
大衆をヘビーユーザー化させる"トリドール流” 海外展開【トリドールHD 粟田貴也社長】
トリドール・粟田貴也社長に聞く「従業員の幸せが顧客満足を生み出す」
飲食業界で圧倒的な成長を続けるトリドールホールディングス。丸亀製麺をはじめとする人気ブランドを展開し、国内外で4万人以上の従業員を抱える企業へと成長した。創業から約40年、アルバイトから始まり今や「この星を満たせ」という壮大なスローガンを掲げる粟田貴也社長に、これからの飲食業界の展望と、成功の秘訣を聞いた。
Q. 飲食業界はブラックな業界と言われることもありますが、労働環境に対する改革は考えていますか?
トリドールでは「働く人の幸せ」を重要なテーマとして掲げています。これまで「食の感動」や「感動体験」を提供することを成長の武器と考えてきましたが、よく考えるとそういった感動を提供しているのは、店で働く社員やアルバイト、パートの皆さんです。彼らが店に来なくなったら、私たちの思いは実現できません。
そう考えると、感動体験よりも大切なものは、生き生きと働いていただける人がそこに集まってくることだと気づきました。企業としてどうかという前に、1件の店としてそこで働く人が幸せに働いてくれているかをしっかり見ていく必要があります。
Q. 従業員満足度を高めるための具体的な取り組みはありますか?
まず社内でいろいろな声を聞くことから始めています。その声に対して会社として優先順位をつけて、働きやすい店を作ることを考えています。
幸せの定義としては「やりがい」があると思いますし、その背景には働く人が自分の居場所を感じられることが必要です。店のチームとしての繋がりが重要で、日々のコミュニケーションが最も大切です。
例えば具体的には、古い店舗をリニューアルする際、客席数を減らしてでもスタッフルームを大きくするようにしています。ほんの短い時間でも、スタッフルームで会話ができたり、一緒に食事をとったりする時間が大切だと考えています。
Q. トリドールの企業理念や強い思いを、国内外の4万人以上の従業員に浸透させるのは大変だと思いますが、工夫していることはありますか?
国内では全社員会議や階層別の会議があり、伝えようと思えば伝える術はあります。海外に関しては、なかなかそういう機会が少ないですが、経営者や幹部とはウェブ会議などを通じて「感動パイオニア」という取り組みを発表したり、何を評価し、何を大切に考えているのかという目線合わせを行っています。
Q. 2022年にスローガンを一新されたそうですが、その背景は?
コロナ禍を経て、世の中が大きく変わったと感じました。個人のライフスタイルも考え方も変わりました。それに追随するように世界の不安が経済の分断を生み、食材の高騰、エネルギーコストの上昇、建築コストの高騰、人手不足、人件費の高騰など、一見すると打開策がないような状況になりました。
そんな中で、これまで大切にしてきた体験価値や感動に対する考え方がぶれてしまわないよう、もう一度原点に立ち返る必要がありました。世の流れは多くの人が追い求めるものですが、その先はレッドオーシャンです。自分たちの思いを強く持ちながら時代に逆張りしていくことで、透明度の高いブルーオーシャンが広がっています。
Q. 新しいスローガンについて教えてください
「食の感動で、この星を満たせ」というのが最も大きなスローガンです。「この星」という表現には、具体的な計画よりもロマンを感じられるようにしました。体験価値や感動、人の心を揺さぶりながら我々は成長していこうとしているので、「世界」という言葉ではなく、地球全体を満たしていこうという夢やロマンを込めています。
Q. 「成長哲学」という言葉も出てきましたが、これはどのようなものですか?
「感動のいただき」「二律両立のいただき」「褒山教授のいただき」という3つを掲げています。
「感動のいただき」は、お客様がなぜ店に来ているのかを考え、唯一無二の体験価値や感動を提供するという思いです。
「二律両立のいただき」は、世の中では二者択一を求められることが多いですが、我々は両方を実現する。効率化と感動体験の両方を実現することで、大きな成長が達成できるという考え方です。
