政策超分析
元駐米大使が語るアメリカ大統領選挙
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2024年11月3日

杉村太蔵氏がレギュラーコメンテーターを務める新番組『政策超分析』。初回のゲストは杉村氏が今最も会いたい人物として名前を挙げた元駐米大使の杉山晋輔氏。米国大統領選が控える中、アメリカのリアルを聞いた。 <ゲスト> 杉山晋輔 |元駐米大使/外務省顧問・早稲田大学特命教授 1953年愛知県名古屋市生まれ...
元駐米大使が解説!トランプ氏とハリス氏、政策の違いと日本への影響
アメリカ大統領選挙で「もう一度トランプか」それとも「初の女性大統領誕生か」という歴史的な選択が迫っている。元駐米大使の杉山晋輔氏が語る両候補の政策の違いと日本への影響とは?

Q. アメリカ大統領選の見通しはどうなっていますか?
現在の情勢は非常に接戦です。最新の世論調査ではトランプ氏が48.5%、ハリス氏が48.4%と0.1ポイント差という状況です。ハリス氏は当初リードしていましたが、トランプ氏が追い上げてきました。
ハリス氏がバイデン大統領の降板を受けて民主党候補になったのは例外的な状況でした。通常は予備選挙などのプロセスを経て候補者が決まりますが、ハリス氏は緊急事態の中で指名されました。バイデン大統領がCNNでの討論会でのパフォーマンスが良くなかったことを受け、「降りろ」という声が党内で高まり、バイデン大統領は泣く泣く降板を決断したのです。
Q. トランプ氏とハリス氏の政策の違いは何ですか?
両候補の政策で最も大きな違いは気候変動とエネルギー政策です。ハリス氏は気候変動対策を重視するリベラルな立場ですが、トランプ氏は「気候変動なんて存在しない」と主張し、石油掘削を進める立場です。パリ協定からの離脱も主張しています。
また、妊娠中絶や銃規制、人種問題などの社会政策でも違いがあります。しかし、対外政策、特に対中政策については両候補とも厳しい姿勢を示しており、大きな違いはないと言えます。ウクライナ問題やガザ問題については、どちらも解決に向けて取り組む姿勢を示していますが、トランプ氏はウクライナの即時停戦に尽力する可能性が高いと見られています。
政策の違い以上に重要なのは、両候補のスタイルの違いです。トランプ氏は予測不可能で強烈な個性を持ち、ハリス氏はより伝統的な政治家のスタイルを持っています。
Q. トランプ氏の人柄とはどのようなものですか?
トランプ氏は一対一で会うと非常に温かみのある人物です。公の場では過激な発言をしますが、個人的な付き合いでは親しみやすく、相手を大事にする一面があります。例えば、日本の拉致被害者家族との対応では、過去の大統領と比べて非常に誠実だったと言われています。
またトランプ氏は戦争を好む人物ではありません。むしろビジネスマンとしてディール(取引)を重視し、平和でなければ儲からないと考えています。ウクライナ戦争についても「毎日何千人も死んでいる、これを何とかしなければならない」と述べており、停戦に向けて動く可能性があります。
Q. ハリス氏はどのような人物ですか?
ハリス氏は女性でマイノリティというアメリカ社会が抱える問題を体現した人物として注目されています。しかし、民主党内でも特別人気があったわけではなく、2020年の大統領選に向けた予備選では早々に撤退しています。
彼女の強みは「ガラスの天井を破る」可能性を持つ候補者であることですが、とっさの対応が得意ではなく、やや硬い印象があります。トランプ氏が面白さとカリスマ性で人を引きつけるのに対し、ハリス氏はより伝統的な政治家のスタイルを持っています。
Q. アメリカ大統領選の結果は日本にどのような影響を与えますか?
アメリカのリーダーが変わることは世界に大きな影響を与えます。実際、世界の中でリーダーが変わって世界情勢が大きく変わるのはアメリカだけと言っても過言ではありません。
日本としては、どちらが勝っても対応していく必要があります。日米関係は両国にとって極めて重要であり、その基盤は揺るぎません。しかし、アメリカのリーダーのスタイルに合わせて日本側も対応を変える必要があります。
重要なのは、日本が独自の旗を立てることです。特に対中政策において、日本は日米同盟を基盤としつつも、日中関係を発展させる独自の立場を持つべきです。同時に台湾との経済関係も進めるという両面作戦が必要です。同盟の本質は危機の際に共に戦うことであり、その本質を損なわない範囲で「意見の相違」を認め合う関係こそが真の同盟と言えます。
Q. トランプ氏の「アメリカファースト」政策は日本にとって懸念材料ですか?
トランプ氏の「アメリカファースト」政策は確かに懸念される面もありますが、一方でトランプ氏は取引重視の現実主義者です。日本としては、トランプ氏のような政治家に対しては「自国第一主義は結局あなたにとっても良くない」と説得し、日本の利益と全体の利益になるような関係を構築していく必要があります。
一方、民主党のハリス氏は国際協調主義で日本にとっては付き合いやすい面がありますが、「本当に台湾防衛をするのか」といった重要な局面での関与にはやはり不確実性があります。どちらの政権になっても、日本の立場をしっかり主張し、日米関係を発展させていくことが重要です。
Q. 駐米大使の役割とはどのようなものですか?
駐米大使の仕事は「営業努力」に尽きます。靴を減らして歩き回り、何度もノックし、相手に会えたら本音で話す。これが外交の基本です。実際、ある日本の自動車メーカーがアメリカに工場を建設できるよう交渉したのも駐米大使の役割でした。
また大使は、表向きの発言と一対一での本音の会話を使い分ける必要があります。例えばCNNのインタビューでは外交的な回答をする一方、上院議員や閣僚、大統領との個別会談では本音できちんと話さなければ相手の心には届きません。
日米関係は政権や個人の好き嫌いを超えた国益に基づくものです。どんな政権になっても、日本にとってアメリカは唯一の同盟国であり、アメリカにとっても日本は極めて重要な同盟国です。この基本的な関係を踏まえた上で、リーダー同士の個人的な信頼関係や「ケミストリー」が重要になります。
Q. 国連改革の見通しはどうですか?
国連改革は極めて難しい課題です。国連安全保障理事会の常任理事国は拒否権を持っており、自らの既得権を手放すことは考えにくいからです。「自分の既得権を自分で剥奪する」ことはまず起こり得ません。
日本は長年、国連改革を訴えてきましたが、実現には至っていません。過去には1990年代と2000年代に改革のチャンスがありましたが、国内の意見の不一致もあり実現しませんでした。特に「日本が常任理事国になることは外務省が偉そうな顔をするだけだ」といった批判もあり、国内の意見統一ができなかった時期もありました。
しかし、現在のウクライナ戦争やガザ紛争などを見ると、国連が機能不全に陥っていることは明らかです。今後も粘り強く改革を訴えていく必要があります。