PIVOT TALK BUSINESS
ブランディングの誤解。失敗と成功の本質
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2025年1月16日

莫大な投資が行われるブランディング。しかし、その定義は曖昧で、効果が出ない投資も多い。ブランディングの誤解とは何か?ブランディングの目的をどう定義すればいいのか?Strategy Partners代表の西口一希氏に聞いた。
ブランディングの5つの誤解と真の価値
リード文: 「カンヌで評価される広告の多くは、業績に貢献していない」と西口一希氏は指摘する。クリエイターが目指すものと、クライアントが期待することの間には大きなギャップがある。では、真に効果的なブランディングとは何か?

Q. ブランディングに関する最大の誤解は何ですか?
最も大きな誤解はAppleのようなブランドを目指そうとすることです。多くの企業が「Appleのような広告を作りたい」と言いますが、実はAppleの伝説的な広告である「1984」や「Think Different」は、放映された当時の業績向上には貢献していませんでした。
データを見ると、これらの広告がオンエアされた時期には売上成長率が下がっています。実際にAppleが圧倒的に成長したのは、スティーブ・ジョブズが亡くなった後の2012年以降です。広告業界で高く評価され、カンヌ国際広告祭で賞を総なめにしたような広告でも、実際の業績向上には必ずしも結びついていないのです。
この現象が起こる理由の一つは、クリエイターとクライアントの目的のズレです。クリエイターは感動を与え、記憶に残るような作品を作ろうとしますが、クライアントは売上への貢献を期待しています。この認識のギャップが、ブランディングに対する過剰な期待と失望のサイクルを生み出しています。

Q. 効果的なブランディングの第一の目的は何ですか?
効果的なブランディングの第一の目的は、「製品の機能的便益と独自性を伝え、記憶に残して想起しやすくすること」です。ブランディングの原点は「牛の焼き印」のように識別することであり、自社製品の基本的な機能と独自性を覚えてもらい、購買場面で思い出してもらうことが重要です。
例えば、コーヒーを飲みたいと思った時に、スターバックス、ジョージア、ボスのどれを思い出すかは完全にブランディングの成果です。多くの企業がこの基本を忘れ、情緒的価値ばかりを追求してしまいがちです。
BtoBのスタートアップがタクシー広告などを活用する場合も、単にブランド名を連呼するだけでは不十分です。「何をしてくれるブランドなのか」という機能的便益が明確に伝わらなければ、ブランド名だけが記憶に残っても購買には結びつきません。逆に、便益は覚えたがブランド名を忘れてしまうケースもあります。名称と機能的便益を結びつけることが成功の鍵です。
また、大企業のブランドでも、意外と認知度が100%ではないことを認識すべきです。自動車メーカーでさえ、各社の違いが明確に伝わっていないケースが多いのです。

Q. ブランディングの第二の目的とは何ですか?
第二の目的は「機能的便益の上に情緒的・感情的イメージを加えることで、想起をより強くすること」です。これは多くの人が誤解しがちな部分で、情緒的価値だけを追求するのではなく、機能的便益の上に付加価値として情緒的要素を乗せることが重要です。
例えばユニクロは、エアリズムなどの機能的便益を明確に伝えるチラシやPOP広告を展開する一方で、綾瀬はるかさんなどのタレントを起用したイメージ広告も展開しています。ここで重要なのは、機能的価値を落とさずに情緒的価値を加えていることです。機能的価値を伝えるチラシと情緒的価値を訴求するイメージ広告の両方をバランスよく使っているのです。
また、ラグジュアリーブランドは特殊なケースで、機能的価値よりも情緒的・感情的価値が大きな比重を占めています。例えば高級スーツは機能面では一般的なスーツより弱い部分もありますが、デザインやブランドイメージという情緒的価値が主な購買理由になっています。
Q. ブランディングで失敗した経験はありますか?
西口氏はP&G時代にビダルサスーンというヘアケアブランドを担当した時の失敗を語っています。ブランドの復活を目指し、モデルたちが海岸で美しいヘアスタイルを披露する「ファッショナブルな」広告を制作しましたが、売上は全く上がりませんでした。
調査の結果、顧客が実際に求めていたのは「洗い上がりの良さ」や「髪質が変わる感じ」という機能的便益でした。特に「寝癖がつきにくい」という便益に着目し、少しコミカルな広告に変更したところ、売上が大きく伸びました。
この経験から、ラグジュアリーブランドへの憧れから情緒的価値ばかりを追求すると失敗することが多いと学んだそうです。特に日用品のような1,000円前後の商品では、消費者は基本的に機能的便益を求めており、情緒的価値だけでは購買に結びつかないのです。
Q. BtoBの商品にも情緒的価値は必要ですか?
BtoBの商品では、基本的に情緒的価値はあまり重要ではありません。BtoBの顧客は具体的な利益を求めることがほとんどであり、機能的便益を抜きにして情緒的価値に傾倒する理由はほとんどないでしょう。
ただし、うまくいっているBtoB企業が突如として情緒的価値を訴求する広告を始めるケースもあります。しかし多くの場合、売上の伸び率が下がると、また機能的便益を訴求する広告に戻るという現象が見られます。
効果的なブランディングにおいては、自社の置かれた状況やカテゴリー特性を考慮して、機能的便益と情緒的価値のバランスを慎重に設計する必要があります。目的を明確にし、自社の製品やサービスがどのような価値を提供したいのか、どのように売りたいのかという意思が最も重要です。
