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現場の医師が語る、「高額療養費制度」見直しの問題点
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2025年2月8日

2025年8月からの負担引き上げが予定される「高額療養費制度」。制度改正の問題点は何か?応能負担と相互扶助のバランスをどう取るべきか?国際医療福祉大学の志賀隆教授、産業医の大室正志氏に話を聞いた。 <ゲスト> 志賀隆|国際医療福祉大学成田病院救急科部長/教授 2001年千葉大学卒業。米国メイヨー・...
医療費「高額療養費制度」の変更で自己負担増加、年収による格差が拡大?
現役世代にとって大きな負担増が予想される高額療養費制度の改正。命に関わる治療を受ける場合に、どれほどの自己負担額が増えるのか、専門家が解説します。


Q. 高額療養費制度とは何ですか?
高額療養費制度は、日本の医療保険制度の根幹を支える仕組みです。例えば、現役世代の方が100万円の手術を受けると、3割負担で30万円の自己負担が発生します。これは多くの人にとって大きな負担となるため、月々の自己負担額に上限を設け、それを超えた分を保険が負担する制度です。
この制度があることで、高額な治療が必要になっても、一定の金額以上は負担しなくて済むという安心感があります。がん治療や心臓病、集中治療などの高額な医療を支える重要な仕組みとなっています。
多くの日本人が生涯でがんになることを考えると、ほとんどの人が関わる制度と言えるでしょう。

Q. 今回の制度改正で何が変わりますか?
2023年8月から、高額療養費制度の自己負担限度額が引き上げられました。特に年収の高い層の上昇幅が大きく、年収1,650万円超の方は、これまでの月額25万円から44万円へと大幅に引き上げられています。
この改正は、現役世代を対象としており、75歳以上の高齢者は対象外です。高齢者の方は、年収に応じて最大でも月額9万円の負担で済みます。
Q. なぜこのような改正が行われたのですか?
主な理由は2つあります。
1. 医療費の増大:日本の医療費は年々増加しており、2022年には46兆7,000億円(GDP比8.24%)に達しています。高齢化の進行により、さらなる増加が見込まれています。
2. 医療の高度化:最新の医療技術や新薬の開発により、治療費が高額化しています。特にがん治療などでは、個別化医療が進み、一人の患者に対して1億円を超える治療費がかかるケースも出てきています。
政府としては、財源確保と医療費抑制の両面から、自己負担額を引き上げる判断をしたと考えられます。

Q. この改正によってどのような影響が出ると予想されますか?
1. 治療を諦めるケースの増加:特に現役世代でがんなどの長期治療が必要な患者が、経済的理由から治療を諦めるケースが増える可能性があります。
2. 健康保険組合による格差の拡大:「付加給付」という制度があり、大企業や特定業界の健康保険組合では、高額療養費制度の自己負担額をさらに軽減するサービスを提供しています。この改正により、付加給付が充実している組合とそうでない組合の間の格差が拡大する恐れがあります。
3. 医療機関の受診抑制:自己負担が増えることで、必要な医療を受けない人が増える可能性があります。ランド研究所の調査によると、自己負担額が増えると外来受診や入院が減少する傾向があります。

Q. 付加給付制度とは何ですか?
付加給付制度は、健康保険組合が独自に提供する制度で、高額療養費制度の自己負担額をさらに軽減するものです。例えば、年収1,160万円の方が100万円の手術を受けた場合、通常は29万円程度の自己負担となりますが、付加給付が充実した健康保険組合に加入していれば、実際の負担額が5万円程度で済むケースもあります。
しかし、この制度は全ての健康保険組合で同じように提供されているわけではありません。大企業や特定業界(IT業界など)の健康保険組合では充実していることが多いですが、中小企業や自営業者、フリーランスの方が加入する国民健康保険では、このような制度はほとんどありません。
Q. 健康保険組合の状況はどうなっていますか?
現在、健康保険組合の約8割が赤字状態です。これは主に、高齢者医療を支えるための「拠出金」が増加していることが原因です。多くの健康保険組合では拠出金が収入の50%を超えており、財政状況は厳しさを増しています。
この状況が続くと、付加給付を継続できなくなる健康保険組合も出てくるでしょう。実際に、財政難から解散し、より大きな協会けんぽなどに統合される健康保険組合も増えています。
Q. 日本の医療費の無駄をなくす方法はありますか?
日本の医療費には、まだ削減できる余地があります。例えば:
1. 風邪に対する抗生物質の処方:風邪の多くはウイルス性であり、抗生物質(細菌に効く薬)は効果がないにもかかわらず、処方されているケースが多くあります。
2. 湿布薬:保険適用の湿布薬だけで年間1,300億円もの医療費が使われています。
3. 過剰な受診:日本はインフルエンザなどで医療機関を受診する率が諸外国と比べて非常に高いです。
これらの「低価値医療」や「無駄遣い医療」を削減することが、真に必要な高度医療を維持するために重要です。現在の出来高払い制度から、人頭払いなどの制度に変えることで、医療の適正化が進む可能性もあります。

Q. この制度改正について、専門家はどのように考えていますか?
大室正志氏や志賀隆氏などの医療専門家は、この改正に懸念を示しています。特にがん治療の専門医や公衆衛生の専門家からは、「これはまずい」という声が上がっています。
日本対がん協会の天野理事長は、長期間高額な薬を服用しなければならないがん患者が、生活が立ち行かなくなったり、治療を諦めたりする可能性を指摘しています。
一方で、医療費増大の問題や財源確保の必要性も理解できるという意見もあります。専門家たちは、無駄な医療を削減することが先決であり、その後に負担増を検討すべきだと提言しています。
Q. 今回の改正で一番影響を受けるのはどのような人たちですか?
最も影響を受けるのは、以下のような人たちです:
1. 高収入だが付加給付が充実していない健康保険組合に加入している現役世代
2. 自営業者やフリーランスなど、国民健康保険に加入している現役世代
3. がんなどの長期治療が必要な患者
特に、個人年収が1,160万円以上の方が、がんなどの長期治療を受ける場合、年間の自己負担額は200万円を超える可能性もあります。多数回該当という制度(同一年度内に4回以上高額療養費の対象となると負担が軽減される制度)はありますが、それでも大きな経済的負担となります。
今回の改正で、日本の医療制度における「相互扶助」と「応能負担(払える人がより多く負担する)」のバランスが大きく変わりつつあります。