
CESから見える最先端。クルマのエンタメ化・自動化・電動化
CESから見える最新自動車業界動向:ソフトウェア・エンタメ体験が鍵に
自動車ジャーナリストの川端由美氏が、世界最大級のテクノロジー見本市CESから帰国したばかり。車はもはや移動手段だけでなく、ソフトウェアプラットフォーム、エンタメ空間へと進化している。その最前線を専門家の視点から解説する。

Q. CESでの自動車業界の盛り上がりはどうでしたか?
現地は非常に盛り上がっていました。従来と比べると、自動車がメインではなく、AIが中心的な存在になっています。新しいAIが作る世界観の中に車も含まれるといった印象でした。
自動車メーカーの存在感は以前より少し薄れたように感じましたが、メガサプライヤー(大手部品メーカー)の位置づけは相変わらず強く、将来車に乗ってくる技術を見ると非常に興味深かったです。
Q. ソニーとホンダの合弁会社AFFEELの新車について教えてください
AFFEEL(アフィーラ)は2024年内に販売が始まります。すでにカリフォルニア州では予約受付が開始されており、2025年には購入者に車が届く予定です。
価格は約9万ドル(約1300万円)で、アメリカでは高級車として位置づけられています。これはメルセデス・ベンツのEクラスやテスラのモデルSと同程度の価格帯です。
最大の特徴は「AピラーからAピラー」と呼ばれる、車の前面いっぱいに広がる大型モニターです。テスラのものと比べても非常に大きく、助手席側でスライド操作ができ、左右のミラー部分もモニターで表示されます。
ソニーがコンテンツ企業であることを活かし、エンターテイメント機能が充実しています。アニメやゲームなどのコンテンツが豊富で、ドルビーサラウンドによる高音質も実現しています。また、サードパーティの開発者がアプリを開発できるエコシステムも用意されています。

Q. AFFEEL(アフィーラ)はどんな人に需要がありそうですか?
アメリカではテスラが当たり前になってきており、それとは異なるEVを求める「オルタナティブチョイス」を望む層がターゲットになります。
特に、ゲームや日本のアニメーションが好きな人たちの需要が見込まれます。アメリカにも日本のアニメファンは相当数おり、教育レベルが高い層やテック業界の人々にも人気があります。
また、アメリカでは子どもが15歳まで1人にできないため送迎が必須となっていて、学校の前では「ピックアップ渋滞」が発生します。その待ち時間中にエンターテイメントを楽しみたい親のニーズも狙っています。
Q. ホンダの新シリーズ「Zeroシリーズ」はどのようなものですか?
ホンダは新しいEVブランド「Zeroシリーズ」を発表しました。従来のホンダのロゴとは異なるHマークを採用し、新たなブランドとしての立ち位置を明確にしています。
展示された「Saloon」はスポーツカーのように見えるものの、実際には4人乗りのセダンです。EVの特性を活かして床を低くし、スポーツカーのようなルックスと広い室内空間を両立させています。
もう一つのモデル「Space-Hub」はSUVで、後部が上方に広がる特徴的なデザインが目を引きます。電池を少なめに積んでいるため電費が良く、小さな外観ながら中は広々としています。
日本では報道と異なり、ホンダのEV戦略への意欲は依然として高く、EVシリーズを一つのブランドとして展開していく方針は変わっていません。

Q. トヨタのウーブンシティはどのような進捗状況ですか?
ウーブンシティについては、着実に工事が進んでいるようです。トヨタとしては車という本業とは切り離した形で、社会への貢献や次世代を創出するという意気込みで取り組んでいることが伝わってきました。
規模としては富士の裾野にある工場跡地で、町程度の広さがあります。そこに600〜2000人程度が住むとされ、トヨタのOBやトヨタ関連企業で働く人々が入居者として想定されています。
観客の反応も非常に良く、豊田章男氏への人気も高かったです。発表の際には「アキオコール」のような声援が飛び交うほどでした。
Q. 自動運転タクシーのWaymo(ウェイモ)の進展はどうでしょうか?
Waymoはカリフォルニアでフル自動運転のタクシーサービスとして既に運行を開始しています。また、日本でも2025年に上陸予定で、MKタクシーと組んで東京でサービスを始める予定です。
車両には屋根に回転するセンサーが付いており、日本で走ったら注目を集めるでしょう。カリフォルニア在住の人によると、使い勝手が良く、Uberよりも乗車体験が良いという評価が多いようです。
ライドシェアのビジネスでは人件費が約6割を占めるため、自動運転による人件費削減は大きなメリットになります。また、ライドシェアの苦情は客よりもドライバーからの方が多いという問題もあり、自動運転はプラットフォーム側にとって魅力的な解決策になります。
Q. メガサプライヤーの最新動向はどうなっていますか?
CESではメガサプライヤーがモーターショーよりも力を入れて展示する特徴があります。テック系メディアが多く集まるため、ブランドに関係なく革新的な技術を評価してもらえるからです。
コンチネンタルはもともとタイヤブランドとして知られていましたが、現在はソフトウェア会社へと変貌しています。ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)のソリューションを提供し、エレクトロビットというソフトウェア会社を買収して、ソフトウェアで車を定義する方向へシフトしています。
バレオもフランスのメガサプライヤーとして強力な存在感を示しています。車の中で酔わないゲーム体験を提供するソリューションなども展示されていました。
Q. 車内エンターテイメントの進化はどうなっていますか?
サムスンに買収されたハーマンカードン(JBL、マークレビンソン、AKGなどの高級オーディオブランドを保有)は、車内エンターテイメント体験を大きく変える技術を展示していました。
興味深いのは「乗ると健康になる車」のコンセプトです。心拍や目の動きを感知して緊張状態を検知し、リラックスできる音響や映像を提供するシステムを開発しています。
また、運転席、助手席、後部座席でそれぞれ異なる音を聴ける「ゾーンオーディオ」の技術も紹介されていました。家族それぞれが好きなコンテンツを同時に楽しめる車内空間が実現しつつあります。
こうしたソフトウェア・デファインド・ビークルの技術は2026年から2028年頃には実装されるという回答が多く、予想以上に早く実用化される見込みです。

Q. 今後の自動車業界はどのように変化していくのでしょうか?
EVへの流れは一時的に減速したものの、ソフトウェア・デファインド・ビークルの潮流は加速しています。ハードウェアの成長が微増である一方、ソフトウェア部分は大きく成長し、業界規模は倍増すると予測されています。
車の中が「リビングルーム化」していく中で、日本のコンテンツ産業にとっても大きなチャンスが広がっています。自動車という最大級の産業と、今後成長が見込まれるコンテンツ産業の融合が進むことで、新たな価値創造が期待されます。