
気候変動のリアル。気候科学の進歩でわかったこと
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2024年11月22日
世界の平均気温上昇により関心の高まる気候変動。最新の気候科学からわかったことは何か?実際の気候変動交渉はどのように行われるのか?日本の成果と課題は何か?気候変動の問題と交渉のリアルを、国際環境経済研究所理事の竹内純子氏に聞いた
「気候変動問題はエネルギー問題であり、経済問題だ」竹内純子が解説する環境問題の実態
竹内純子氏が語る気候変動問題の本質と国際交渉の裏側。「温暖化対策は不況が最も効果的」という意外な事実から、日本の取り組みが実は先進国で最も成果を上げている現実まで、環境問題の「リアル」に迫る。

Q. 気候変動問題の本質は何ですか?
気候変動問題は単なる環境問題ではない。本質的にはエネルギー問題であり、それはすなわち経済問題だ。その原因は温室効果ガス、特にエネルギー利用に伴って排出されるCO2が大部分を占める。牛のゲップに含まれるメタンはCO2の25倍、フロンガスは数百から1万倍の温室効果があるが、量的に圧倒的に多いのはエネルギー由来のCO2だ。
1900年からのエネルギー関連CO2排出量のグラフを見ると、基本的には右肩上がりだが、一部凹んでいる箇所がある。これは何かというと経済的な不況の時期だ。つまり、CO2削減に最も速効性があるのは不況なのである。
Q. コロナ禍でCO2排出量はどれくらい減少しましたか?
コロナ禍では世界経済が大きく停滞し、飛行機が飛ばず、車が行き交わない状況となった。この時のCO2排出量の減少は約6〜7%だった。これは第二次世界大戦後最大の削減幅である。
しかし翌年には6%のV字回復増加となった。一方で、パリ協定などの国際的な目標では、2030年までに2019年比で43%、2035年までに60%の温室効果ガス削減が求められている。これは年率約4%の継続的な削減が必要だが、途上国の経済成長を考えると、現実的にはかなり厳しい目標と言わざるを得ない。
Q. 気候変動と一般的なエネルギー政策の考え方にはどのような違いがありますか?
エネルギー問題と気候変動問題は本来一体であるべきだが、考え方の方向性が逆になっている。エネルギーは生命線・経済動脈として現実的に考えるべきものだが、気候変動対策は産業革命を上回る社会変革が必要で、まず「あるべき姿」を描き、そこから現在何をすべきかを考える必要がある。
平時であれば、この考え方の違いによる段差は露呈せずに済んだかもしれないが、ウクライナ危機や中東危機によって、この段差が明らかになっている。
Q. IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とは何ですか?
IPCCは国連のもとで集められた科学者の集団で、約1000人規模が参加している。この機関自体は研究を行わず、既存の気候変動に関する論文をまとめ、全体的な傾向を掴み、国連の気候変動枠組条約締約国会議(COP)に科学的知見を提供する役割を持つ。
科学的な機関と言われているが、政治と無縁ではない。特に「政策決定者向け要約」(SPM)は、IPCCに加盟する各国代表が一文ずつ交渉して決めていくものだ。そのため、気候変動問題が深刻だと強く主張する国々の声が反映されやすい側面がある。
Q. 1.5℃目標と2℃目標の違いは何ですか?
産業革命前と比較した気温上昇を1.5℃または2℃に抑えるという目標がある。一般的に東京と九州の平均気温差程度の1.5℃の違いでどれほど重大な差があるのか疑問に思う人も多いだろう。
実際には、1.5℃と2℃の違いは海面上昇が約10cm程度異なり、それによって影響を受ける人口が1000万人規模で変わってくる。当初パリ協定では2℃目標が主流だったが、島国からの強い主張により1.5℃への言及が追加された。その後、2018年のIPCC特別報告書で1.5℃と2℃の違いが具体的に示され、近年のCOPでは1.5℃目標の方が主流になってきている。
