PIVOT TALK HEALTH
お腹が減らなければ食べない健康法
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2024年8月23日

元日経ヘルス編集長で健康医療エディターの西沢邦浩氏をゲストに迎え、「エイジングスロー」や若さを保つ食事、睡眠について聞いた。
慢性炎症と老化の関係、若い世代も知っておくべき健康リテラシー
若いうちから始まる老化のプロセスとその対策について、健康医療ライターエディターの西沢邦浩氏に詳しく聞いた。最新の研究では、20代からすでに老化が始まっており、若いうちからの生活習慣が将来の健康に大きく影響することがわかっている。慢性炎症(インフラメイジング)の影響と、社会全体への波及効果について解説する。
Q. 最近話題の「インフラメイジング」とは何ですか?
世界的に注目されている「インフラメイジング」は、「炎症(inflammation)」と「老化(aging)」を組み合わせた言葉です。
一般的に炎症というと、ケガをした時に赤く腫れる急性炎症を思い浮かべますが、慢性炎症は違います。この状態が若い頃から続くと、例えば20代や30代でレベルが高いと、中年期頃から記憶力や思考能力が低下してきます。
慢性炎症が起こる典型的な例としては、内臓脂肪の蓄積があります。また高脂肪食を毎日摂取するなど、体に負担をかけるような状態が続くと、それに対する反応として体内で炎症が起こります。
Q. 内臓脂肪はなぜ炎症を引き起こすのですか?
適正な量の内臓脂肪は体にとって重要な器官ですが、過剰になると問題が生じます。免疫細胞がこれを異物と認識して攻撃を始め、その過程で炎症シグナルが出続けるのです。
この炎症シグナルが持続することで、血圧上昇や血糖値の上昇などが起こります。また、強いストレスがかかった場合や体内時計(サーカディアンリズム)が乱れている状態でストレスを受けると、炎症レベルが上がります。
つまり、体が心地よい状態を保つことが炎症を抑え、老化の原因となる慢性炎症を低減することにつながります。
Q. 体が心地よくない状態とはどのようなものですか?
睡眠不足や栄養バランスの悪さが代表例です。また、食欲がないのに無理して食べることも該当します。
高カロリー食品の過剰摂取は体への負担になります。不要なカロリーが体内に入ると、それを処理すること自体がストレスになります。自分は楽しいと感じていても、体にとっては「もうやめて」という状態が続いているのです。
甘いものや油っこいものは瞬間的に美味しいですが、体はそれを処理するために大変な労力を使っています。最新の研究では、糖質の過剰摂取が近視の原因にもなる可能性が示唆されています。近視も老化現象の一つと考えられ、過剰な糖質摂取が体に負荷をかけ、様々な形で老化を促進する可能性があります。
Q. 老化はいつから始まっているのですか?
驚くことに、老化を促進する要素は20歳頃から増加し始めます。35歳頃までグッと伸び、40歳頃から一度落ち着きます。その後60歳頃に小さなピークがあり、それを過ぎると急激に上昇するパターンを示します。
つまり、若い時期にすでに老化は進行しています。若い頃の生活習慣が後の老化速度に大きく影響するため、この時期の対策が重要なのです。
Q. 若い時期の老化に関する研究はありますか?
ニュージーランドのダニーデンという町で行われている研究があります。1972年生まれの人々を26歳から追跡調査していて、38歳時点(12年経過)での老化の差を調べました。
その結果、若い時期でも老化速度に個人差があることが判明しました。特に老化が進んでいた人々の特徴として、以下の3点が挙げられます:
1. ヘモグロビンA1C(血糖コントロールの指標)の上昇
2. ウエスト・ヒップ比の増加(お腹周りの肥満)
3. 心肺機能の低下
さらに衝撃的なのは、顔の見た目年齢と実際の生物学的老化に相関があったことです。45歳まで追跡した研究では、老化の遅い人々は1年あたり約0.5歳しか老化していないのに対し、老化の速い人々は1年で2歳も老化していたのです。
また、老化が進んでいた人々は思考テストでもネガティブな結果を示し、歯周病も多く見られました。
Q. 老化を遅らせるために実践していることはありますか?
私自身は、以下の2点を心がけています:
1. 週末は必ず運動する
2. お腹が空いていない限り食べない
特に2つ目については、前に摂取した食物の消化・吸収が終わった合図として空腹感が出たら食べるというシンプルな方法です。飲み会などでコース料理が出る場合は前後で調整していますが、毎日それを厳格に守るわけではなく、ある程度緩く実践しています。
Q. 個人の健康が社会に与える影響についてどう考えますか?
個人の健康は社会全体の強さに直結します。特に日本のような少子高齢化社会では、若い世代が病気になると社会への負担が大きくなります。
ハーバード大学のデビッド・シンクレア教授は経済学者と共同で興味深い研究を発表しました。アメリカ国民全員が1歳若返った場合、消費市場への総支払額(WTP)が37兆6,000億米ドル増加するという試算です。これはアメリカのGDPの約1.5年分に相当します。
つまり、若々しさを維持することは医療費削減だけでなく、経済成長にも大きく貢献するのです。ガリバー旅行記に出てくる「死なないけど元気がなくなる老人」ではなく、「ピーターパン」のように若々しい人々が増えることが、社会にとって理想的なのです。
Q. 日本の教育や政策として何が必要だと思いますか?
小中学校の教育カリキュラムに生活サイエンスを取り入れ、センター試験の必須項目にするなどの対策が理想的です。しかし政府レベルでの実現は難しいため、民間の力で若い世代へのライフサイエンス教育を広げていく必要があります。
例えば、若い痩せた女性の中にも糖尿病予備軍が増えているというデータがあります。この状態で妊娠すると小さく生まれる赤ちゃんのリスクが高まり、将来的な健康問題につながる可能性があります。こうした知識は中高生のうちに得ておくべきものです。
SNS上で他人と自分の体を比較することでメンタルヘルスに悪影響が出るという問題もあります。「痩せていることはいいこと」という社会的メッセージも再考する必要があります。
日本は超高齢化社会の最前線にいます。みんなが若々しく健康に年を重ねる社会のモデルを示すことができれば、世界に対して大きな貢献になるでしょう。若い世代が健康的で楽しそうな生活を送ることで、上の世代も良い影響を受けます。企業家や有識者がもっと発言し、国民の関心を高めていくことが重要です。