ECONOMICS101
人口減少で激変する日本経済(前編)
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2025年2月11日

人口減少で、日本経済は激変する。リクルートワークス研究所の坂本貴志氏に、これから日本経済に起こる3つの変化を、データを元に予測してもらった。聞き手は第一生命経済研究所 首席エコノミストの永濱利廣氏。
人口減少の日本経済、上がる賃金と拡大する医療産業の未来
日本の人口減少は主要先進国の中でダントツの速さで進行している。しかし、その影響は予想と異なる側面も見せ始めている。人手不足が賃金上昇を促し、インフレを伴いながら経済構造が変化し始めているのだ。人口減少の先に何があるのか?専門家の分析から日本経済の今後を探る。

Q: 日本の人口減少はいつからどのように進んでいる?
日本の人口はすでに2008年にピークを迎え、その後減少に転じている。初期の減少ペースは緩やかだったが、近年になってそのスピードが加速している。
2008年がピークとなった背景には、長寿化の進展がある。平均寿命の伸びが人口を下支えしていたが、出生率の低下がついに人口動態に直接影響を及ぼすようになった。
ただし、最近は外国人労働者の増加が人口減少を部分的に緩和している点も見逃せない。ただし全体として減少トレンドは続いている。

Q: 他国と比べて日本の人口減少はどのくらい特殊?
主要先進国と比較すると、日本の人口減少は「ダントツで早い」と言える。ドイツやイタリアなども出生率低下に悩んでいるが、日本よりも状況は緩やかだ。
日本の急激な人口減少には主に二つの要因がある。第一に出生率の低下、第二に移民受け入れの少なさだ。欧州諸国は移民によって人口減少を緩和しているが、日本はこれまで移民をあまり受け入れてこなかった。
この差は日本の社会・経済政策の選択の結果とも言える。第二次ベビーブーム世代(1971-1974年生まれ)が就職氷河期に直面し、その後の婚姻率・出生率低下につながったこともある。バブル崩壊後の長期経済低迷が人口動態に与えた影響は小さくない。

Q: 人口減少は賃金にどんな影響を与えている?
興味深いことに、人口減少と人手不足は賃金上昇の圧力となっている。特に時給ベースで見ると、2010年代半ば以降、名目賃金は上昇傾向にある。
2010年代半ばまでは名目賃金が停滞していたが、その後は明らかに上昇し始めている。これは労働時間が減少する一方で、時給が上がっていることを意味する。つまり、働く時間は短くなったが、時間あたりの賃金は上がっているのだ。
時給上昇の背景には人手不足がある。企業は人材確保のために賃金を引き上げざるを得なくなっている。特に地方では人材確保のための賃上げ圧力が強まっている。
Q: 地域による賃金上昇の差はあるの?
過去10年間の時給変化を都道府県別に見ると、興味深いパターンが浮かび上がる。東京や大阪などの都市部も賃金は上昇しているが、より大きく上昇しているのは北海道、大分県、秋田県など、元々賃金水準が低かった地域だ。
この傾向は最低賃金の引き上げとも関連している。徳島県では人材流出を防ぐために最低賃金を9%以上引き上げるという大胆な政策を実施した。これは労働者が賃金の高い隣接県へ流出するのを防ぐ狙いがある。
地方の中小企業ほど人手不足に悩まされており、「これでは経営が成り立たない」という声が多く聞かれる。人口減少は地方から始まっており、その影響もまず地方に顕著に現れている。
Q: 実質賃金はどうなっている?
名目賃金は上昇していても、実質賃金はインフレの影響で必ずしも上がっていない。2023年は実質賃金が低下しており、生活実感としても「苦しくなっている」と感じる人が多い。
ただし、エコノミストの予測によれば、2024年後半以降は実質賃金がプラスに転じる可能性がある。これまでの実質賃金マイナスが続くと家計の購買力が低下し、企業側も価格転嫁のペースを落とさざるを得なくなるからだ。
ただし実質賃金の上昇は全ての世代に均等に恩恵をもたらすわけではない。新卒の初任給が大幅に上がる一方で、大手企業が早期退職者を募集するなど、世代間格差が存在している。

Q: 賃金とインフレはこれからどうなるの?
人口減少が続く中、賃金上昇とインフレの傾向は今後も続くと予想される。これは市場メカニズムによる自然な調整だ。
人手不足の状況下では、企業は人材確保のために賃金を上げざるを得ない。これに対応して企業は少ない人数でビジネスを行う方向にシフトし、労働者側は賃金水準の上昇によって労働参加のインセンティブが高まる。
ここ数年の物価上昇はウクライナ危機による資源価格高騰や円安による輸入物価上昇など外的要因が強かった。こうした要因が収まれば、物価と賃金が共に緩やかに上昇する健全な状態に向かうことが期待される。
Q: 日本の産業構造はどう変わるの?
人口減少と高齢化の進展により、日本の産業構造も大きく変わることが予想される。特に医療・介護分野が日本最大の産業になる可能性がある。
この分野ではAIなどによる効率化が比較的難しいため、多くの人材が必要となる。また社会保障負担も増加することになり、経済全体にも大きな影響を与えるだろう。
人手不足が深刻化する中、医療福祉分野だけが拡大していくことの是非は議論される必要がある。医療・介護分野では外国人労働者の割合も増加しており、その影響についても十分な議論が必要だ。
Q: 人口減少に対してどんな対策が考えられる?
人口減少対策として移民受け入れ拡大と出生率向上が挙げられるが、国内労働力の活用余地も大きい。
日本には約2000万人の非正規労働者がおり、適切な政策によってより活躍できる可能性がある。特に、高いスキルを持ちながら定年後に非正規雇用で再雇用され、十分に力を発揮できていない60代男性などの潜在労働力は大きい。
また「年収の壁」により就労を制限している人や、柔軟な働き方を求める女性など、労働参加率を上げる余地はまだ残されている。こうした国内労働力の活用を優先すべきという意見もある。
このように人口減少は日本経済に様々な変化をもたらしている。その影響は単純なマイナス面だけでなく、賃金上昇や産業構造転換など多面的に捉える必要がある。