「褒山教授のいただき」は、「褒める」という言葉からきています。他人の存在を認め、褒め合い、助け合うことで、働く人の心をより豊かにしていこうという思いです。
Q. 最近は中国への進出も話題になっていますが、海外展開についてはどのようにお考えですか?
全世界に目を向けていますが、欧米の人口を足したよりもはるかに大きな人口が中国一国にはあります。また、世界中どこに行ってもチャイナタウンがあるように、中国の影響力は非常に大きい。中国は様々な課題があると言われますが、飲食に関してはまだまだ可能性があると考えています。
日本の人口が1億ちょっとで1,000店舗以上を展開できているのに対し、中国は10倍以上の人口があるので、最初に掲げた200店舗という目標も十分達成できると考えています。
Q. 日本国内だけでも26兆円の市場規模があるのに、なぜ海外に出るのですか?
日本の産業界を見ると、多くの産業は早くから海外に出て、海外で大きな売上や収益を上げ、日本に持ち帰っています。外食産業は国内市場が大きいために国内での成長余地が多分にあり、ドメスティックな展開が主流でした。
しかし、日本の外食産業は非常に良いものを持っていて、競争力もあると思います。もっと果敢に国にこだわらず良さを提供していくことで、さらに大きな市場が広がるのではないでしょうか。
また、日本は少子高齢化が進み、経済構造や社会構造が縮小していく一方、海外、特にアジアでは日本の高度成長期のような成長が見られます。私たちの強みを海外で生かすことで、より大きな成長が期待できると考えています。

Q. 国内でうまくいったビジネスが海外でうまくいくとは限らないと言われますが、成功のキーポイントは何だと思いますか?
高単価のハイエンド市場を目指すなら、「ザ・日本」をそのまま持ち込めば歓迎されると思います。しかし、私たちのような大衆向けのビジネスでは、非日常の食事ではなく日常性が必要です。
現地の人々が日常的に食べるものに合わせる「味の親和性」を担保しないと、リピーターにはなってもらえません。例えばイギリスの丸亀製麺では「チキンカツカレーうどん」が一番人気です。日本では違和感があるかもしれませんが、現地では食卓などでチキンカツカレーが大ブームで、現地の人々が好むものをうどんに取り入れています。
ローカライズ、つまり現地の味に合わせていくことは、大きな市場を獲得するためには必要不可欠です。そのためには現地の人々の意見を丁寧に拾い上げることが重要です。
Q. 海外店舗の商品開発の決定権はどこにあるのですか?
基本的に現地に任せています。現地の味は私には分からないので、現地で決めてもらっています。特に海外店舗に関しては、そういったことを現地で自由にやってもらっています。
Q. 社長の経営スタイルには「任せる」「信頼する」という特徴があるように感じますが、いかがでしょうか?
私は39年前、たった1件の焼き鳥屋のアルバイトから始まり、その都度学びを得ながら今日まで来ました。人と共にやっていくというのが自分のベースにあります。
社長業で大事なのはチーム編成だと思います。どこにどういう人をつけていくかを考えると、ある意味「キャスティング業」のようなものではないでしょうか。最終的には「人」ということになると思います。
私の知っている世界は40年前の焼き鳥店だけで、そこからいろんな学びを社内外から吸収してきました。これからもより多くの人を採用したり、社外との交流を持つことが重要です。器の中に閉じこもってしまうと、成長どころか減退が始まってしまいます。
Q. トリドールの今後の姿、どのようなところを見ていてほしいですか?
これからも高い目標を掲げて歩んでいきたいと思っています。常に良い時ばかりではないと覚悟していますので、柔軟に対応でき、決めたらすぐに動ける「柔軟性と機動力」を大切にしていきたいと思います。
もう一つは「ぶれない経営」です。自分たちは何を持ってお客様に評価いただけているのかを忘れないことが重要です。一時の繁盛に慢心してしまうとそれを忘れがちになります。行列に右往左往した瞬間に足元をすくわれるので、これからも真摯に、謙虚に歩んでいきたいと思います。
Q. 夢に挑戦しようとする若い人たちへのアドバイスをお願いします
私もある1冊の本に背中を押してもらったことがあります。人は無限の力を持っていて、自分でも知らない自分がいるものです。夢を持って自分を信じてやっていけば、なりたい自分になれます。もしなれないとしたら、それは自分が諦めているからです。
人間誰しも力は持っていますから、そこを信じた人だけが前に進めるのではないでしょうか。
