
パワハラ「加害者」「組織」の対応
ハラスメントの加害者になってしまったらどうすればいい?専門家が教える対応策とリスク管理
職場でのハラスメント問題は完全に防ぐことが難しい人間関係の問題です。万が一、自分が加害者と指摘されたとき、どう対応すべきでしょうか?また企業側はどのような対応が求められるのでしょうか?梅澤康二氏に聞きました。

Q. ハラスメントは予防しても完全に防げないものなのでしょうか?
トレーニングなどを徹底したとしても、ハラスメントは人間関係から発生する問題なので、完全になくすことは難しいでしょう。どれだけ注意していても、相手が不快に感じる言動をしてしまう可能性はあります。
Q. もし相手から「そういう接し方は不適切だ」と指摘された場合、どう対応すべきですか?
最も重要なのは感情的にならないことです。「そんなつもりではなかった」のに指摘されると反発したくなりますが、「自分は間違っていない」「あなたがおかしい」などと言ってしまうと対立が深まります。
行為が適切かどうかとは別に、相手が不快な思いをしているという事実があります。電車で人の足を踏んだら故意でなくても謝るのと同じで、相手に不快な思いをさせたことについては素直に謝罪するべきです。
Q. 謝罪は文面に残すべきでしょうか?
残した方が良いでしょう。ただし、相手の主張を全面的に受け入れる形で謝罪すると、事実ではないことまで認めたことになる可能性があります。例えばメールで「今日こういう話があり、自分はこういうつもりでした。そういうことをするつもりはなかったけれど、あなたが不安や不快に思っていることが分かったので、その点については申し訳なく思います」というように、謝罪の対象を明確にした上で謝罪することが重要です。
Q. ハラスメント問題における証拠として強いものは何ですか?
多くの人は録音や録画が強力な証拠だと考えていますが、実際はそうではありません。録音・録画は量が膨大になる可能性があり、職場で常に撮影すること自体が非常識です。また、秘密録音をしても会話の一部だけを切り取って提示すると「都合の良いところだけ出している」と信用性が低くなります。
最も強力で使いやすい証拠はメールです。日時が明確に記録され、会話内容が可視化されているからです。口頭でのやり取りがあった後でも、「さっきこういうやり取りがあった」「私の考えはこうだ」「あなたの気持ちに対して謝罪の意を表します」というポイントをメールでまとめておくと、何があったのかが後から明確に分かります。
Q. 被害者がSNSで証拠を公開するリスクについてどう考えますか?
SNSの問題は拡大傾向にあり、誰も想定しないような被害を生む「爆弾」のようなものです。企業は炎上によって評判に大きなダメージを受けることがありますし、被害者自身も「気持ちを分かってほしかっただけなのに」という段階を超えて、自分ではコントロールできない炎上状態になってしまったり、批判的なコメントによって二次的な精神的苦痛を受けたりすることもあります。
SNSは誰もコントロールできないことが最大の問題です。また、動画内容やSNSでの表現が加害者の名誉を毀損するようなものであれば、名誉毀損で訴えられる可能性もあります。対抗手段としてSNSを使うことは推奨しません。
Q. 企業側からすると、ハラスメント問題対応で最も難しいのはどんな点ですか?
企業が最初に決めなければならないのは「事実をどう認定するか」です。事実認定は専門的な知識や経験がないと難しい部分がありますが、会社は何が起きたのかを正確に把握しないと適切な対応ができません。
多くの場合、相談を受けた時点では事実関係が固まっておらず、「こういう聞き取りをしている状況だが、ここからどうすればいいか」という段階で相談されることが多いです。まずは具体的にどういった行為があったのかを確定する作業から始める必要があります。
Q. 事実認定の後、企業はどのように対応すべきですか?
事実によって対応は異なります。深刻な事実で明らかに就業規則違反のような場合は、加害者側の弁解(なぜそういうことをしたのか、本当にそういうことをしたのか)を聞いた上で、懲戒処分を検討することになります。
懲戒事由に該当しない場合は、企業としてどういう職場環境を作るかという観点から、加害者側にどのように注意し、被害者側にどのように説明するかを検討します。
Q. ハラスメント被害を受けた人へのアドバイスはありますか?
被害者の方の「辛い」という気持ちは当然事実ですが、その思いから突っ走ってしまうと良い解決にならないことも多くあります。辛いと感じたら、まずは当事者である相手に自分の気持ちを伝えてみることから始め、関係改善を図ることが大切です。それが難しければ、会社の窓口や弁護士などに相談し、段階的に対応していくことをお勧めします。
Q. 加害者と指摘された人へのアドバイスは?
ハラスメント被害を訴えられた時は、焦らず感情的にならないことが大切です。経験がないと「そんなことはしていない」と反発するか、「本当に申し訳ない、何もしないでほしい」と過剰に謝罪するか、二極化しがちです。冷静に対応することを心がけましょう。
Q. ビジネスパーソンがハラスメント問題を避けるために気をつけるべきことは?
端的に言えば、コミュニケーションの取り方に注意することです。基本的な言葉遣いはもちろん、特に重要なのは「業務上必要かどうか」という判断です。会社でのコミュニケーションは基本的に業務目的で行われるものなので、特に上司の立場であれば「業務上の必要性があるからこうする」というロジックが立てられるかどうかを意識すると、ハラスメントの問題は起きにくくなるでしょう。
