PIVOT TALK BUSINESS
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2024年12月20日

VUCA時代に求められる適応力。ミネルバ大学では組織を適応に導くリーダーを育てている。外交官出身の黒川公晴講師がそのノウハウを解説する。 <ゲスト> 黒川公晴|Learner's Learner代表 ミネルバ認定講師 ペンシルバニア大学組織開発学修士。2006年外務省入省。外交官としてワシントンD...
ハーバード大学よりも入学が難しいと言われるミネルバ大学。そのリーダーシップ教育を日本に広めているミネルバ認定講師の黒川公晴氏に、これからの時代に必要な「適応型リーダーシップ」について聞いた。

ミネルバ大学は2014年に設立された新しい大学で、従来の大学とは全く異なる特徴を持っています。最も特徴的なのは、キャンパスが存在せず、授業は全てオンラインで行われることです。学生は世界7都市(ヨーロッパ、インド、南米、アジアなど)を4年間かけて巡りながら学びます。各都市でインターンシップやプロジェクトに携わりつつ、オンラインで講義を受け、学んだことを実践するという学習スタイルを取っています。
ミネルバ大学は「世界で最も革新的な大学」としてここ3年連続でランキング1位に選ばれています。その革新性は、創設者であるベン・ネルソン氏の大学教育に対する問題意識から生まれました。彼は「大学で学ぶ知識が実務で使えない」という課題を解決するため、実践できる汎用的能力を身につけさせることを重視しています。
また、アメリカの有名大学では留学生が10〜15%程度なのに対し、ミネルバ大学では70〜80%が留学生であり、非常に多様な環境で学ぶことができます。さらに、高額な学費が問題となっている米国の大学教育に対し、ミネルバ大学はキャンパスを持たないことでコストを削減し、経済的に恵まれない優秀な学生にもリーチしています。


適応型リーダーシップとは、組織の適応を後押しするための力の使い方です。自分がいて、チームがあり、チームの目標や理想を達成するために自分が周りに及ぼす影響力そのものがリーダーシップであるとすれば、適応型リーダーシップは組織が環境変化に適応することを支援するリーダーシップのあり方です。
環境変化への適応は昔から重要とされてきましたが、適応型リーダーになるための具体的な方法を体系的に教える学習体系はあまりありませんでした。ミネルバ式教育の素晴らしい点は、このような曖昧な能力を体系化し、言語化して整理し、身につけられる思考習慣として伝授している点です。

適応型リーダーシップが必要な理由は、物事が複雑になっているからです。具体的には、3つの複雑性があります:
1. 動的複雑性:因果関係が分かりにくい状況。例えば、職場で仕事ができない人がいる場合、表面的な理由だけでなく、家族の問題や過去の経歴など、様々な要因が絡み合っていることがあります。
2. 社会的複雑性:多様な人々がいて様々な意見があること。この傾向は多くの企業で強まっています。
3. 生成的複雑性:何がどうなるか予測できない状況。新規事業を立ち上げてもイノベーションが起きるとは限らないなど、先が読めない状況です。
こうした複雑性に対応するためには、状況を見ながら適応していくしかありません。それが適応型リーダーシップの根本的な考え方です。

日本企業では、リーダーシップ教育の重要性が少しずつ認識されるようになっています。様々な企業で次世代を育てる必要性が語られ、リーダーシップの要件を定義したり、それに合わせた能力開発を行ったりする動きが見られます。
しかし、日本企業では伝統的に「できる人」「成果を出している人」がリーダーになるという暗黙の了解があります。そのため、リーダーシップは体系的に教えられるものというよりも、優秀な上司の「背中を見て学ぶ」ものという認識がまだ強いです。このアプローチでは、どれだけ素晴らしい上司に出会えるかという「運」に左右されてしまいます。
また、リーダーシップ研究の歴史を振り返ると、初期は「リーダーシップは生まれ持った素質」と考えられていましたが、その後「リーダーの行動理論」が生まれ、さらに「状況に応じて特定のリーダーシップが必要」という考え方に発展しました。現在では「変革型」「EQ型」「サーバント型」など様々なリーダーシップスタイルが提唱されていますが、AI発展やパンデミックなど予測不能な時代では、瞬間的に状況を把握し、様々な引き出しから適切な対応を選んで実行する能力が求められています。
適応型リーダーシップが必要な理由として重要なのが、「技術的問題」と「適応課題」の区別です。
技術的問題は、問題自体が明確で解決策が既に存在し、専門家がソリューションを処方してくれるような問題です。例えば、車が壊れたら修理工場に持っていくといった表面的な症状を止める類の問題です。
一方、適応課題は、そもそも問題が何なのかが人によって見え方が異なり、原因も解決策も明確でない問題です。専門家に言われた通りにやれば解決するものではなく、自分たちで模索しながら解決策を見出す必要があります。また、単に手段を導入しただけでは解決せず、人の考え方自体(マインドセット)が変わる必要があるケースが多いです。
例えば「アジャイル型組織を作る」という課題に対して、単にチャットツールを導入すれば解決するわけではなく、コミュニケーションやコラボレーションに対する考え方から変える必要があります。同様に「給料を上げれば生産性が上がる」「新規事業部を作ればイノベーションが起こる」といった考え方も、適応課題を技術的問題と勘違いしている例です。
適応型リーダーシップを実践する最初のステップは、今の環境のほとんどが適応課題に囲まれていることを謙虚に認識することです。
適応型リーダーシップは4つの要素から成り立っています:
1. ナビゲート:細かく一つ一つ指示するのではなく、大きなビジョンを示し、仲間がお互いにコラボレーションできる土壌を整えること。
2. 共感(エンパシー):様々なステークホルダーがどのような思いや感情で業務に当たっているか、どのような悩みを抱えているかを理解すること。
3. 自己修正(セルフコレクト):予測不能な状況では間違えることが多いため、間違いに気づいたら自分の行動や意識を変える能力。
4. ウィンウィン:自分の組織だけでなく、外部の人々も利益を得られるような関係を考える広い視点。
適応型リーダーシップは、状況によって発揮すべき力や見るべき視点が異なります。重要なのは、状況に流されずに立ち止まり、「この状況ではどの要素が必要か」を意図的に考え、実践することです。
「システム思考」も重要な要素で、これは問題を局所的に捉えるのではなく全体を見る目のことです。問題を考える際には「制約」(変えられないもの)と「障害」(乗り越えられるもの)を区別し、課題を正しく定義することが最も重要です。