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YouTubeが政治を変えた。データで見る兵庫県知事選
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2024年11月19日

斎藤元彦氏の再選で終わった兵庫県知事選。なぜ低い支持率から大逆転が起きたのか?YouTubeのインパクトはどれくらい大きかったのか?データを軸に選挙・政治を分析するJ X通信社の米重克洋氏に話を聞いた。 <ゲスト> 米重克洋|JX通信社 代表 1988年山口県生まれ。2008年、報道ベンチャーのJ...
メディアシフトの新時代:兵庫県知事選から見るYouTubeの政治影響力
兵庫県知事選で斉藤元知事が勝利した背景には、YouTubeを中心としたメディアシフトがあった。JX通信社代表取締役の米重克洋氏がその実態と今後の展望を解説する。

Q. 兵庫県知事選挙の結果をどう捉えたらよいですか?
今回の選挙は、マスメディアからSNS、特にYouTubeへのメディアシフトを象徴するエポックメイキングな選挙だった。従来、ネット選挙というとニッチな層を拾い集めるだけのものとされてきたが、今年に入ってからの都知事選、衆院選、そして兵庫県知事選とSNSがマスを動かすツールになっている。このことが今回の選挙で顕著に表れた。
Q. 斉藤氏の評価はどのように変化したのですか?
7月の調査では斉藤氏の支持率は15%まで落ち込んでいたが、失職後から選挙期間の間に評価が急上昇した。失職直後は2割程度だった評価が、終盤には倍以上に増加。わずか1ヶ月で評価が劇的に変わったことが大きな変化だった。
斉藤氏の実績である若い世代への県立大学無償化や県立高校への設備投資が知られるようになり、文書問題やパワハラ問題と相対化された。結果として、それらの問題の重要性が有権者の中で下がっていった。また、「マスコミや既得権益から攻撃されている」という見方が同情を呼んだ面もある。
Q. YouTubeやSNSはどのような影響を与えたのですか?
立花孝志氏(NHK党)の影響が非常に大きかった。YouTubeの検索ボリュームを見ると、斉藤氏は対立候補の稲村氏を上回っていたが、立花氏の検索ボリュームはさらに上回っていた。立花氏の検索ボリュームがスパイクするのと同じタイミングで、少し遅れて斉藤氏の検索もスパイクしており、両者の連動性が見られた。
立花氏は斉藤氏自身が言えないことを代弁する役割を果たし、選挙ポスターにQRコードを表示するなど選挙制度の「バグ」を活用して情報発信していた。この行動が斉藤氏への援護射撃となって広がりを見せた。
Q. 既存メディアへの不信感はどのように影響したのですか?
兵庫県に限らず全国的に既存メディアへの不信感が広がっている。いわゆる「敵対的メディア認知」という現象があり、マスコミの報道が自分の意見と異なる場合に「偏っているのではないか」と思いやすい心理的傾向がある。「既得権益の一部」「報道しない自由」といった批判が強まっている。
背景にはスマートフォンやSNSの利用時間増加に伴い、テレビや新聞に触れる時間が相対的に減少していることがある。自分で情報を選び確認しているという感覚を持てるYouTubeなどの媒体の方が信頼できると感じる人が増えている。
Q. 都市部と地方部で投票行動に違いはありましたか?
開票結果を地域ごとに分析すると、都市部では斉藤氏のリードが大きかった。都市部には単身世帯や核家族が多く、地域コミュニティよりもSNSやインターネットを通じた情報収集やコミュニケーションに時間を使う傾向がある。地域の壁を超えたネットやSNSのコミュニケーションから政治的影響を受けやすい環境となっている。
興味深いことに、YouTubeを参考に投票に行くという層は投票意欲が高い。アルゴリズムによって自分の興味関心に合った情報が次々と推薦される仕組みが、特定の政治家や政治的意見への関心を深め、投票行動につながっていると考えられる。
Q. 国民民主党のネット戦略はどのようなものですか?
国民民主党はネットで大きく得票を伸ばしたが、その戦略には3段階あった。
1. ショート動画で政策や自分たちの主張を知ってもらう
2. 興味を持った人には長尺の動画を見てもらう
3. さらに興味を持った人はYouTubeのチャットに誘導する
玉木代表や新藤議員のライブ配信では1〜2万人の同時接続があり、スーパーチャットも多く集まるなど双方向コミュニケーションが機能していた。
国民民主党の支持層は元々20〜40代の働く男性に特徴があり、「手取りを増やす」「若者を潰すな」といったメッセージで明確なターゲットに狙いを定めていた。若い世代はイデオロギーよりも自分の生活や経済に関心が高く、国民民主党はその点を捉えて「右でも左でもなく、みんなで上に行こう」というメッセージを打ち出した。
Q. 政治家の批判をしない姿勢はなぜ受け入れられているのですか?
玉木氏と斉藤氏に共通するのは、人の批判をしないことだ。2010年代は橋下徹氏のように敵味方をはっきりさせるコミュニケーションが目立ったが、最近は有権者側にそれを受け止める余裕がなくなってきている可能性がある。小泉純一郎元首相の「小泉劇場」のような対立型の政治手法から変化が見られる。
Q. 国民民主党の玉木氏の不倫問題は支持率に影響しますか?
あまり影響はないと思われる。国民民主党の支持層は若い世代、特に男性が多く、都市部で働いている人たちが中心だ。支持の理由も人よりも政策に重きを置いている特徴がある。そのため、人の部分で問題があっても直ちに不支持につながらない構造になっている。実際、不倫問題発覚後の各社の調査でも支持率は落ちていない。
Q. メディアシフトの課題は何ですか?
兵庫県知事選でも確認が取れない情報や偽情報が拡散され、各陣営がそれを打ち消すことに時間を割かざるを得なかった。従来のマスメディアが一方向に情報発信する時代と異なり、今は「1億人が総メディア状態」で、量的に爆発的に増えた情報の真偽検証が難しい。
人は身近な人や信頼を置いている人からの情報を鵜呑みにしやすく、事実確認が不十分な情報でも広がりやすい。こうした状況に対して規制を強めるという議論もあるが、それがネット世論の反発を招く恐れもある。プラットフォーム側の対応と社会全体のメディアリテラシー向上が必要だろう。
Q. 今後の選挙や政治はどう変わっていくと思いますか?
従来、選挙では「自盤」(支持基盤)、「鞄」(資金力)、「看板」(知名度・政党ラベル)が重要だと言われてきたが、今後はリアルな支持基盤だけでなく「ネット自盤」の重要性が高まる。ネット上での発信力やインフルエンサーからの支持が選挙結果に大きな影響を与えるようになっている。
有権者側も自分で情報を集める傾向が強まっており、自ら情報を取りに行く若い世代が投票所に足を運ぶことで全体の投票率が上がる現象は今後も増えていくだろう。
都市化が進み地域コミュニティへの帰属意識が下がると、SNSやネットコミュニティを中心とした情報収集が政治意識を形成するようになる。これにより、ネット自盤にアプローチしている政治家が強くなり、リアル自盤に頼る政治家の影響力が相対的に下がる可能性がある。
結果として、現役世代や若い世代の意見が政治に反映されやすくなる可能性があり、選挙結果や政治の流れにも影響してくるだろう。ただし、高齢者もYouTubeを視聴するようになっているため、必ずしも若い世代だけに有利になるとは限らない。