
トランプ政権はウクライナ支援を打ち切るのか?
トランプ政権のウクライナ政策と日本の対応 - 米国の中国重視シフトは確実
トランプ政権の外交防衛戦略は中国を最優先課題とし、欧州への関与を減らす方向に動いている。その中でウクライナ支援はどうなるのか、日本はどう対応すべきか。米ハドソン研究所の村野将上席研究員が解説する。

トランプ政権はウクライナに「揺さぶり」をかけている
Q: トランプ政権はウクライナへの支援をどうしていくのでしょうか?
トランプ政権による一時的な支援停止は、ウクライナ側に対する「揺さぶりのカード」の一つだと考えられます。ウクライナへの軍事支援が一時的に停止されただけでなく、情報面での提供も中止されるというニュースが入ってきています。
情報提供の停止は様々な分野で支障が出てきます。例えばロシア軍の位置情報など攻撃目標に関する情報や、ロシア側のミサイルや無人機がどこから飛んでくるかという早期警戒情報などが得られなくなると、ウクライナの攻撃効率や防空能力が低下します。
結果として前線の兵士の犠牲が増えるだけでなく、民間人への攻撃に対する迎撃も困難になり、民間人の犠牲者が増える可能性があります。そうなるとゼレンスキー大統領も強気で戦い続けることが言いづらくなり、いずれ停戦合意に向き合わざるを得なくなるでしょう。
ただし、最近の情報によると、ゼレンスキー大統領がトランプ大統領との会談で合意できなかった鉱物資源に関する約束に再度合意する姿勢を示し、停戦交渉にも前向きな姿勢を示しています。この合意次第では、部分的な軍事援助や情報提供が継続される可能性も残されています。
欧州は「リアーム(再武装)」への決意を固めつつある
Q: ゼレンスキー大統領とトランプ大統領の会談はなぜ破綻したのでしょうか?
ゼレンスキー大統領が感情的になって会談が破綻したというよりは、支援する側とされる側という関係性の中で、トランプ大統領とバンス副大統領の機嫌を損ねてしまったことが原因です。ゼレンスキー大統領は自分たちの立場を通そうとしたのでしょうが、結果として会談が破綻することになりました。
その後、ゼレンスキー大統領はロンドンでスターマー英首相など欧州各国の指導者と話し合いを行い、トランプ政権との関係を仕切り直す決断をしたようです。
Q: 今後、欧州はアメリカに頼らない防衛体制を考え始めるのでしょうか?
欧州は徐々に第2のオプションとして自立した防衛体制を考え始めています。欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長は「リアーム(再武装)」という言葉を明確に使い、欧州側の再武装に取り組み始めています。
本来、欧州諸国とウクライナが考える最善のシナリオは、米国が従来通りあるいはこれまで以上の支援を続け、その間に欧州側の支援割合を徐々に増やしていくという緩やかな移行でした。しかし、トランプ政権がウクライナ戦争を早く終わらせて中国シフトを明確にしようとしていることに、欧州側は危機感を持っています。
欧州の軍事産業は戦争の間に生産ラインの拡大に取り組んでいますが、満足のいく支援拡大には相応の時間がかかります。米国の支援が早く引いてしまうと、ウクライナがより劣勢に立たされる可能性があります。

