
日本型雇用改革のすべて。これが答えだ!
雇用問題の専門家が解説「日本の解雇が難しいのは法的規制より企業の人事観が原因」
日本企業の雇用慣行を長年研究してきた雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏に、「なぜ日本では解雇が難しいのか」について解説してもらった。解雇規制緩和は政治的議論の場で30年以上繰り返されているトピックだが、本質的な理解が進んでいないという。海老原氏によれば、日本の解雇の難しさは法律よりも企業の人事観の問題だという。メンバーシップ型からジョブ型への移行が話題になる中、どうすれば日本の雇用システムは進化できるのか。

Q. 日本で解雇が難しいと言われるのはなぜですか?
日本の解雇の難しさについては2つの見方があります。法的な規制の面では、日本は国際的に見て標準的なレベルです。一方で解雇の実際の困難性を見ると、40カ国中トップクラスの難しさです。
この違いが生じる理由は、日本企業の雇用観にあります。日本企業は社員に対して「人事権」を持ち、自由に移動させることができます。そのため、裁判所からすれば「この仕事ができないから解雇する」という主張に対して「あなたは社員を自由に移動させる権限を持っているのだから、その人ができる仕事を探すべきだ」と判断するのです。
整理解雇の場合も同様です。「この部署の仕事がなくなったから解雇する」と言っても、「社員を他部署に移動させればいいではないか」と判断されます。つまり、企業が自由な移動権を持つ限り、解雇は難しいのです。
Q. ジョブ型雇用にすれば解雇はしやすくなりますか?
本物のジョブ型雇用であれば可能です。本来のジョブ型とは、特定のポストに給与とジョブディスクリプション(職務記述書)が紐付いている形態です。このポストがなくなったり、その職務ができなければ解雇されるというシステムです。
しかし、日本で言われる「ジョブ型」は、人にジョブをつけて、その人が移動したらジョブも変えるという「移動付きジョブ型」になっています。これでは人事権も失われず、本来のジョブ型の利点は活かせません。
日本でも外資系企業は本物のジョブ型を実践しており、裁判で負けていません。例えば有名なノバルティス事件では、「この仕事しかやらせません、この仕事ができなければ辞めていただきます」という方針で一貫しており、それが認められています。
Q. 日本企業はどうやって人員整理の問題に対応しているのですか?
大企業では「販売会社」という仕組みを活用しているところが多いです。製造業や総合商社などでは、地域や職種を限定した販売会社を作り、そこでは地域内でしか移動させず、職種も営業など限られたものだけにしています。このように移動も職務転換も制限することで、「この仕事がなくなった」という理由での解雇がしやすくなります。
また、給与体系も販売会社では本社のような昇給を前提としていないため、期待権(定年まで勤め上げれば高給になるという期待)も発生しにくくなっています。
銀行や証券会社のように販売会社を持たない業界では、50歳になったら自分で仕事を探す暗黙のルールや、出向のシステムで対応しています。
Q. 日本型雇用の良さは残すべきですか?
日本型雇用には良い面もあります。例えば、企業が人事権を持ち自由に移動させられるという点は、採用においてとても合理的です。海外企業では編集長が辞めたら一般公募かスカウトで新たに採用する必要がありますが、日本企業では他部署から横滑りで移動させるだけで済みます。
また、この「横滑り」が連鎖していくと、最終的には末端で新卒1人を採用するだけで済むという効率性があります。学生側から見ても、欧米のように職業訓練やインターンシップで特定スキルを証明する必要がなく、大学を出れば誰でも採用してもらえるメリットがあります。
さらに、日本型では異なる部署への移動を通じて様々なキャリアチャンスが生まれる可能性があります。欧米型では自分の上のポストが空かない限り昇進のチャンスはありません。
Q. 今後どのような方向に変えていくべきですか?
理想的には、35歳くらいまではメンバーシップ型で様々な経験を積み、その後は二つの選択肢に分かれるのがよいでしょう。一つは「厳しいジョブ型」で出世を目指す道、もう一つは「緩いジョブ型」で特定の職務・地域に固定されながらも、転勤や職務転換がなく早く帰れる代わりに給与は上がりにくいという道です。
この「緩いジョブ型」では、給与は同じポストなら年齢に関係なく一定になります。現在の日本企業では、能力に関係なく定期昇給で50歳で年収950万円まで上がることもありますが、これを変えていく必要があります。
同時に、非正規雇用の待遇改善も必要です。入口規制(どういう仕事に非正規を使えるか制限する)、出口規制(何年勤めたら無期転換するか)、給与協定(最低賃金より高い基準給の設定)の3つを整備すべきです。
Q. 雇用制度改革のために何が必要ですか?
雇用制度改革には法律の変更よりも企業の雇用観を変えることが重要です。企業が人事権を少し手放し、部門型採用を進めれば、その部門内でしか移動しない仕組みができ、解雇もしやすくなります。
また高プロフェッショナル人材の制度をもっと活用し、時間規制はなくすが残業代も出ない代わりに、仕事が終われば早く帰れる仕組みを広げるべきです。
さらに、企業間の人材移動を活性化するために、職業訓練の仕組みを改善する必要があります。座学よりも企業での実地訓練を重視し、失業保険や訓練給付からの支援で、企業が無料で人材を試せる期間を作るべきです。
日本の雇用システムは、法律を変えるよりも企業の運用を変えることで、より柔軟で働きやすいものになる可能性があります。