
徹底解説:NVIDIAのAI戦略。Agentic AIからPhysical AIへ
NVIDIA CES 2025発表の核心:「AIの未来は物理世界へ」アルゴマティックCO大野峻典が解説
NVIDIAのCES 2025での発表は、単なる新製品紹介を超えた大きなメッセージを含んでいた。「AIが新しい世界の基盤になる」というビジョンを掲げ、その進化の道筋を示した同社の戦略を、AIプロフェッショナルの視点から紐解いていく。

Q. NVIDIAのCES 2025発表で最も伝えたかった核心メッセージは何ですか?
AIが新しい世界の基盤になるということだ。従来のコンピューティングが「人が手書きしたコード」をCPUで実行する形だったのに対し、今後はAIによって高度な処理が行われる世界へ移行していく。
これはChatGPTのような対話型AIを考えれば分かりやすい。あらゆる質問パターンに対する回答を事前に記述することは不可能だが、AIは高度なロジックで適切な応答を生成できる。こうした「記述しきれない柔らかいパターン」をソフトウェアで実現できるようになることが、コンピューティングの大きなシフトを意味している。

Q. AIの技術的発展における「スケーリング則」とは何ですか?また最新の進化は?
スケーリング則とは「スケール(規模)を大きくすればパフォーマンスが向上する」という法則だ。AIの革命は複数のステップで起きており、その変遷を追うことができる:
1. プリトレーニングスケーリング:事前学習において大量のデータとパラメータを増やす
2. ポストトレーニングスケーリング:人間やAIのフィードバックを反復的に与えてチューニングする
3. テストタイムスケーリング(推論スケーリング):AIが考える時間を増やすことで賢くなる
特に最新の「推論スケーリング」はOpenAI o1などで見られる手法で、AIが思考プロセスを深めれば深めるほど性能が向上する。これにより、GPUの需要は今後もさらに拡大していくことが予想される。

Q. NVIDIAがAI導入を容易にするために提供している「キット」について教えてください
NVIDIAは複数のソフトウェアキットを提供しており、それぞれ異なる目的がある:
- NIMS:よく使うAI機能(画像認識、音声認識、文章生成など)をコンテナのようなまとまりで提供し、誰でも簡単に使い始められるようにしたもの
- NEMO:「AIエージェントのオンボーディング」を支援するフレームワーク。企業がAIエージェントを活用する際に、自社の専門用語や事業内容を学習させたり、ガードレールを設定したり、パフォーマンスを評価したりする機能を提供
- Blueprints:AIアプリケーションのテンプレート群
- Llama Neotron:企業がカスタマイズしやすいように小型から大型まで揃えた言語モデル
これらは、空洞(CUDA)などNVIDIAが長年培ってきた開発環境エコシステムの延長線上にあり、AIの導入ハードルを下げる重要な戦略になっている。

Q. 「クラウドのみならずあらゆる端末で動くAI」というトレンドの意義は?
これまで大規模なAIモデルはクラウド上のGPUクラスターで動かすことが前提だったが、今後はスマホ、PC、車、ロボットなど様々なデバイスで動作できるようになる。
このメリットは複数ある:
1. ネットワーク接続がなくても動作する(自動運転が山奥でも機能するなど)
2. 応答速度の向上(クラウドを介さないため)
3. 開発・導入のハードルが下がる(個人や小規模チームでも試せる)
これは10年前には容易に予測できなかった進化だが、パーソナルコンピュータからスマートフォンへの流れに続く、コンピューティングの自然な進化とも言える。

Q. プロジェクトDGXについて詳しく教えてください
これは「世界最小クラスのスーパーコンピュータ」と捉えるべきもの。これまでサーバールームに設置し、数百万円必要だったマシンセットが、デスクトップサイズで3,000ドル(約30万円)から購入できるようになった。
特徴としては:
- コンパクトさ(デスクの上に置ける)
- クラウド不要(一度購入すれば継続的なサブスクリプション費用がかからない)
- 手頃な価格(研究機関や中小企業でも導入しやすい)
これはパーソナルコンピュータの登場に似た革命と言え、大規模AIを動かすための計算能力が個人レベルで手に入る時代の到来を告げている。
Q. NVIDIAが提唱する「フィジカルAI」とは何ですか?なぜ重要なのですか?
NVIDIAはAIの進化を4段階で説明している:
1. パーセプションAI(認識系AI):画像認識、文章理解、音声認識など
2. ジェネレーティブAI(生成系AI):画像、文章、音声の生成
3. エージェンティックAI(自律行動系AI):認識して考えてアクションプランを立てて行動する
4. フィジカルAI(物理世界対応AI):物理空間を観測し、物理世界で行動する
フィジカルAIは、クラウドやAPI上の情報空間で動くエージェンティックAIと異なり、ロボットアームや自動車など物理的なツールを使って実世界で動作する。これは情報空間に閉じていたAIが物理空間に出てくる大きな進化を意味する。
Q. フィジカルAI実現のための技術的課題とその解決策は?
フィジカルAI実現の大きな課題は「リアルなデータの不足」だ。例えば人型ロボットの開発では、人間の目の視覚情報や手足の動きなどのデータが必要だが、そうしたデータは基本的に存在していない。
この課題を解決するためNVIDIAが提案したのが「Cosmos」という大規模ワールドモデルだ。これは言語モデルがテキストベースの情報空間を理解するのと同様に、物理世界の法則(重力、慣性、摩擦など)を学習したモデルで、物理現象を再現・生成できる。
Cosmosを使えば、限られたリアルデータから多様なバリエーションを生成できる。例えば、晴れの日の自動車走行データから、雨の日や雪の日、工事中の道路、動物が飛び出してくるシナリオなど、様々なパターンを半無限に作り出せる。
これは物理シミュレーション(Omniverse)とAIによる生成を組み合わせた革新的アプローチで、少ないデータから大量の学習データを増幅できる。

Q. これらの技術進化はビジネスにどう影響しますか?
NVIDIAのビジネス領域は、従来のデータセンター向けGPUから、端末向け(スマートフォン、PC、車載機器、ロボット等)へと拡大していく可能性が高い。
また、フィジカルAIの登場により、自動運転や産業用ロボットの開発が加速する。特に注目すべきは、テスラのようにリアルデータを収集している企業の優位性が高まる可能性がある点だ。Cosmosのようなワールドモデルは既存データを「増幅」するものであり、質の高い元データを持つ企業がより強力なポジションを築けるだろう。
チップ市場においては、GPUの強者であるNVIDIAが引き続き優位性を保つと考えられるが、推論に特化した専用チップなど、特定用途向けの新興プレイヤーが台頭する可能性もある。