支援停止は「欧州に本気で自らを守らせるため」の戦略
Q: ウクライナへの支援を徐々に減らしていくのは規定路線なのでしょうか?
それは間違いないでしょう。本気で支援を減らしていくことを示さないと、欧州諸国が本気にならないというのがトランプ政権の認識です。ポーランドのような一部の国は自国の経済規模に対して十分な防衛努力をしていますが、ドイツやフランスなどの努力はまだ足りないと考えられています。
アメリカの援助に甘えているからこそ欧州が本気にならないという認識が、トランプ政権には強くあります。「本気で引くぞ、自分たちでやらないと困るのは自分たちだ」ということを態度で示すことで、欧州が自分で自分のことを守る体制に持っていきたいと考えています。
そしてアメリカとしては、早く欧州から手を引いて中国に備えるシフトを本格化させたいというのが、この政権の狙いです。
米国防予算は抑制傾向、「世界同時紛争リスク」に備えられない
Q: アメリカが中国に集中したい背景には何があるのでしょうか?
アメリカの防衛予算はGDP比で減少傾向にあり、両面作戦(欧州とアジアの両方での同時対応)をする余裕がなくなっています。通常戦力に関してはその通りであり、核戦力についても中国は2030年代半ばには現在の米国とロシアに匹敵する核弾頭保有数を達成すると見られています。
アメリカは核武装した2つの大国、ロシアと中国を同時に相手にする状況に直面しており、割り当てられる通常戦力には限りがあります。理論的には米国が防衛予算を増やして2正面に同時対処できる戦力を回復させることが理想ですが、議会も政府も劇的な防衛予算の増額を許してきませんでした。
それは世論が防衛費の拡大を認めていないためです。イラク・アフガニスタン戦争の傷跡や「アメリカは世界の警察をやめるべき」という意見があり、防衛予算は現在のGDP比3%程度から急激には伸びない状況です。
Q: 世界同時紛争リスクというのはどのようなものでしょうか?
アメリカの戦略コミュニティでは、複数正面での紛争に同時対処できる能力がない中で、そのような事態が発生した場合の対応が真剣に議論されています。
例えば、ウクライナ戦争が続いている中で台湾有事が起きた場合、あるいはウクライナ戦争でアメリカと同盟国のリソースが消費された後に台湾有事が起こった場合に、どれだけの負荷がかかるかという問題があります。
また、台湾有事と朝鮮半島有事の連動も議論されています。北朝鮮が中国からの指示で陽動行動をするという見方もありますが、専門家の間では「北朝鮮は中国の言うことをそれほど聞くわけではない」という反論もあります。
歴史を振り返ると、第二次世界大戦時の日独伊三国同盟のように、敵国同士が密接に連携を取っていなくても、結果として複数の戦域で同時に戦争が起きることはあります。この「世界同時紛争リスク」のメカニズムについて、より詳細な分析が必要とされています。

日本は中国に対抗するための「絶対に落としてはならない基盤」
Q: 日本もウクライナのように見捨てられる可能性はあるのでしょうか?
それは単純化しすぎです。欧州の専門家からは「今はアジア重視と言っているが、将来お前たちも同じ問題に直面するかもしれない」という警告がありますが、状況を冷静に見る必要があります。
欧州とアジア、ウクライナと台湾、日本とポーランド、中国とロシアは確かに似ている部分もありますが、完全に同じわけではありません。共通点に注目しがちですが、相違点も同じくらい指摘できます。
現在のトランプ政権が戦略的優先順位としてアジアと中国を重視し、欧州とロシアの優先順位を下げているのは紛れもない事実です。この違いはしっかり認識しておく必要があります。
Q: アメリカは日本に対してどのような期待を持っているのでしょうか?
アメリカはアジアの同盟国、特に台湾と台湾の後ろ盾である日本に対して大きな期待を持っています。日本はアメリカが台湾防衛作戦を行う際に「絶対に落としてはならない基盤」であり、日本がどれだけ踏みとどまれるかがアメリカの世界戦略にとって非常に重要です。
従来のアメリカのアジア政策は日本と韓国を同様に扱ってきましたが、中国対処となると韓国が台湾有事の際に役立つかどうかについては不安視されています。そのため、トランプ政権では「韓国は当てにならないから放っておいて、日本をしっかり抑えておかなければならない」という考えが強くなっています。
コルビー氏(国防次官補候補)も指摘していますが、中国の台頭によって困るのは台湾と日本自身です。だからこそ、アメリカに言われるかどうかに関わらず、自分たちのために防衛努力を増やしていくのは当然のことだと考えられます。GDP比3%程度の防衛予算は、自分たちが最も困るという現実を踏まえれば、自然な対応といえるでしょう。
現在のウクライナ戦争を将来の備えに活かすという視点も
Q: 最も恐れるべきシナリオは何でしょうか?
最悪のシナリオは、ウクライナ戦争の長期化でアメリカがリソースを使い果たし、台湾有事に備えられなくなることです。
しかし、前向きな可能性もあります。ウクライナ戦争を通じて欧州諸国が本腰を入れて戦争の拡大に備えなければならないという認識が高まりました。実際に欧州で戦われている戦争を通じて、欧州とアメリカの防衛産業が装備生産能力を強化することで、欧米とその同盟国の結束が強まり、将来の台湾有事に備える態勢が整う可能性もあります。
両方のリスクに備えつつ、現在の戦争を将来の備えにどう活かすかという視点も重要です。
