
総選挙と日本株の行方。選挙後50日で明暗
総選挙と日本株価、解読のカギは「選挙後の成長戦略」
「日本市場の行方を占う上で、総選挙結果は大きな分岐点になる」—ピクテジャパンストラテジストの糸島孝俊氏が語る総選挙と株価の関係、そして米大統領選との複雑な連動性について解説します。

Q. 最近の「石破ショック」と呼ばれる株価の動きはどう分析できますか?
「石破ショック」という言葉が広まっていますが、これは少し言い過ぎかもしれません。実際は「高市トレード」の剥落と捉えるべきでしょう。
今年の日経平均の大きな変動は7月11日の4万2426円から始まりました。ここからアメリカの経済状況悪化に連動して下落し、円キャリートレードの巻き戻しも加わって8月5日には3万1156円まで急落しました。その後9月27日に3万9829円まで回復したところで自民党総裁選がありました。
高市早苗氏が1回目の投票で首位になった際、円安株高を期待して日経平均は大きく上昇しました。しかし市場閉鎖後の決選投票で石破茂氏が逆転勝利すると、翌営業日から約2000円の急落となりました。これは高市氏がアベノミクス継承者として円安志向と見られていたのに対し、石破氏は増税や利上げに前向きで円高になるとの見方が強かったためです。
ただ現在は、石破氏が当初の発言から転換し、円高容認や増税に否定的な姿勢を示すなど、マーケットを意識した発言に変わってきています。そのため株価はじりじりと上昇し、再び4万円を目指す展開になっています。
Q. 総選挙期間中の株価はどう動く傾向がありますか?
興味深いことに、1990年から2021年までのデータを見ると、選挙期間中は基本的に株価が上昇する「逃げ上がり」の傾向があります。これにはいくつかの理由があります。
まず、選挙期間中は与党も野党も国民に対して好印象を与えようとするため、悪いニュースや不人気な政策発表を控える傾向があります。さらに、この時期はアメリカ株も上昇しやすい季節的な要因も重なります。
特に興味深いのは選挙後の展開です。過去のデータを見ると、選挙後に株価が上昇し続けた政権は長期政権になる傾向があり、下落した政権は短命に終わることが多いのです。例えば、小泉政権(2003年、2005年)や安倍政権(2012年、2014年、2017年)は選挙後も株価が上昇し、長期政権となりました。
これはマーケットが「改革」や「成長」を好むからです。小泉政権は「改革」を掲げ、安倍政権は「成長」戦略としてのアベノミクスが評価されました。一方、株価が下落した海部内閣(1990年)、橋本政権(1996年)、鳩山内閣(2009年)などは短命に終わっています。
Q. 石破政権は市場からどう評価されるでしょうか?
石破政権の評価は、これからの成長戦略次第です。当初、石破氏は地方創生を重視していましたが、現在は様々な政策を取り入れる柔軟な姿勢を見せています。
注目すべきは、石破氏が「守る」をキーワードに掲げている点です。彼は「ルールを守る」「日本を守る」「国民を守る」「地方を守る」「若者・女性の機会を守る」という5つの柱を示しています。特に「国民を守る」では「物価以上の賃上げ」や「2020年代に全国最低賃金平均1500円」という目標を掲げており、これが実現すれば内需関連やサービス業などへの好影響が期待できます。
ただ、アベノミクスのような明確な成長戦略はまだ見えていません。今後、来年夏に向けて出される「骨太の方針」の内容が重要です。岸田政権も当初は増税路線でしたが、途中から「アベノミクス風」の政策に転換し、新NISAなどの金融改革も評価されて株価が上昇しました。石破政権も同様に「豹変」できるかが鍵になります。
Q. 総選挙で与党が大敗した場合、株価はどう反応しますか?
総選挙での結果は確かに重要で、特に海外投資家の反応が鍵になります。
日本の政治に詳しい国内投資家は、与党が過半数を割る可能性は低いと見ているでしょう。しかし、日本市場に大きな影響力を持つ海外投資家は日本政治の詳細を把握していない場合が多く、議席減少という「不透明感」に神経質に反応する可能性があります。
また、来年7月には参議院選挙もあります。衆参両院で与党が過半数を維持できるかも重要なポイントです。よほど大敗しない限り石破政権は3年続く可能性もありますが、大きく議席を減らせば短命政権になる可能性も出てきます。
そのため、総選挙後のスタートダッシュが非常に重要です。選挙前は期待感から株価が上がりやすいですが、選挙後の政権の方向性が株価を大きく左右することになるでしょう。
Q. 米大統領選はどのように日本株に影響しますか?
11月5日の米大統領選は日本株にも大きく影響します。現在、ハリス氏とトランプ氏の激戦状態で、メディアによって見方が分かれる状況です。特に重要なのはペンシルベニア州などの激戦州での結果です。
選挙後、投票結果をどちらの候補も認めるかどうかも含めて、1月の就任までは不透明感が続く可能性があります。また、最近の米雇用統計は良好な数字を示していますが、大統領選挙の年は選挙前に雇用状況が良くなるという傾向があり、選挙後に実態が変わる可能性も考慮すべきです。
現在、多くのアメリカ企業は次期大統領が誰になるかで経営方針を大きく変える可能性があるため、様子見の状態です。ハリス政権になれば設備投資を拡大し、トランプ政権ならリストラや投資縮小という企業もあるでしょう。このため、選挙後の12月以降の経済指標に大きな変化が現れる可能性があります。
他のリスク要因としては中東情勢があります。イスラエルとイランの緊張が高まり、原油価格が大幅に上昇すれば、インフレ圧力が強まり株価の下落要因になりかねません。
Q. 中国経済の回復は日本株にどう影響しますか?
中国経済は最近、不動産問題への対応策として金融緩和や株式市場への流動性供給など積極的な政策を打ち出し、株価は10%以上上昇しています。
こうした中国株の上昇に、世界の投資家は無視できなくなっています。特にアジア株や世界株に投資する運用者は、パフォーマンス向上のために中国株への投資比率を高める可能性があります。
これは、相対的に日本株への投資配分が減る可能性を意味します。中国に振り向けられる資金が増えれば、日本を含む他のアジア諸国への投資が減る可能性があるのです。ただし、中国株は上下動が激しい可能性もあり、今後も注視が必要です。
Q. 今後の日本株と米国株の見通しはどうですか?
PER(株価収益率)で見ると、アメリカ株は現在22倍程度で、コロナ禍のピークだった23倍に近づいています。通常、アメリカ株のPERは14〜19倍程度で推移するため、現在はかなり期待が織り込まれた水準にあります。
一方、日本株は11〜16倍のレンジの真ん中あたりにあり、極端な期待も悲観もない状態です。そのため、業種を適切に選んで投資すれば、今後もしっかりとしたリターンが期待できる状況です。
最近ではセブン&アイ・ホールディングスがカナダの企業から買収提案を受けるなど、日本企業も収益向上への圧力が高まっています。これからの日本株は「一時的なファッション」ではなく、本格的な投資対象として注目される可能性があります。
アメリカ株が横ばいや低迷の場合、投資家は他の投資先としてヨーロッパやアジア、特に日本に注目する可能性があります。そうなれば、日本株の更なる上昇チャンスが生まれるでしょう。