
DeepSeekショックとAIバブルの行方
体感インフレでトランプの矛盾解決!ディープシークがAI市場に与えた衝撃とは
米国の次期大統領に選出されたドナルド・トランプ氏の経済政策には、矛盾点があると指摘されています。一方、AI業界ではディープシークの登場がNVIDIAの株価暴落を引き起こすなど大きな影響を与えています。これらの最新動向について、ジョセフ・クラフトが詳しく解説します。

Q. トランプ氏のインフレ対策には矛盾があるのでしょうか?
トランプ氏には「333制作」という目標があります。これは安倍政権のアベノミクスの3本の矢のようなもので、「減税」「関税」「不法移民の退去」の3つが柱となっています。しかし、これらの政策は全てインフレを助長する可能性があるにもかかわらず、トランプ氏はインフレを削減すると約束しています。
この矛盾を解消するカギとなるのが「体感インフレ」という概念です。なぜ民主党が敗北したかというと、インフレに対する国民の不満が大きかったからです。バイデン政権はCPI(消費者物価指数)が4%から3%、2.5%と下がっていることを根拠に政策の正しさを主張していましたが、実際に国民が日常生活で体感するインフレ圧力は異なっていました。
国民は毎日の生活で接する限られた商品の価格に敏感です。特にスーパーでの買い物やガソリンスタンドでの給油など、日々目にする価格の変動が「体感インフレ」となります。大統領選挙直前の9月から10月にかけて、牛乳や牛肉といった日常品の価格が上昇していたことが、国民の不満を高めていたのです。

Q. トランプ氏はどのようにしてこの矛盾を解決しようとしているのでしょうか?
トランプ氏の333制作の3番目にある「原油精算300万バレル」が重要になります。これは現在の原油生産量の約2割にあたります。アメリカ人が毎日目にする価格として最も大きいのがガソリン価格です。この価格だけでも下げることができれば、「インフレが和らいだ」という感覚を演出できる可能性があります。
全体的なインフレは高止まりするかもしれませんが、ガソリンや牛肉といった目に見える商品の価格を下げることで、中間選挙までなんとか持たせたいという狙いがあるようです。ガソリン価格が下がれば、全体的なコストも多少緩和されます。例えば、ミルクの搾乳に使う機械のエネルギーコストが下がれば、その価格にも多少反映される可能性があります。
また、家賃についても国民の負担として大きいものですが、これは毎日目にするものではなく年に1回の支払いであるため、「体感インフレ」としての影響は限定的です。ただし、大統領令で家賃を一定程度凍結するといった対策も可能性としてはあります。

Q. ディープシークの登場はAI市場にどのような影響を与えたのでしょうか?
ディープシークの登場はAI市場にとって「ゲームムーバー」ではあるものの「ゲームチェンジャー」ではないと考えられます。ディープシークの開発コストは600万ドルと報告されていますが、実際はもっとかかっているとの見解が一般的です。例えば、OpenAIのAIを使って自社のディープシークを改良することもコスト負担となります。
しかし、今のチャットGPTよりは安いことは間違いなく、低価格でこれだけの質の高いものを提供したことは、AI産業、特にアメリカのAI開発者たちが触発されて、より効率的な開発に進むきっかけになるでしょう。ディープシークの登場によって選択肢が増え、開発のスピードや考え方が大きく変わることに貢献するという意味で「ゲームムーバー」と言えます。
一方で、AIの基本的な状況を根本から変えるほどではないため、「ゲームチェンジャー」とまでは言えません。オープンソースであるため中身が見られることから、開発のスピードや方法が変わり、AIの流れを進めるという意味では大きな影響があります。

Q. NVIDIAの株価暴落はディープシークと関係があるのでしょうか?
日本時間で火曜日、NVIDIAの株価が17%暴落し、時価総額で5890億ドル(約92兆円)が吹き飛びました。これはトヨタの時価総額(46兆円)の約2倍に相当する巨額の損失です。
過去の1日での時価総額下落トップ10を見ると、全て2022年以降、つまり過去3年間で起きており、そのうち8件がNVIDIAに関するものです。これは、NVIDIAの株価が異常なほど高騰していたことを示しています。ボラティリティ(価格変動性)が非常に高いため、少しのニュースでも大きく株価が動く状況になっていたのです。
この下落の背景には、DeepSeekの登場により、期待していたほどAI半導体の需要が高まらないのではないか、あるいは高額・高品質な最先端AI半導体は必要ないのではないかという現実認識が市場に広がったことがあります。NVIDIAの株価が現実に戻りつつあるということでしょう。
Q. AI市場の今後の展望はどうなっていくのでしょうか?
AI市場は目まぐるしく変化しています。ディープシークのコストの安さが注目されましたが、実はすでにAI市場ではコスト削減の波が見られており、言語モデル(LLM)のトークンコストは1〜2年で100分の1になっています。
これまでアメリカ企業は潤沢な資金を背景に、コストを度外視して開発を進めてきましたが、中国勢がより効率的な方法を示したことで、アメリカ企業にとって良い刺激となりそうです。これからより効率的な開発が進むことが期待されます。
また、OpenAIが発表したAIエージェントのような新しい技術も登場し、AIの進化は一つの道ではなく、様々な方向に広がっていくでしょう。そのため、市場の不透明さはありますが、新たな成長局面を迎える可能性も高いと言えます。
AI業界は良くも悪くも非常に注目に値する分野であり、今後も目が離せない展開が続くでしょう。
