政策超分析
自衛隊23万人のトップ・元統合幕僚長が語る日米安保(前編)
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2025年1月14日

杉村太蔵氏をレギュラーコメンテーターに迎え、政策を切り口に社会や経済の問題をどこよりも深く徹底分析する番組。今回は元統合幕僚長の河野克俊氏に日米安保について話を聞いた。 <ゲスト> 河野克俊 |元自衛隊統合幕僚長 1954年北海道生まれ。 1977年に防衛大卒後、海上自衛隊入隊。 2019年の退官...
元自衛隊トップが語る安全保障の「常識論」とトランプ政権下の日米同盟の行方
安倍元総理が最も信頼した自衛官として知られる河野克俊氏。第5代統合幕僚長として3度の定年延長を経験し、異例の4年半の任期を務めた。「自衛隊はポイントポイントで大きく変化を遂げてきたが、私はその全てに関与してきた」と語る河野氏に、安全保障のあり方とトランプ政権下での日米同盟の行方について聞いた。

Q. 自衛隊に入隊された当時と現在では、自衛隊に対する国民の見方はどう変わりましたか?
私が自衛隊に入った1970年代は非常に社会が混乱した時期だった。連合赤軍事件や安田講堂の東大紛争、三島事件など、自衛隊に対して国民からは厳しい目で見られていた時期だった。
それが令和になる直前に退官した時には、世論調査で9割以上の国民が自衛隊を信頼していると回答するようになっていた。自衛隊の悪い時代と良い時代の両方を経験した幸運な自衛官だと思う。
Q. 9.11テロ直後のキティホーク護衛の実態はどのようなものでしたか?
9.11テロの直後、アメリカから「横須賀に停泊しているキティホークを護衛し
てほしい」と要請があった。アメリカはテロで国防総省やツインタワーが攻撃されて、何が起きても不思議ではない状況だった。
ところが当時は日本の法律上、アメリカの空母を護衛する法的根拠がなかった。それで「調査研究」という名目で対応することになった。この「調査研究」は平時に戦争に備えるための調査はできるという根拠だが、人を守るために武器は使えない。
つまり、キティホークが攻撃されても武器を使って守ることはできないという状態で「護衛」したのだ。表向きは護衛するという形を取り、アメリカ側には本当のことは言わなかった。まさに「護衛に見せかける作戦」だった。

Q. その作戦はどのような結末を迎えたのですか?
無事にキティホークを送り出した後、アメリカ側は「ありがとう、君たちこそ真の友達だ」というメッセージを送ってきた。私たちは「バレなくて良かった」と思ったが、実はこの様子がアメリカのゴールデンタイムにテレビで放映されてしまった。
テロで混乱するアメリカ人の前に、日本の自衛隊が護衛艦や哨戒機を配置してキティホークを守るという映像が流れた。アメリカ国民は感激し、「日本は真の同盟国だ」という評価に一変。総理官邸、外務省、防衛省から感謝のメッセージが殺到した。
処分を覚悟していた私たちは一転して称賛されることになったが、この経験から日本の安全保障制度の不備を強く感じた。
Q. 安全保障論の本質はどこにあると考えますか?
安全保障論の本質は「常識論」だ。マニアックな人はミサイルの種類や性能を知っているが、安全保障の基本は常識で理解できるものであるべきだ。イデオロギーや変な理屈を入れると非常にややこしくなる。
安全保障は著名な人でも簡単に理解できるものであるべきで、一般の人が理解できない安全保障論議の進め方は間違っている。安全保障政策は東大の研究室で議論するような難解なものではなく、一般の人が理解できなければおかしい。
Q. 石破総理が提唱するアジア版NATOについてはどう思いますか?
私はアジア版NATOはやるべきではないと明確に思う。多国間の同盟ではなく、二国間で責任関係を明確にすべきだ。平時のネットワークとしてクワッドやオーカスなどはいいが、同盟というのは運命共同体であり、次元が上がる。
NATOを見れば、その中にはハンガリーやトルコなど、ロシアに近い立場を取る国も含まれている。トルコはNATOのメンバーでありながら、ロシアから防空システムS400を購入し、BRICSのパートナー国にもなっている。本当にNATOが一致結束して一つの方向に動くのか、非常に疑問だ。
NATOのことを「No Action, Talk Only(行動なし、話すだけ)」と揶揄する人もいる。多国間ではこうした危うさがあるため、日米同盟のような二国間同盟で責任関係を明確にするほうがベストだ。

Q. トランプ大統領の再選で日米同盟はどう変わると思いますか?
トランプ大統領は第一期目でも「日米同盟は不公平だ」と言っていた。「アメリカがやられたら日本人はソニーのテレビで戦争を見ているだけではないか」という発言もあった。
第二期目のトランプ大統領は世界で一番経験があると自負し、アメリカファーストの姿勢がさらに強まるだろう。議会も掌握し、再選の心配もない。彼の信念である「不平等は絶対に許さない」「アメリカが損をするのは許さない」という方針を貫き通すと思う。
重要なのは、日本が安全保障法制で認めた「限定的な集団的自衛権」の内容をトランプ大統領が詳しく知らないことだ。日本は「アメリカが武力攻撃を受けた場合、日本国民の生命、財産、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」にのみ助けることができる。これはほとんど個別的自衛権と変わらないレベルで、トランプ大統領がこの事実を知れば怒るだろう。

Q. 今後、日本はアメリカとの関係をどう維持すべきですか?
今後はアメリカを引き付けるために、より対等な関係に持っていくべきだ。一つの方法は中距離核ミサイルの分野だ。アメリカに置いても中国には届かないミサイルを日本に配備し、その代わりに発射の意思決定に日本も関与する「核共有」の仕組みを作ることが考えられる。いわゆる日本版「核シェアリング」だ。
日本は恩恵を受けるだけの関係では長続きしない。「私がやられたら来てください、あなたがやられても私は行きません」という不自然な関係は続かない。安倍元総理もこの関係が脆弱性を孕んでいることを認識し、できる限り対等な関係に持っていこうとしたのだと思う。
人間関係で考えれば簡単に理解できる常識的な話なのだ。