より合理的かつシステマティックな業務プロセスが確立されました。その結果、女性も安心して働ける環境が整い、結婚後も仕事を続ける女性が増加しています。
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「静かな退職」という考え方は、日本社会の構造的な変化に対応するための重要な選択肢です。右肩上がりの賃金カーブを見直し、長期的・安定的な雇用を実現することで、労働力不足の解消や働き方改革の推進につながるでしょう。
この変革は一部の人だけでなく、社会全体で進めていくべきものです。「合理的な選択」として「静かな退職」の働き方を認め、多様な働き方を受け入れる社会へと変わっていくことが期待されます。