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松尾豊教授に聞く、生成AIの「次の10年」
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2024年11月28日

生成AIはこれからどう進化するのか?そして、生成AIの分野で日本の勝ち筋はどこにあるのか?「まず絶望から始めよ」「AIを下に見ろ」と主張する松尾豊・東京大学教授に話を聞いた。 <ゲスト> 塩野 誠|経営共創基盤 共同経営者 国内外の企業や政府機関に対して戦略立案・実行のコンサルティングなどに従事。...
松尾豊教授に聞く:AIの未来と日本の戦略
AIが崇められすぎている?「AIって所詮データを学習しているだけでしょ」と思えば、自分なりの工夫が生まれる。松尾教授が語る「呪い解き」の視点から、日本がAI時代を生き抜くヒントを探る。


Q. 10年前に書かれた本から現在までのAI技術の変化をどう見ていますか?
この10年で、AI技術は予想とは違う方向に発展しました。当初はロボティクスへの応用が早く進むと予想されていましたが、実際には大規模言語モデル(LLM)が先に発展しました。さらに、LLMが想定以上に大規模化する方向に進んだことも意外でした。
人間の脳を考えると、モデルを大きくする必要があることは理解できましたが、これほど「スケールソック(規模の法則)」が重視され、資本力による競争になるとは予想していませんでした。
Q. LLMをさらに大きくすることに意味はありますか?
現在、LLMの大規模化には限界が見えてきています。単に規模を大きくしても精度が上がらないという「踊り場」の状況が現れつつあります。様々な工夫をしても精度向上が難しい段階が一度来るでしょう。
最近は量より質を高める方向に進んでいます。質の高いデータを入れないと精度が上がらないということが理解されてきているのです。
Q. 日本は国産LLMを持つべきでしょうか?
各国が「ソブリンLLM」と呼ばれる自国のモデルを持つべきという風潮になっています。ただし、すべての国が一から基盤モデルを作れるわけではありません。
解決策として、オープンな公開モデルをベースに追加学習する方法や、同盟国と協力して開発するアプローチがあります。日本がアジアで中立的なモデルを作れば、アジア各国がそれをファインチューニングして利用することも可能です。
Q. 日本政府のAI政策についてどう評価していますか?
日本政府の昨年からのAI政策の動きは非常に早く、高く評価できます。実際、AIに関しては逆に「海外の方が遅いから待つ」という状況すら発生しています。八木山に手を打ち、広島AIプロセスでアジェンダを設定するなど、素晴らしい取り組みが行われています。
Q. 物理空間でのAI応用はどのように進むと思いますか?
今後は言語空間から物理空間へのAI応用が進むでしょう。例えば、動画生成AIをロボットに適用すると、ロボットが現在の姿勢や環境で特定の動きをした場合、どのようなシーンになるかを予測できます。これは「未来予測」として機能し、良い結果が予測されればその通りにアクチュエーターを動かします。
OpenAIも一時期ロボット研究を中止してLLMに集中していましたが、再びロボット研究に戻っています。言語空間だけでなく、物理空間での知能が基本であり、そこに回帰することは自然な流れです。
Q. ロボットの基盤モデルは日本で実現可能ですか?
日本でもロボットの基盤モデル研究は進んでいます。LLMを作るよりもまだ小規模なリソースで取り組まれていますが、もっと積極的に進めるべき分野です。
課題はデータ不足です。シミュレーター上のデータを集める必要がありますが、同じシミュレーターだと類似データになってしまうため、様々なシミュレーターと実データを組み合わせる必要があります。実データの収集はロボットを動かすコストや時間がかかるため難しい面もあります。
Q. AIによる偽情報や誤情報のリスクにどう対応すべきですか?
AIによる偽情報や誤情報は重要な課題です。単に明らかな偽情報だけでなく、様々な技術を使った拡散方法により、何が「毒されている」のかわからない状況も生じています。
対策としては、発信者を明示した形での情報流通を促進する仕組みが必要です。また、「この相手は人間なのかAIなのか」を判別することも重要になっています。例えば、ワールドコインプロジェクトの大きな課題は、受け取り手が人間なのかAIなのかを判別することです。
Q. 日本のAI戦略はどうあるべきでしょうか?
まずは現状を正しく認識することが重要です。「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」の言葉通り、日本社会のデジタル面での遅れや時代遅れの組織構造など、自分たちの弱みを自覚する必要があります。
私たちが使っているIT機器やWebサービスのほとんどが外国製であり、デジタル産業でグローバル企業が出てこなかった現実を直視すべきです。かつて強みを持っていた半導体や電子機器のシェアを失ってきた中で、勝ち筋は簡単には見えません。
ただ、そこから始めるべきは「できないことを認識する」ことです。例えば、NVIDIAを超える半導体を作りたくても、現在の実力では難しい。ならばまずはGPUを購入し、それを使って開発する。開発力も足りないけれど、作るしかない。データセットも揃っていないけれど、整備していく。
Q. 日本人の強みはどこにあると思いますか?
日本人は個々のクリエイティビティが高いです。一人一人が工夫してやるような領域になると、急にレベルが上がることがあります。
重要なのは、AIを「崇め奉る」のではなく、ある種「舐める」姿勢です。AIをすごいものと思いすぎると崇め奉ってしまいますが、「AIって所詮データを使って学習しているだけでしょ」と下に見ることで、自分なりの工夫が生まれやすくなります。
例えば製造業の方々が技術を「舐めて」、「俺には分かるはずだ」と思って取り組むことで、切磋琢磨してレベルを上げていく傾向があります。AIに対してもそういう姿勢が必要です。
Q. AI時代の教育はどうあるべきでしょうか?
教育を考える際は、AIの学習に照らし合わせると理解しやすいです。社会人になってからは基本的に「強化学習」で、報酬がもらえるかどうかで学習しますが、報酬のサンプル数は少ないです。そのため、事前に学習しておく必要があります。
その前段階として「教師あり学習」があり、学校のテストのように問題と回答がセットになっています。さらにその前には「教師なし学習」や「自己教師あり学習」があり、本を読んで面白いと感じたり、遊んでこけたり、友達をからかって怒られたりする経験から学びます。
社会で活躍するためには、この学習の流れを逆算して設計することが大切です。ただし、AIの発展によって必要なスキルも変わるため、どの段階でどんな学習をすべきかも変化します。LLMがさらに発展すれば、人に残る能力は「感じの良さ」や「憎めないリーダー性」などの社会性になるかもしれません。
Q. AIへの「呪い」をどう解けばいいですか?
AIを理解するには実際に体験することが大切です。メディアが技術を崇め過ぎると障壁を高くしてしまいます。
例えば、東京大学の松尾研究室に来ると「あ、こんなものか」と分かる効果があります。レベルの高い議論をしていますが、それを理解すると「自分はAIでやっていける」と自信が持てます。日本で最高レベルと言われる場所がこの程度なら「もっと工夫したらもっといける」と思えるのです。
AIも同じで、「呪い」を解いて「こんなものか」と思える状態になれば、自分なりの工夫が生まれてきます。AIを知らないと崇めてしまいますが、理解すれば「土俵に上がって舐めていく」ことができるのです。