PIVOT TALK BUSINESS
医療の無駄遣いをまず削減せよ
(60)
5,090回視聴
2025年2月9日

2025年8月からの負担引き上げが予定される「高額療養費制度」。制度改正の問題点は何か?応能負担と相互扶助のバランスをどう取るべきか?国際医療福祉大学の志賀隆教授、産業医の大室正志氏に話を聞いた。 ▼PIVOTアプリなら広告なし、オフライン再生、バックグラウンド再生が無料。視聴ごとに特典と交換でき...
日本は「薬漬け文化」になっている?医療費削減のために変えるべき医療システムとは
コロナ対策で膨れ上がった医療費。その一方で高額療養費制度の見直しにより、現役世代の医療費負担が増えている。本当に削減すべきなのはどこなのか?「低価値医療」という言葉をご存じだろうか。「出来高払い」制度の問題点とは?


Q. 日本はなぜ「薬漬け文化」になってしまったのか?
出来高払い制度が大きな原因だ。日本の医療システムでは、医療行為をすればするほど医療機関の収入が増える仕組みになっている。このため「出してくれる先生が良い先生」という認識が広がり、患者も医師も薬を出す方向に動機づけられてしまう。
患者が「念のため抗生物質を出してください」と言えば、医師は「それは意味がない」と説明するより、処方する方が選ばれる医師になる。薬を出さない医師よりも、出す医師の方が人気があり、結果的に収入も増える仕組みだ。

Q. 風邪に抗生物質は効果があるのか?
風邪のほとんどはウイルス性であり、抗生物質(抗菌薬)は細菌をやっつける薬なので意味がない。むしろデメリットがある。例えば、抗生物質を使用すると腸内の善玉菌が勢力を失い、悪玉菌が増えて偽膜性腸炎などの病気を引き起こす可能性もある。
医学的なエビデンス(科学的根拠)では、風邪に抗生物質は不要と明確に示されている。しかし、医師が「抗生物質は必要ない」と説明すると、患者は「この医師は薬をくれない」と不満を持ち、別の医師を探してしまう傾向がある。
Q. 医療費削減のために何を優先すべきか?
医療費の財源には限りがあるため、「低価値医療」(無駄遣い医療)の削減を優先すべきだ。例えば:
1. 湿布だけで年間1300億円の保険医療費が使われている
2. コロナウイルスの治療薬は若くて持病のない人には不要なケースが多いが、処方されて数千億円の費用がかかっている
3. 風邪に対する不必要な抗生物質の処方
低価値医療を減らし、その財源を本当に必要な治療(がんや心臓病など)に回すべきだという議論が必要だ。しかし実際には、低価値医療の削減という政治的に難しい課題を避け、現役世代の自己負担額を上げる方向に向かっている。
Q. 低価値医療を減らせない理由は何か?
複数の理由がある:
1. 医師会や薬剤師会などの政治力が強い
2. クリニックは薬を出した方が儲かる仕組み
3. 患者自身が「薬をもらいたい」と期待している文化
4. 「お膳立て文化」と呼ばれる日本独特のサービス過剰な考え方
日本の医療文化では、「なんでも出してくれる」医師が人気になる傾向がある。また、日本の薬はサービス過剰で、例えば眠気を抑えるためにカフェインを混ぜるなど複合的に作られている。海外では単剤(一つの成分だけ)の薬を希望する傾向がある。
Q. 高額療養費制度の見直しで何が変わったのか?
現役世代(年収約1650万円以上の人)の高額療養費の上限額が上がり、負担が増えている。特に問題なのは「多数回該当」(高額な医療費を複数回支払った場合の上限額)が上がることだ。
がん治療など長期にわたる高額な治療を受ける患者にとって、自己負担の上限が上がることは大きな問題となる。それによって治療を諦める人が出る可能性もある。
現役世代は保険料を最も多く納めているにもかかわらず、負担も増えるという矛盾が生じている。これに対し、低価値医療の削減(年間数千億円規模)を先に行うべきという意見がある。
Q. 日本の医療制度をどう変えるべきか?
「人頭制」(患者一人あたりの予算が決まっている制度)への移行が一つの解決策だ。イギリスやアメリカの一部で導入されているこの仕組みでは、医師は必要のない薬や治療を控える動機づけがある。
また、オーストラリアのような「二階建て保険制度」も参考になる。基本的な医療は公的保険でカバーし、より早く治療を受けたい場合は民間保険で対応するシステムだ。
長期的には、医療政策や公衆衛生に関する知識を広め、世論を喚起することが重要。患者自身も「薬は少ない方が体に良い」という健康リテラシーを高める必要がある。

Q. 他の先進国と日本の医療制度の違いは?
日本はフリーアクセス(どの医療機関にも自由に受診できる)が特徴で、インフルエンザなどで医療機関を受診する頻度が他国より非常に多い。
アメリカは資本主義的な側面が強く、イギリスは待ち時間が長いという問題がある。スウェーデンは社会システム自体が異なるため単純比較が難しい。その中でオーストラリアの二階建て方式は日本が参考にできる可能性がある。
医療予算が有限である以上、「便利に薬がもらえる国」を選ぶか、「がんや心臓病には十分な医療資源を使える国」を選ぶかという選択を、国民的な議論として進める必要がある。