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ホンハイは日産を買うのか?ダークホースはNVIDIA
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2025年2月14日

ホンダとの経営統合破談を発表した日産。今後、ホンハイとの関係を深めるのか?買収もありうるのか?ホンハイに詳しいフリージャーナリストの杉本りうこ氏にホンハイの思惑と今後のシナリオを聞いた。
ホンハイは本当に日産を買うのか?テリー・ゴウの流れを汲む現CEO・ヤング・リューの野望
売上高30兆円、従業員100万人を超える台湾の巨大企業ホンハイ。Appleの製造パートナーとして知られる同社が、経営危機に直面する日産との統合交渉を破談したことが発表された。しかし、この話の裏には何があるのか?フリージャーナリストの杉本りうこ氏に詳細を聞いた。

買収ではなく「業務提携」と「投資」の可能性
Q: 日産とホンハイの経営統合が破談したことが発表されましたが、今後両社の関係はどうなる可能性がありますか?
ホンハイのCEOが語った内容を基にすると、買収そのものは現時点では考えにくいようです。しかし注目すべきは、ルノーと日産株について話し合いを進めているという点です。買収ではなく、業務提携が主軸になるとしています。
興味深いのは、ホンハイCEOが「複数の日本の自動車メーカーと話している」と明言し、その対象に日産だけでなくホンダも含まれていると述べた点です。さらに、今後12ヶ月の間に具体的な発表ができるだろうとの見通しを示しています。
また、買収の意思はないとしながらも「資本を使う」「投資はする」と表現しており、日本の自動車メーカーとの協業において資本出動する意向を示しています。
可能性としては、最もシンプルな形での業務提携が考えられます。次に可能性が高いのは、日産が今後カーブアウト(切り離し)する可能性のある資産、例えばアメリカの工場や海外・日本の工場を部分的に買収するというシナリオです。

シャープの教訓と現CEOの野望
Q: シャープの場合も最初は業務提携から始まり、後に買収へと発展しました。日産も同様の道をたどる可能性はありますか?
その可能性は十分にあると思います。ホンハイは日産の厳しい経営状況をよく理解しています。日産がホンハイから得たいのは財務的な支援であり、単なる業務提携ではなく、より踏み込んだ関係性が必要になる可能性が高いでしょう。
ホンハイの財務状況を見ると、2023年末時点で約1.2兆円のフリーキャッシュフローがあります。日産の時価総額が約1.5兆円ですから、手元資金と金融機関からの借り入れを組み合わせれば、金額的には日産を買収することも不可能ではありません。台湾の金融機関は対日投資に非常に積極的な姿勢を示しています。
ただし重要なのは、シャープ買収の経験からホンハイが学んだ教訓です。シャープ買収の失敗は、買収後の距離感にありました。シャープはホンハイ本体から遠い存在となり、シャープに送り込まれた台湾人幹部は、創業者テリー・ゴウの側近的な立場の人々で、必ずしもシャープの経営に適していませんでした。
ホンハイがシャープ買収直後に行ったのは、「役に立たない」と判断した研究開発プロジェクトを次々と中止することでした。しかし、いつ収益に結びつくか分からないが面白い技術に投資することが、シャープのユニークな強みを作ってきたという側面もあります。
この経験から、現CEOのヤング・リューは「日本企業の経営は能力のある日本人にやらせるべき」という強い考えを持っているようです。
注目すべきEV事業の現状
Q: ホンハイにとってEV事業はどのくらい重要なのでしょうか?
ホンハイは投資の対象としてEV事業に非常に力を入れています。自社でフォクストロンという企業を立ち上げてEVを製造し、台湾で販売しています。また、MIHという自動車サプライヤーのプラットフォームを構築し、アメリカのEVスタートアップが持つ工場を買収するなど、生産能力も確保しています。
しかし、現在のEV事業の売上規模はわずか50億円程度と非常に小さいのが現状です。そのため、日産との提携や資産購入、業務提携を通じて、この小規模なEV事業を何とか発展させたいという思惑があると考えられます。
EV事業は2020年に始まったばかりとはいえ、実はホンハイにとって自動車事業は創業者テリー・ゴウの時代からの悲願でした。その理由は、ホンハイのビジネスモデルにあります。AppleのiPhoneやPlayStationの組み立てといった現在の主力事業は利益率が非常に低いため、「大量生産でき、かつ単価が高い」自動車産業への参入を長年望んできたのです。
興味深いことに、2010年頃にはイーロン・マスクのテスラとホンハイの工場でEVを生産する話も持ち上がりましたが、実現しませんでした。
ホンハイの野望実現のカギ:リュー氏と関氏のタッグ

