PIVOT TALK BUSINESS
日本の外交はなぜ劣化したのか
(60)
3,698回視聴
2024年12月30日

外交官歴40年の元駐豪特命全権大使・山上信吾氏は「日本外交劣化の深刻さは、待ったなしだ」と指摘する。加速する「内向き志向」と発信力の欠如は、誰/何が原因だったのか。 <ゲスト> 山上信吾| 前駐オーストラリア特命全権大使 東京大学卒業後、外務省入省。在英国日本国大使館政務担当公使を経て前駐オースト...
外交官歴40年の元特命全権大使が語る「日本外交の現在地」
日本は国際ブランドとしての価値が高い一方で、中国・北朝鮮・ロシアという核保有国に囲まれ、難しい外交状況に置かれている。40年の外交キャリアを持つ元駐豪特命全権大使の山上信吾氏に、日本外交の現状と課題について聞いた。

Q. 日本の外交の現在地は今どこにあると思いますか?
一言で言うと、非常に難しい時期にある。日本自体は世界的に見て素晴らしいブランドだ。世界のどこに行っても、日本人というだけで好感を持って近づいてくる人が多い。これは戦後の歴史だけでなく、日清戦争、日露戦争以来の近現代の歴史を通じて、日本が示してきた力と同時に思いやり、他者への畏敬の念などが評価されている結果だ。
しかし、良い評価を受ければ必ず敵も生まれる。人間社会と同様、国と国との関係でも妬みや嫉妬は存在する。日本の周りには中国、北朝鮮、ロシアといった国々があり、いずれも日本に対して敵意を秘めているか、それを露わにしている。しかも核兵器も保有している。
このように、日本は国際的なブランド価値を持つ一方で、困難な外交課題に直面している国でもある。だからこそ外交の頑張りが重要になる。

Q. 外交官の仕事をどのように定義していますか?
外交官として40年のキャリアの中で、国の顔として誇りを持って支えたいと思えた首相は中曽根康弘氏と安倍晋三氏の2人だけだ。現在の首相のレベルは、この二人には及ばない。
総理大臣の立ち振る舞いは外交において非常に重要だ。日本人は総理大臣に凛として堂々としていてほしいと思っている。ところが現在の首相は、スマホをいじったり、人が挨拶に来ても立たなかったりする。これは日本人の美徳としても多くの日本人が許せないことだろう。
こうした基本的な振る舞いができないのは、総理大臣の器ではないと言わざるを得ない。そのため、トランプ前大統領との電話会談も5分で終わるような状況になっている。同盟国アメリカとこのような関係になることは日本にとって大きな問題だ。
Q. 岸田首相の外交はメディアでは評価されていますが、実際はどうですか?
それはメディアの評価が甘いからだ。多くのメディア関係者は外国語を話せず、外国での生活経験もなく、外交の現場がどう動いているか理解していない。もちろん、少数ながら非常に鋭く分析できる人もいるが、総理に同行する記者は、その国に行くのが初めてというケースが多い。
そうした記者は、政府の発表をそのまま受け取り、批判的な視点で見ることができない。アメリカに同行したなら、アメリカ側からも取材し、アメリカのメディアの受け止め方にも目を光らせるべきだが、そこまでできている日本のジャーナリストは少ない。
岸田首相は英語が話せることが強みだが、姿勢やボディランゲージに問題がある。なぜ猫背なのか、なぜ歩く時にガニ股なのか、なぜアメリカ議会でスピーチをする時にイギリス風のレジメンタルタイを着用するのか。プロの目から見れば、改善点は多い。
また、アメリカ議会でのスピーチの内容も、アメリカを称賛するだけで、台湾海峡の問題や大谷翔平への言及、日本製鉄のUSスチール買収に対するサポートなど、本来盛り込むべき重要な内容が抜け落ちていた。

Q. 外交の劣化とはどういうことですか?
一言で言うと、外交官が外に積極的に出なくなったことだ。「外」には二つの意味がある。一つは日本の内と外、つまり海外に出なくなったこと。外交官の主戦場は海外のはずだが、出ていかなくなっている。
もう一つは、例えばオーストラリアの日本大使館で勤務する場合でも、オフィスの中にこもって、外に出てオーストラリア人と交流しないケースが増えていること。昔なら昼食時に必ず外務貿易省や国防省の人、メディア関係者、政治家などと食事をして人間関係を構築し、情報を収集していた。
しかし今は内にこもる傾向が強くなっている。これでは「外交官」ではなく「内交官」だという声もある。残念ながらこの傾向は年々強まっている。
Q. なぜ外交官が外に出なくなったのですか?
人事の問題がある。以前は海外と国内を行き来するキャリアパスが一般的だったが、15年くらい前から、優秀な人材は国内に留め置かれるケースが増えてきた。そうすると「別に苦労して海外勤務しなくてもいいじゃないか」という考えが広がる。
審議官、局長、外務審議官といったポストを、一度も海外勤務せずに10年、15年と国内で過ごす例が増えている。これは国民が外務省に対して持っているイメージとは全く異なる実態だ。
本来なら、将来幹部になるような人材は大使などの海外トップポストを経験すべきだ。実際に自分が経験してみないと、大使の苦労や、やりがいは分からない。昔は必ず将来幹部になるような人は大使ポストを経験していたが、最近では大使はおろか総領事さえ経験していない幹部が増えている。
これにより、外務本省と在外公館の間に埋めがたい隔たりが生じ、組織として一体的に機能しなくなっている。

Q. 2025年に向けて日本はどのような外交をしていくべきですか?
2025年は戦後80年に当たる。80年前に日本が何をしたかよりも、今中国が世界中で何をしているか、戦後の日本の歩みを見てほしい。日本が現在、国際社会にどのような貢献をしているのか、それを粘り強く訴えるべきだ。
また、歴史カードを突きつけられた時に「私たちが悪いことをしました、ごめんなさい」と言い続けるから、謝罪外交が続く。若い世代までもが責任を負わされる状況は変えるべきだ。
戦後処理はすでに終わっている。私たちの世代は敗戦国であることを気に留める必要はない。歴史は歴史として謙虚に反省することは必要だが、戦後処理という観点では決着がついている。これからの世代が過剰な罪悪感を抱いたり、永遠に謝罪し続ける必要はない。
今後は外交官一人ひとりが理路整然と、相手が言ったことに誇張や事実誤認、偏向がある場合には、冷静に引くことなく反論を提示していく姿勢が求められる。