Q. 各国の排出削減目標は十分なのでしょうか?
2015年のパリ協定締結時に各国が提出した目標を合計しても、2℃目標にはギリギリ、1.5℃目標には届かなかった。その後、各国は目標を引き上げ、現在は以前よりも2℃目標に近づいているが、1.5℃目標にはまだ不十分な状況だ。
さらなる削減には、カーボンプライシング(炭素税など)の導入が効果的だが、これにはエネルギー価格の上昇というコストが伴う。日本でもGX(グリーントランスフォーメーション)政策の一環として将来的に導入が決まっているが、効果を出すためには「痛み」を伴うものでなければならない。
また、国によって事情が異なり、日本のように省エネが進んだ国では、さらなる削減には高いコストがかかる。さらに、国ごとに異なるカーボンプライスを導入すると産業の海外流出を招くため、世界共通の炭素価格が理想だが、国際交渉の現実からすると実現は極めて困難だ。
Q. COP(気候変動枠組条約締約国会議)とはどのような場ですか?
COPは毎年開催される国連気候変動枠組条約の締約国会議で、190カ国以上が参加する大規模な国際会議だ。近年はその規模が拡大し、政府間交渉の場から「ほぼ万博」のような様相を呈している。
会議の特徴として、全会一致の原則があり、一国でも反対すれば合意に至らない。また、交渉官には「職業交渉官」と呼ばれる人々もおり、彼らは国を渡り歩きながら、できるだけ多くの支援や譲歩を引き出すことを使命としている。
COPでは環境NGOが「化石賞」という不名誉な賞を毎日発表し、気候変動対策に消極的な国を批判している。日本のメディアではこの「化石賞」の報道が多いが、これは基本的に先進国が批判される構図であり、政策議論の本質とは必ずしも一致しない。
Q. パリ協定の特徴は何ですか?
パリ協定は京都議定書の行き詰まりを受けて誕生した。京都議定書では先進国のみに法的拘束力のある削減義務が課されていたが、アメリカは最初から参加せず、カナダは目標達成が困難になると脱退した。また、中国やインドなどの排出量が増加する中、先進国だけの取り組みでは不十分だった。
パリ協定の特徴は「国が決定する貢献」(NDC)という考え方だ。各国が自主的に目標を設定し、その達成は法的義務ではなく「貢献」として位置づけられている。これにより、全ての国が参加しやすい枠組みとなった。法的拘束力がないことは一見「いい加減」に思えるが、むしろ多くの国が参加し続けることを重視した結果だ。
Q. 日本の気候変動対策は国際的にどう評価されていますか?
日本は「CO2削減に出遅れている」「国際交渉で存在感がない」と批判されることが多いが、実際のデータでは異なる結果が出ている。日本は2050年カーボンニュートラル目標に向けた削減の軌道(オントラック)で進んでおり、これができているのは日本とイギリス程度で、ドイツやフランス、カナダなどは目標からのずれが生じている。
また、日本企業の取り組みも国際的に高く評価されている。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への参加数やCDPという環境評価で最高ランクを取得している日本企業は多い。にもかかわらず、日本国内のメディアでは「日本は遅れている」という論調が強く、若い世代ほどそのイメージを持っている。
Q. GX(グリーントランスフォーメーション)政策とは何ですか?
GXは岸田政権が掲げる政策で、単にCO2を削減するだけでなく、経済成長戦略としての側面を持つ。世界のGDPの90%以上がカーボンニュートラル目標を掲げており、脱炭素技術は世界市場で大きな競争力を持つ可能性がある。
アメリカのインフレ抑制法(実質的なグリーン投資法)が約3690億ドルの大規模投資を実施したことを受け、日本も遅れないよう約20兆円の政府投資と、民間からの130兆円の投資を期待するGX政策を推進している。日本のGDPを考えると、アメリカと遜色ない規模の取り組みだ。
GXは半導体と並ぶ日本の産業政策の柱として位置づけられており、「最後の賭け」とも言える重要な取り組みである。