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非認知能力は中年にこそ重要である
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2024年12月11日

「子育てスキル」を鍛えるためのノウハウを各分野のプロが伝授。 幼少期の非認知能力への投資は、中年になってから影響が出始めるという。 <ゲスト> 中室牧子/教育経済学者 慶應義塾大学教授 慶應義塾大学卒業後、日本銀行等を経て、2010年にコロンビア大学でPh.D.。 2013年から慶應義塾大学総合政...
学力テストでは測れない非認知能力が将来を左右する理由とは?
忍耐力、自制心、やり抜く力といった学力テストでは測れない非認知能力が、実は将来の収入と強い関連があると言われています。これらの能力は40〜60歳という人生の重要な時期に特に影響力を発揮します。なぜ非認知能力が重要なのか、どのように育てるのか、専門家の解説をQ&A形式でまとめました。

Q. 非認知能力とは何ですか?また、どのような種類がありますか?
非認知能力とは、学力テストでは測れない能力のことで、忍耐力、自制心、やり抜く力などが含まれます。これらは将来の収入との関連が強いと言われています。
忍耐力が高いと健康状態が良く貯蓄率も高くなる傾向があります。自制心については、ニュージーランドで行われた有名な研究があります。この研究では子供の頃から32歳まで追跡調査を行い、幼少期に自制心が高いと判定された子どもは、大人になってから借金が少なく、貯金が多く、病気にかかる確率が低いことがわかっています。また薬物依存になる確率や犯罪に関わる確率も低いことが示されています。
やり抜く力については、仕事や結婚生活を定着させやすいという研究結果があります。

Q. 非認知能力はどのように測定するのですか?
自制心を測る伝統的な方法として「マシュマロテスト」があります。子どもの目の前にマシュマロを置き、「食べずに待っていられたら追加でもらえる」と言って先生が部屋を出ます。5分後に戻ってきたとき、まだ食べずに待っていられたら自制心が高いと判定します。
現在では、アンケート調査や行動観察など、さまざまな測定方法が開発されています。ただし、非認知能力を個人レベルで正確に測定することは難しいという見方もあります。
Q. 非認知能力と学歴や収入にはどのような関係がありますか?
ノーベル経済学賞を受賞したジェームス・ヘックマンの研究によると、非認知能力は学歴や性別に関わらず重要であることがわかっています。当初は高学歴の男性ホワイトカラーにのみ重要と考えられていましたが、実際には高卒者や女性にも同様に重要であることが示されています。
スウェーデンでの研究では、高卒の男性の方が非認知能力の重要性が高いという結果も出ています。なぜなら、失業したときに次の仕事を見つけるまでの期間が、非認知能力が高い人ほど短くなるからです。これは危機的状況からの脱出速度が早くなることを意味します。
0歳から75歳まで追跡した調査では、非認知能力が収入に与える影響は40歳から60歳の間で特に高くなることがわかっています。これはキャリアの中で重要なポジションに就く時期と重なります。
Q. 非認知能力と認知能力(学力)はどのような関係にありますか?
非認知能力と認知能力は密接に関わり合っています。経済学では分析上、認知能力と非認知能力を分けて考えますが、認知科学や心理学では両者がまたがるものとして理解されています。
例えば、自制心がなければ勉強を続けることは難しいでしょう。非認知能力と認知能力の相関関係は強いですが、例外もあります。やり抜く力はIQとあまり相関しないことが知られています。
カナダのモントリオールで行われた研究では、問題行動が顕著な小学生に非認知能力を高めるトレーニングを行ったところ、初めは学力は上がりませんでしたが、その後学力が上昇し、さらに収入も高くなり、学歴も上がり、結婚する確率も高くなったことが確認されています。
この研究から、非認知能力を高めることが学力向上にもつながる可能性が示唆されています。
Q. 日本での非認知能力の調査結果はどうなっていますか?
日本では埼玉県と群馬県が大規模に非認知能力を測定しています。埼玉県は小学4年生から中学3年生を対象に、群馬県は高校1年生を対象に調査を行っています。
調査結果からは、親の経済力が高い家庭の子どもほど、ほとんどすべての非認知能力が高いことがわかっています。ただし、この格差を国際的な調査と比較すると、日本は格差が非常に小さい国の一つであることも判明しています。
Q. 非認知能力は遺伝的なものですか、それとも教育で身につくものですか?
この点については研究者の間でも意見が分かれています。最近の研究では、特に自制心については遺伝の影響が大きいという結果が出ています。
一方で、学校教育の中で非認知能力を伸ばせるという研究結果もあります。欧州大学院のアラン・スール教授がトルコの公立小学校で行った実験では、自制心、忍耐力、やり抜く力、知的好奇心といった能力を教育によって伸ばすことに成功しています。

Q. どうすれば非認知能力を伸ばすことができますか?
やり抜く力を伸ばす方法として、「成長マインドセット」の促進が効果的とされています。成長マインドセットとは「努力すればできるようになる」という考え方のことです。
教師の声かけ方法を変えることで効果があったという研究結果があります。例えば、90点をとった生徒に「90点とったわね、立派ね」と結果を褒めるのではなく、その結果に至るまでの努力のプロセスを評価し褒めるようにしました。
このような声かけを繰り返すことで、子どもたちは失敗してもチャレンジし続けるようになり、やり抜く力が身につきました。さらに数年後のフォローアップテストでは学力も向上していたことが確認されています。
また、目標設定も効果的です。目標は自分で決めることが重要で、達成可能なレベルに設定することがポイントです。結果ではなくプロセスに対して目標設定をした方が上手くいくという研究結果もあります。例えば「テストで90点取る」ではなく「毎日本を5冊読む」「宿題を忘れないようにする」「テストでは必ず見直しをする」といった目標の方が効果的です。

Q. 受験のためにスポーツをやめさせることについてどう考えますか?
受験が近いからといってスポーツをやめさせると、忍耐力や自制心を身につける機会を捨ててしまうことになるかもしれません。非認知能力と学力の関係を考えると、これは大きなトレードオフといえます。
スポーツなどの活動は非認知能力を育む重要な機会になります。「受験が大事だから」と無自覚に選択するのではなく、このトレードオフをよく理解した上で判断することが大切です。
Q. なぜ非認知能力が特に40〜60歳で重要になるのですか?
0歳から75歳まで追跡した調査によると、非認知能力が収入に与える影響は40歳から60歳の間で特に高くなることがわかっています。これはキャリアの中で管理職など重要なポジションに就く時期と重なります。
この年代になると、単に勉強ができるだけでは活躍できないことに気づき始めます。実際の社会経済的な生活を支えているのは非認知能力であることを実感するようになるのです。
Q. 非認知能力を育てるために親や教師ができることは何ですか?
教師や親ができることとして、結果ではなく努力のプロセスを評価し褒めることが重要です。「90点取ったね、すごいね」ではなく「毎日コツコツ勉強していたのがよかったね」というように声かけを変えることで、子どもの成長マインドセットを育てることができます。
また、目標設定を助けることも効果的です。目標は子ども自身に決めさせ、達成可能なレベルに設定することが大切です。結果よりもプロセスに対する目標設定を促すと良いでしょう。
失敗を恐れずチャレンジする姿勢を評価することも重要です。失敗から学ぶ経験は人生で最も価値あるものの一つです。失敗しても努力したことを認め、次へのステップを一緒に考えることで、子どもの回復力(レジリエンス)を育てることができます。