
改悪説の根源?iDeCo受給時の罠【竹川美奈子】
iDeCoは「解約」されたの?受け取り方のルール変更で何が変わるのか
老後の資産形成の有力な選択肢として注目されている個人型確定拠出年金「iDeCo」。最近「iDeCo解約」という言葉がSNSで話題になっていますが、実際には何が変わったのでしょうか?税制の仕組みや受け取り方の注意点について、竹川美奈子氏に聞きました。
iDeCoは非課税ではなく課税繰延の制度
Q: そもそもiDeCoはどのような制度なのでしょうか?
多くの人がiDeCoを非課税制度だと誤解していますが、正確には「課税の繰延」制度です。掛け金を拠出する時に所得控除の恩恵を受けられ、所得税や住民税が安くなります。また、運用している間の運用益も非課税です。その代わり、受け取る時には元本も含めた全額に対して課税されます。
つまり、現役時代に税金の支払いを減らし、リタイア後の収入が低くなった時に課税されることで、トータルでの税負担を軽減する仕組みになっています。多くの人にとっては現役時代の方が収入が高く、税率も高いため、結果として得になるケースが多いのです。

「解約」とは何のこと?受け取り時のルール変更
Q: SNSで話題になっている「iDeCo解約」とは具体的に何のことですか?
所謂「解約」というのは、iDeCoを一時金で受け取る際の税制ルールの変更を指しています。一時金で受け取る場合、「退職所得控除」という制度があり、その控除額の範囲内であれば税金がかかりません。
この退職所得控除額は、加入年数に応じて計算され、20年以下だと1年あたり40万円、20年を超えると1年あたり70万円ずつ増えていきます。例えば、40年加入していれば2,200万円の控除が受けられます。
これまでは、iDeCoなどの一時金と会社の退職金を「前年以前4年以内」に受け取った場合は、退職所得控除の枠を共有するルールでした。今回の改正では、この期間が「9年以内」に延長されました。つまり、iDeCoの一時金を60歳で受け取り、その後65歳で退職金を受け取るような場合、これまではそれぞれ別々に退職所得控除を利用できましたが、この改正後はそれができなくなるということです。
受け取り方は3つ、どれがお得?
Q: iDeCoの受け取り方にはどのような選択肢がありますか?
iDeCoの受け取り方は大きく3つあります:
1. 一時金で受け取る: 元本と運用益を含めて1回で受け取る方法です。退職所得控除が適用され、控除額を超えた金額の1/2に対して課税されます。
2. 分割で受け取る: 年金形式で5年から20年の間で自分で期間を選択し、分割で受け取る方法です。「公的年金等控除」が適用され、その年の収入に応じた所得税と住民税がかかります。受け取り頻度は金融機関によって異なり、毎月・隔月・年1回など選択できる場合があります。ただし、受け取る度に手数料(約400円程度)がかかるため、回数が多いほど便利というわけではありません。
3. 一部を一時金、残りを分割: これらを組み合わせる方法もあります。
どの方法が有利かは、退職金の額や他の収入状況によって異なります。退職所得控除額の範囲内であれば一時金で受け取る方が有利ですが、その額を超える場合は分割で受け取った方が税負担が少なくなる可能性があります。

改正で不利になるのはどんな人?
Q: 今回の改正で影響を受けるのはどのような人たちですか?
まず、多くの人にとっては今回の改正はそれほど大きな影響はありません。特に以下の人々は影響をほとんど受けません:
- 退職金とiDeCoの合計が退職所得控除額(40年勤務なら2,200万円)を超えない人
- 退職金を受け取る時期とiDeCo一時金を受け取る時期が10年以上離れている人
- 分割で受け取る予定の人
一方、影響を受けるのは主に以下のような人々です:
- 大手企業に勤め、高額な退職金がある人
- 60歳でiDeCo一時金を受け取り、65歳などの近い時期に退職金も受け取る予定の人
ただ、全体として見れば、今回の改正によって不利になる人はごく一部に限られています。むしろ、掛け金の上限が引き上げられるなど、iDeCo制度全体としては改善された部分の方が多いと言えるでしょう。

Q: iDeCoや企業型DCの現状における課題は何ですか?
最大の課題は、転職や退職時の資産の持ち運びに関する問題です。企業型DCに加入していた人が転職する場合、本来は半年以内にiDeCoなどに資産を移す必要がありますが、それを行わない「放置」するケースが非常に多いのです。
国民年金基金連合会のデータによれば、100万人以上が手続きをせずに自動的に資産が移管されており、そのうち52万人は残高が0になっています。残りの66万人も資産が残っていますが、これらは現金化されて運用できず、加入年数にもカウントされません。さらに手数料も高く、4,300円程度の移管コストがかかり、その後も毎月手数料が引かれていきます。
この「放置」された資産は全体で約2,800億円にも上ります。多くは1人当たり25万円以下ですが、中には100万円以上残している人も10%以上います。
Q: NISAとiDeCo、どちらを優先すべきですか?
どちらを優先するかは個人の状況によって異なります。以下のような点を考慮するとよいでしょう:
- 公的年金や企業の退職給付制度の充実度: これらが手薄な自営業やフリーランス、企業年金のない会社員などはiDeCoを優先的に検討する価値があります。
- 資金の流動性ニーズ: iDeCoは60歳まで引き出せない仕組みです。急な出費に備える必要がある場合はNISAの方が柔軟性があります。
- 税制メリットの活用: 所得税率が高い人ほどiDeCoの所得控除による節税効果は大きくなります。
- 投資の自己管理能力: NISAでは自分で投資判断をする必要があり、感情的に売買してしまうリスクもあります。iDeCoは60歳まで引き出せないため、長期運用が強制される利点もあります。
理想的には、まず緊急資金を確保した上で、NISAとiDeCoを併用するのがよいでしょう。特に毎月1〜2万円程度の少額から始める場合は、退職所得控除の範囲内で収まる可能性が高いiDeCoから始めるのも一つの方法です。

資産管理の意識を高める
Q: 老後の資産形成に向けて、普段からどのような意識を持つべきですか?
私たちは自分のキャリアだけでなく、お金についても「自分株式会社」を経営するようなマインドを持つべきです。具体的には、年に1回は「自分の資産の決算」をすることをお勧めします。
この「決算」では、金融資産だけでなく、公的年金や企業年金など将来受け取る予定の年金資産も含め、どこに何があるのかを把握します。同時に、住宅ローンなどの負債も確認し、全体のバランスを見ながら今後の資産形成計画を考えることが大切です。
特に転職が当たり前になってきた現代では、会社に頼りきりではなく、自分で年金や保険、納税などを管理する意識が不可欠になっています。NISAで何を買うかという投資の詳細も大切ですが、まずは公的年金、企業の退職給付制度、そして自分で準備する部分をトータルで考え、老後資金を増やしていく意識を持ちましょう。
