PIVOT TALK BUSINESS
「勤労屋」を撲滅すれば、日本の生産性は上がる
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2025年3月12日

必要最低限の仕事しかしない「静かな退職」が増えている。「静かな退職者」に対する批判も多いが、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏は「静かな退職が日本を救う」と主張する。その理由は何か?なぜ「勤労屋」を撲滅すべきなのか?日本の生産性を上げるための処方箋について聞いた。 <ゲスト> 海老原嗣生|雇用ジャー...
「勤労者」ではなく「勤労屋」?労働史から紐解く日本人の働き方
日本人は働きすぎなのか、それとも「働いているフリ」をしているだけなのか。労働に対する文化的背景は欧米と日本でどう違うのか。欧州の労働者は「籠の鳥」と言われるけれど、それはどういう意味なのか。
雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏をゲストに迎え、「静かな退職」をテーマに労働の歴史から現代までを紐解きます。


日本人はなぜこんなに働くのか?
Q: 「静かな退職」というテーマに注目した理由は何ですか?
日本人は働きすぎだと思います。世界的に見ても「やる気がない」と言われる日本人でさえ、かなり頑張って働いています。以前は「やる気がない」と文句を言われるのが普通でしたが、その風潮を直さなければいけません。
欧米に行くと本当にハイパーな人はすごいですが、一般層はかなりゆるく生活しています。それが普通なのだということを伝えたかったのです。
興味深いことに、アメリカでは「静かな退職」を当たり前だと思っているため、自分が「静かな退職者」だと考える人は50%程度しかいません。一方、日本では60%もの人が「静かな退職者」だと自認しています。これは日本人が「もっと働いている人がたくさんいるから、自分はダメだ」と思い込む傾向があるためです。

Q: 労働のあり方はどのように歴史的に形成されてきたのですか?
労働社会学の視点から話をすると、働き方はヨーロッパで最初に形成されました。中世が終わり近世になると国家がしっかりと形成され、それまで教会から派遣される国王のようなイメージだったのが、国が単体として成り立つようになりました。
その後、国王の力が強くなりすぎたことに対して市民革命が起き、議会ができ、労働法が制定され、労働組合もしっかりとしてきました。つまり、約250年かけて試行錯誤しながら「雇用者はこうやって守らなければならない」「働くというのはこう決めなければならない」という制度を作ってきたのがヨーロッパです。その結果、ヨーロッパの働き方が近代の自由主義かつ民主主義の中では最高のものと世界で思われるようになりました。
これに対して20世紀になって2つの亜種ができました。1つはアメリカです。アメリカは自由主義を持ちながらも、ヨーロッパのように250年かけて形成された制度をいきなり取り入れました。アメリカ人にとって雇用契約や雇用保護はいきなり来たものなので理解が難しかった。そこで彼らは自由主義を市場主義で再構成しました。
もう1つの亜種が日本です。日本もアメリカと同様に、市民革命を経ずに明治維新を迎え、議会制度、憲法、労働組合、労働法といったヨーロッパの先進的な仕組みを1800年代末にいきなり導入しました。

日本は共同体のロジックで労働を形成した
Q: 日本はヨーロッパから導入した労働制度をどのように消化したのですか?
日本は自由主義や民主主義を共同体のロジックで紐解いて作りなおしました。村長がいて、その村長が労働料も仕事も権利も役職も全部支配して配り、みんなはあまり考えずにその通りに動く、という形です。政治の世界も同様で、中央の偉い人たちが地方の議員にまで指示を出し、何をすべきかも全て決めてしまう。結果として、自分で政策やポリシーを持たない人たちの集団が地方議会になってしまいました。
企業も全く同じ状況です。国や会社が決めたことに従って仕事をしていれば、それなりに可愛がってもらえる仕組みができました。これが日本の原点だと考えています。
「勤労者」ではなく「勤労屋」
Q: 日本の社員を「勤労者」ではなく「勤労屋」と表現されていましたが、その意味を教えてください。
日本の社員は本気で勤しんで仕事をしているわけではなく、「仕事をしたつもり」「仕事をしたふり」をしている人だと思っています。自分で考えずに、会社や上司から降ってくる仕事を言われた通りに、疑問も持たずにやる。
具体的には以下のような特徴があります:
- 独自性よりも横並びを意識する
- 成果や業績よりも努力を重視する
- 自ら考えるよりも前例を大事にする
- 合理性よりも常識を重視する
例えば「この仕事は意味がない、別のやり方の方がいい」と思っても、「やればいいんだよ」という考え方です。皆と同じことをし、常識に逆らわず、たとえ結果が悪くても頑張ったから許してもらえる社会になっています。
日本のサービス過剰の実態
Q: 日本のサービス過剰の例を挙げてください。
日本では無意味な慣習が多く存在します:
- 駅構内のアナウンスは本当に必要なのか?テープでいいし、そもそも必要ないかもしれない
- 忘れ物に注意というアナウンスも、降りた後に言われても意味がない
- 営業後のお礼状は売上に貢献しているのか?
- 懇親会や年賀状交換会はいつも会っている人に対して必要なのか?
- クライアントの近くに来たからという理由だけで訪問する習慣
- 上司を連れて訪問することで、二人分の時間を無駄にしている
これらは何も考えずに「みんながやるからやっている」だけのことです。行動と合理性の軸で考えると、成果の可能性が小さいことはやらなくてもいいはずなのに、横並び意識で何でもやってしまうのが日本の特徴です。

完璧主義がもたらす問題
Q: 日本の完璧主義は企業活動にどのような影響を与えていますか?
日本企業は「勤労屋」体質で動いています。例えば不良品について考えてみましょう。欧米の小売店では不良品率がそこそこ高いですが、返品すれば問題ないという考え方です。しかし日本では不良品率を0.1%まで下げるために検品や品質管理に膨大な時間をかけます。これによって得られる利益は0.9%の向上だけなのに、労働時間は20%も増加します。コストとリターンのバランスを考えれば、このような活動は欧米なら行わないでしょう。
他にも、曲がったキュウリを市場に出さないために農家が手間をかける例や、薬の箱が汚れているだけで文句を言う日本の消費者の例もあります。海外では「ジャパニーズグレード」と言って、日本人向けの荷物は特別に丁寧に扱うそうです。
また、日本のポテトチップスメーカーは年間40種類もの新商品を出しますが、売上は増えません。一方、海外のプリングルスやキットカットは3~4種類のみで100年続いています。
日本の強みか弱みか、そしてこれからの方向性
Q: 日本のこだわりは強みにもなりえるのでしょうか?またどう変えていくべきですか?
この異常なこだわりが日本の強みになる面もあります。不良品を許さない姿勢は自動車など事故が起きてはならない製品で評価されますし、多様なお菓子は観光客にも喜ばれています。
しかし、対価を取るべきだと思います。例えば「うちは3種類しか商品を出しません。その代わり開発投資も少なく、営業マンも少なくて済むので60円で提供します」という会社と、「たくさんの種類を出すので100円です」という会社があれば、消費者は選択できるはずです。
「静かな退職者」は勤労屋の対極にあります。勤労屋は成果より横並びを重視しますが、静かな退職者はまさにそこを変える存在です。年齢に応じて適切な給与で長く働ける社会を作ることで、高齢化社会の人手不足解消にもつながるでしょう。
「損する部分があっても得する部分がある」という関係を作り、仕事ができる限り何歳まででも働ける仕組みを作ることが重要です。