
日本人が知っておくべき習近平と中国の行動原理
「中国の行動原理を理解しなければ、対話も協力も不可能になる」元TBS北京特派員が語る日中関係の真実
2025年、戦後80年を迎える日本。隣国中国との関係は、雪解けムードへと変わりつつある今、私たちは中国をどう理解し、どう付き合っていくべきなのか。元TBS北京特派員で中国ジャーナリストの武田一顕氏に、等身大の中国の姿と日中関係の今後について話を聞いた。

Q. 現在の日中関係はどのような状況にあると考えていますか?
2024年は日中関係において雪解けムードが持続するだろう。石破総理の政治生活は田中角栄の派閥事務所から始まっていることが大きい。田中角栄は1972年に日中国交正常化を成し遂げた総理大臣で、中国では「井戸を掘った人」と称されるほど重要視されている人物だ。その弟子とも言える石破氏は中国との関係を悪化させたくないという考えを持っている。
実際、年末には岩谷外務大臣が中国を訪問し、李強首相や王毅政治局員と会談した。さらに両国間でビザの緩和も実現している。私自身も中国のテレビ局から久しぶりに出演依頼を受けた。これまで習近平政権下では日本人を出演させることが難しかったが、最近になって雪解けムードが表れている証左だろう。

Q. 中国の政治や指導者の行動原理を理解する上で重要なポイントは何でしょうか?
中国の政治や習近平国家主席をはじめとする指導者たちの行動原理の根本には「いじめられている」という意識がある。習近平氏は体格が大きく、あまり笑わないため、外から見ると圧迫的な印象を与えるかもしれないが、実は彼らの意識の根底には常に「我々はいじめられている」という感覚がある。
これは1840年のアヘン戦争以降、中国が列強に蹂躙され、領土を奪われてきた近代史に由来する屈辱の歴史だけでなく、もっと古くから中国人のDNAに染み付いているものだ。例えば孔子も実はいじめられっ子の論理を持っていた。孔子は生涯で一度だけ魯という国の大臣になっただけで、政治的にはほとんど何もできなかった人物だ。論語の中の「人知らずして怒らず、また君子ならずや」という言葉は、人に認められなくても怒ってはいけないという教えだが、これは裏を返せば「自分は人に認められなかった」という孔子自身の人生の反映でもある。
こうした「いじめられている」という意識は、現代中国の拡張主義的な行動の背景にもある。尖閣諸島や東シナ海への進出も、彼らにとっては「そうしないといじめられる」という意識から来ているのだ。

Q. トランプ次期大統領の政権下で米中関係はどうなると思いますか?そして日本はどう対応すべきでしょうか?
トランプ氏は「戦争しない大統領」だと中国の上層部では見られている。このため中国に対して政権転覆を仕掛けてこないのではないかという楽観論が出ている。これが危険なのは、習近平氏が余裕を持ってしまうと自制心が緩み、勝手なことをし始める恐れがあることだ。人間は死の恐怖があるときに最高の自制心が働くが、「大丈夫だ」と思った瞬間に緩んでしまう。権力が緩むと怖いというのが2025年の中国を占う上での最大の不安材料だ。
一方で、トランプ氏は対中関税60%を掲げており、経済的な圧力をかける可能性はある。しかし中国側は「ディール(取引)」で何とかなると考えている面もある。「商(ショウ)」という字は中国最古の王朝の名前でもあり、中国人は「商談」「商売」の元祖だと自負している。交渉によって妥協点を見出せると楽観視している部分もあるのだ。
日本としては、米中関係がどうなろうと、中国とは「喧嘩はしてもいいが戦争はするな」という姿勢を貫くべきだ。中国人は議論好きな国民性があるので、どんどん議論し、時には喧嘩もしながらも、決して戦争には至らないよう注意することが重要だ。
Q. 台湾有事は本当に起こり得るのでしょうか?
軍事的に侵攻する能力は中国人民解放軍には現状ない。海を超えて軍隊、特に陸軍を送って占領する能力は世界でもアメリカとわずかな国しか持っていない。台湾はほとんどが崖地形で、そこに攻め込む能力は人民解放軍にはないと考えるべきだ。
ミサイル攻撃については、台湾は「天弓」という防空システムを持っており、ある程度のミサイルは打ち落とせる。台湾海峡封鎖という選択肢もあるが、これは時間がかかる上、世界が黙って見ているとは考えにくい。サイバー攻撃による認知戦は可能性があるが、それだけで占領はできない。
中国は内モンゴルや新疆ウイグル自治区の砂漠地帯に台北の市街地を模した訓練場を作り、侵攻シミュレーションを行っているという情報もあるが、実際に攻めてくるかどうかは別問題だ。中国側にどういう利益があるのかを詳細に分析する必要がある。
Q. 中国の経済状況と今後の見通しはどうでしょうか?
楽観はできないが、ある程度の底を打って、緩やかな回復傾向に出てくる可能性がある。ただし懸念材料としては、トランプ氏も習近平氏も、トップの権力が強すぎるため、トップの気分一つで政策が変わってしまう点がある。
中国はアメリカの動向を見極めるため、しばらく様子見の時間を置き、それからどういう政策を打ち出してくるかが注目点になる。
Q. 日本人として中国とどう向き合っていくべきでしょうか?
「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」という孫子の教えのように、中国のことをもっと理解することが重要だ。中国人がどういう風に考えているのかを知ることから始めるべきだ。
しかし日本では中国のことを理解しようとする人を「媚中派」「中国の犬」などと批判する風潮がある。私自身も石原慎太郎都知事から「支那のスパイ」と言われたこともある。中国には14億人もの人がいて、様々な考え方をする人がいる。その多様な思考形式を理解するよう努めるべきだ。
現在、日本では中国研究者が減少している。これは中国に行けば拘束されるリスクがある一方、日本国内では「中国に媚びている」と批判されるというジレンマがあるからだ。日本の将来のためにも、中国を客観的に研究できる人材の育成が急務だ。
最後に、戦争の恐ろしさを忘れてはならない。戦争では人間はなかなか死なず、体が傷ついて死んでいく過程が最も辛い。安易に「喧嘩」や「戦う」ということを口にせず、どうやって日中関係を構築していくかを常に考え続けることが重要だ。

