
金利の基礎知識(前編)
投資家なら押さえておきたい!金利の基礎知識Q&A
金利は投資家にとって必須の知識だが、種類が多く複雑に感じることも多い。実はその仕組みは意外とシンプルだ。「お金を借りる時の値段」とも言える金利について、エコノミストの丸山義正氏と永濱利廣氏が解説。日銀の金融政策から私たちの生活への影響まで、金利の基本を抑えよう。

Q. 金利とは何ですか?
端的に言えば、お金を借りる時の値段です。例えば、家を借りる時に家賃を払うように、お金を借りる時には貸し手に支払う対価が金利になります。
金利は大きく2つに分けることができます。まず、借りる期間が1年以上の時に適用される「長期金利」です。代表的なのは国債、特に10年国債の利回りで、一般的にこれを長期金利と呼ぶことが多いです。
もう一つは「短期金利」です。これは短い期間でお金の貸し借りをする際に適用される金利です。主に銀行間での取引で使われ、特に翌日返済を前提とした「無担保コール翌日物」が重要です。日銀が政策金利として操作するのもこの短期金利です。
Q. 金利はどのように決まるのですか?
金利の決まり方の起点は中央銀行です。日本の場合は日本銀行が無担保コール翌日物の金利を決めます。これが最も短期の金利となり、他の金利はこれを基準に決まっていきます。
例えば、日銀が政策金利を0.25%に引き上げると、銀行の普通預金金利も上がります。ただし、銀行は店舗維持費や人件費などのコストを差し引くため、実際の預金金利は政策金利より低い水準(例えば0.1%など)になります。
長期金利はマーケットでの取引によって決まります。例えば10年国債の金利は、今後10年間の短期金利がどう推移するかという市場参加者の予想の集合体と考えることができます。景気が良くなると予想する人は高い金利を、悪くなると予想する人は低い金利を想定し、その折り合いがつくところで長期金利が決まります。
Q. なぜ金利の調整幅は0.25%単位が多いのですか?
これは一種の慣習です。日本だけでなく、アメリカや欧州など多くの国で金利調整は0.25%(1/4)単位で行われています。ただし、緊急時には0.5%や0.75%など、より大きな幅で調整されることもあります。
例えば最近のアメリカの利下げでは0.5%の引き下げが行われました。これは通常よりも大きな調整幅で、経済状況の急速な変化に対応するためです。
Q. 金利が私たちの生活にどのような影響を与えますか?
金利は私たちの生活に大きな影響を与えます。政策金利が上がると、普通預金の金利も上がるため、預金からの利息収入が増えます。
一方で、住宅ローンへの影響も大きいです。特に変動金利で住宅ローンを組んでいる場合(現在は約9割の人が変動金利)、政策金利の上昇に伴ってローン金利も上がり、返済額が増加します。固定金利の場合は、長期金利の動向によって金利が決まります。
さらに、金利は経済全体にも影響します。金利が上がると借入コストが上昇するため、企業の投資や個人の消費が抑制され、経済活動が鈍化する傾向があります。逆に金利が下がると借入が容易になり、経済が刺激されます。
Q. 日銀はなぜ金利を上げたり下げたりするのですか?
日銀の最大の目的は物価の安定です。物価が安定して初めて健全な経済活動が可能になります。日銀は物価目標として2%のインフレ率を掲げています。
物価が上昇しすぎる(インフレが進む)時は、金利を上げて経済活動を抑制します。逆に物価が下落する(デフレになる)時は、金利を下げて経済を刺激します。
また、金利政策は雇用状況にも影響します。アメリカの中央銀行(FRB)は物価の安定と同時に、雇用の最大化も目標としています。日本でも雇用は重要な指標ですが、アメリカほど雇用統計単独で判断することは少なく、景気全体を見ながら金融政策を決定します。
Q. 金利とインフレにはどのような関係がありますか?
金利が上がりすぎるとインフレ率は下がる傾向があります。逆に金利を下げるとインフレ率は上がりやすくなります。これは金利の変動が経済活動全体に影響するためです。
また、金利からインフレ率を引いた「実質金利」という概念も重要です。例えば、政策金利が0.25%でインフレ率が3%の場合、実質金利はマイナス2.75%になります。マイナスの実質金利は、実質的に借り手が得をする状況を意味します。
日銀が最近金利を引き上げた背景には、円安の進行によって輸入品の価格が上昇し、インフレ率が目標の2%を超えるリスクが高まったことがあります。
Q. 2%というインフレ目標には根拠があるのですか?
2%というインフレ目標に厳密な理論的根拠はありません。ただし、アメリカや欧州で過去数十年間のインフレ率の平均が約2%だったことから、この水準が適切だと考えられるようになりました。
日本も国際的な整合性を保つために2%を採用しています。もし日本だけが0%などの低いインフレ目標を設定すると、為替レートが大きく変動してしまう可能性があります。また、日本は食料やエネルギーなど多くの物資を輸入に頼っているため、海外の物価上昇に遅れを取らないようにするためにも、ある程度のインフレは必要です。
経済学的には、「完全雇用における最低のインフレ率」が適正なインフレ率とされています。これは、働きたい人が全て働ける状況で物価が必要以上に上がらない水準を意味します。
Q. 「金利の正常化」とはどういう意味ですか?
「金利の正常化」とは、金利を中立的な水準に戻すことを意味します。「中立金利」とは、景気に対して緩和的でも引き締め的でもない金利水準のことです。
中立金利は国の潜在的な成長率と期待インフレ率によって決まります。アメリカは最近、中立金利を2.9%程度まで引き上げました。これはアメリカの潜在的な経済力が上がっていると見ていることを意味します。
日本の中立金利については明確な数字は示されていませんが、幅広く見ると0.5%から2.5%の間、一般的には1%から2%の間と考えられています。ただし、金利の正常化自体が目的ではなく、あくまで物価安定という目標を達成するための手段であることに注意が必要です。
Q. 専門家の間でも金利政策については意見が分かれることがあるのはなぜですか?
金利政策は、同じデータを見ても専門家によって解釈や重視するポイントが異なるため、意見が分かれることがあります。
例えば最近の日銀の利上げについて、日銀総裁の上田氏は「現在の状況で利上げは適切」と判断した一方、東京大学の渡辺氏は「経済学的に考えるとあり得ない」と批判しました。
この違いは、インフレの要因をどう見るかに起因します。現在のインフレは「第一の力」(輸入物価の上昇によるコストプッシュ型)が主で、「第二の力」(賃金上昇によるディマンドプル型)は弱まっています。渡辺氏はディマンドプル型インフレが弱い状況での利上げに反対したと考えられます。
また、変動相場制下での為替への配慮についても見解が分かれます。日銀は「為替を通じた物価への影響」という観点から政策を説明していますが、これを為替介入と見る向きもあります。
金融政策の効果は数年後に判明することも多く、現時点での是非は将来のインフレ率が2%に近づくかどうかで評価されることになるでしょう。
