
ホワイトカラーが生き残る3つの道
ホワイトカラーからエッセンシャルワーカーへの転身は可能?リスキリングが日本の未来を変える
経済産業構造の変化とともに、従来の「ホワイトカラー」の価値が問い直されている現代。新たな職業選択として「アドバンスト現場人材」という道が注目されています。この変化は単なる職種の移行ではなく、日本社会全体の価値観の転換を意味するのかもしれません。冨山和彦氏に詳しく聞きました。

Q. 日本の大学教育の問題点は何ですか?
残念ながら日本の大学教育は実務教育を軽視してきた歴史があります。実学がほとんどない状況で、大学関係者たちは資格取得型の教育に移行しつつあります。しかし現代社会では、漫然とホワイトカラーモデルを追求することが最もリスクの高い選択になってきています。
日本の高等教育の中で世界的に最も評価が高いのは高専です。一方で平均的な文系学部は世界から全く評価されていません。「今は役に立たなくても将来役に立つ」と言われてきた文系教育ですが、実際には今役に立たないものは将来も役に立たないことがほとんどです。高い時間とお金を使って文系に進むことは、現代ではリスクが非常に大きいと言えるでしょう。
Q. エッセンシャルワーカーの価値とは何ですか?
医療、介護、観光業などの現場人材の仕事は、直接お役立ちをして感謝されてお金を払ってもらうという、人間が昔からずっとやってきた根源的な仕事に近いものです。お客様と直接接点を持ち、サービスを提供する仕事は、社内政治に明け暮れるホワイトカラーの仕事よりも、はるかに価値があると言えます。
バス運転手を例にとると、60代の運転手が最も生産性が高いことがわかります。その理由は、人生経験の厚みによる気配りができるからです。例えばバスで最も問題になるのは社内での転倒事故ですが、若い運転手にはその危険性に対するリアリティがありません。年齢を重ねた人の方が、乗客への配慮ができるようになるのです。
Q. ホワイトカラーの人がエッセンシャルワーカーになれますか?
ホワイトカラーからエッセンシャルワーカーへの転職は十分可能です。むしろ逆方向の方が本来は難しいのかもしれません。エッセンシャルワーカーの仕事は極めて生活に密着した、人間として当然やっていけるはずの仕事がほとんどです。きちんと勉強すれば十分に対応できます。
実際、日本人の多くはすでにエッセンシャルワーカーとして働いています。ホワイトカラーは全体の40%程度で、最近のドラマの主役もホワイトカラーはあまり登場しません。日本社会の実態としては、すでに多くの人がエッセンシャルワーカーの世界で働いており、そこの給料が上がっていけば自然と人気も上がっていくでしょう。
Q. 40代・50代のホワイトカラーがリスキリングするには?
40代・50代のホワイトカラーがリスキリングする際の一つの選択肢は、ローカル企業のマネジメントへの転身です。ローカル企業とは地方だけでなく、東京の中の地域密着型企業も含みます。例えば商店街や地元の工務店、地元の飲食店なども含まれます。
東京は巨大なローカル経済圏を持っています。世田谷区のような地域では、同じ場所に長く住み、地元企業で働く人が多くいます。実際に小学校の同窓会で集まると、いわゆるホワイトカラーサラリーマンは少数派で、多くは地元企業の経営や地元の医者、会計士、学校の先生などとして働いています。
Q. 給料が下がることへの不安はありませんか?
確かに、大企業で年収1200万円もらっている45歳の課長が観光業の最前線に転職したら、給料は700万円程度に下がるかもしれません。その場合は、一度収益を見直す必要があります。本気でリスキリングするなら、一時的な収入減は避けられないでしょう。
しかし将来的には、一流のホテルマンのような高給を得る時代になります。観光業界では、世界トップクラスの観光学校(スイスやフランス)の卒業生は初任給が15〜20万ドル(約2000万円)にもなります。日本でもそういった実践的な観光マネジメント教育が必要でしょう。
Q. 40代・50代の働き方の変化をどう考えますか?
100年生きる時代において、60歳からが第二の人生になります。その時に漫然とホワイトカラーサラリーマンとして過ごしてきた人は、「あなたは何ができますか?」と問われて答えられなくなるでしょう。何らかのスキルがなければ雇ってもらえません。
多様な選択肢がある中で、50代はどうにか逃げ切れたとしても、40代前半の人たちは真剣に考えどころです。自分の人生をどう過ごすのか、どのスキルを身につけるのか、早めに考えることが重要です。人生の多様性、多元性を持っておかないと、どこかで行き詰まってしまうでしょう。
Q. これからのエリート像とは?
世界で勝負する本当のエリートを目指すなら、「大谷翔平モデル」を考えるべきです。メジャーリーグや欧州チャンピオンズリーグでスターになるような、猛烈な才能と努力が必要です。
若者がグローバルエリートを目指すなら、2つの道があります。1つはグローバルスタートアップを立ち上げること。もう1つはローカル企業の経営幹部になることです。特に地方の中堅中小企業のトップの片腕になるというキャリアは、アメリカの一流大学の卒業生が最も選ぶ選択肢になっています。
「ベンチャーフォージャパン」のようなプログラムでは、若い人材が地方の中小企業に入り、経営の実践を学んでいます。大企業のエリート研修よりも100倍役に立ちます。なぜなら実際に意思決定をし、現場の問題に直面するからです。日々が決断の連続で、年上の従業員を管理し、組合と交渉するといった経験は、人間としての成長に大きく寄与します。
Q. 日本社会の未来像とは?
日本社会はすでに変化しています。ドラマ「団地の2人」のようにローカル経済圏での生活をテーマにした作品がヒットしているのがその証拠です。60歳になったらローカル経済圏で働くことが、むしろ幸せな選択かもしれません。
江戸時代の日本人、特に庶民は多様な職業を持ち、多様な生き方をしていました。歌舞伎の役者やさまざまな職人など、それぞれの道で働いていました。現代社会も同様に、多様な生き方が尊重される方向に向かっています。
分厚い中間層があってもいいのですが、その中身が違います。昭和時代の「大企業・終身雇用・ホワイトカラー」という一つの型に戻るのではなく、それぞれが自分の幸せを定義し、多様な選択をする社会が望ましいでしょう。
本気でアンラーン(学びほぐし)して、ラーニングし、スキリングしていけば、日本はいい時代になっていきます。努力した人が報われる、フェアな社会になる可能性があります。