Q: ホンハイのCEOであるヤング・リュー氏はどのような人物なのでしょうか?
ヤング・リュー氏はユニークな経歴の持ち主です。元々アメリカでマザーボードのベンチャー企業を経営していた時に、テリー・ゴウの目に留まって買収され、ホンハイに入社しました。入社後はテリー・ゴウの特別アシスタントのような立場で働いていました。
興味深いのは、リュー氏はホンハイの他の幹部とは異なる点です。多くの幹部はiPhoneやソニーのPlayStationなど、大規模な製造ビジネスを担当した経験がありますが、リュー氏にはそうした経験がありません。しかし、テリー・ゴウがリュー氏を後継者に選んだのは、既存のビジネスにとらわれず、EV、半導体、AIなどの新しい分野に投資判断ができる人材だと考えたからでしょう。
ただし、先述のように現状ではEV事業のインパクトは小さく、そのためリュー氏は日産の元幹部であった関氏を登用し、非常に信頼を寄せています。日産プロジェクトは、リュー氏の成功か失敗かを分ける重要な案件となるでしょう。
ホンハイ×NVIDIA×日産の可能性
Q: ホンハイが単独ではなく他の企業と組んで日産立て直しをする可能性はありますか?
その可能性は非常に高いと思われます。特に注目すべきは、ヤング・リュー氏にとって心強い社外パートナーであるNVIDIAのCEOジェンスン・ファン氏との関係です。両者は非常に良好な関係を築いており、NVIDIAの技術イベントにもリュー氏は参加する予定だと述べています。
ホンハイという企業のDNAを理解するには、そのビジネスモデルを知ることが重要です。ホンハイは徹底した下請け企業であり、例えばAppleのiPhoneを世界中に広めるために、スティーブ・ジョブズとティム・クックの要求を忠実に実行し、自社の負担をいとわずに生産をやり遂げてきました。このパターンはノキア、ソニー、任天堂との関係でも同様でした。
興味深いのは、ヤング・リューCEO時代に成功している事業があることです。それがAIサーバー事業です。NVIDIAのGPUを搭載したAIサーバーを製造し、MicrosoftやDellに販売しています。ホンハイにとってAppleが顧客だったのに対し、NVIDIAはサプライヤーですが、NVIDIAの成長がホンハイにとっても大きな成長機会をもたらしています。
ジェンスン・ファンが2023年のホンハイのイベントで披露したのが「AIファクトリー」構想です。ホンハイが製造する車をバックに、AIを搭載した車が常に工場と繋がり、実走行データがAIで工場に反映されるというものです。販売後も車は進化し続け、次世代モデルもより早いサイクルで改良されるという構想が、ホンハイの事業戦略に取り入れられています。
日産の工場をホンハイが買収した場合、それをプラットフォームにしてジェンスンが考えるAIファクトリー構想を実現する可能性は高いと思われます。
安全保障上のリスクと今後の展望
Q: 安全保障上のリスクも含めて、日本政府や経済産業省はホンハイの動きをどう捉えているのでしょうか?
経済産業省内には二つの見方があるようです。一つは経済安全保障上の懸念があるという見方、もう一つはホンハイこそが日本の自動車業界に新しい風を吹き込む可能性があるという見方です。
ホンハイが中国大陸と関係が深いという指摘については、確かにホンハイは台湾のEMS(電子機器受託製造業)企業の中でも中国に多くの工場を持っています。しかし、その理由は中国共産党との関係が密接だからではなく、AppleがiPhoneの中国市場向け生産能力を求めたからです。
一方で、ホンハイが製造するAIサーバーはMicrosoftやDellが購入しており、両社は米国防総省のサプライヤーでもあります。米国政府のサプライヤーが選定しているホンハイが、本当に安全保障上の懸念があるのかという視点も重要です。
日本では「技術が盗まれる」という懸念が外資への警戒感の根拠として使われることがありますが、過去にTSMCが台頭した際にも同様の懸念が表明され、結果として日本の半導体産業は遅れをとることになりました。こうした過去の経験も踏まえて冷静に判断する必要があるでしょう。
Q: 今後どのようなシナリオや時間軸で展開していくと考えられますか?
ヤング・リューCEOは今後12ヶ月で日本企業との提携に関して何らかの動きがあると明言しています。日産と明言したわけではありませんが、これからの展開が注目されます。
もう一つ重要なファクターは米国政府の動向です。米国政府は台湾企業に対して、中国ではなく米国での投資・生産を強く求めています。TSMCが初めて米国で取締役会を開催するなど、台湾企業の米国シフトが進んでいます。
ホンハイも米国での投資を拡大していく可能性があり、この流れの中で日産との協業も考えられます。トランプ政権下での「MAGA政策」の動きの速さを考えると、今年後半の6ヶ月ほどの間に何らかの動きがあるかもしれません。
米国はホンハイにとって最大の市場であり顧客がいる場所であり、同時に日産にとっても利益の柱です。両社にとって非常に重要な市場であることは間違いありません。