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ウクライナに勝機はあるのか? 越境攻撃の狙いと今後のシナリオ
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2024年8月18日

開戦から2年半が経過したウクライナ・ロシア戦争。ウクライナの越境攻撃により戦況が変化しつつある。なぜウクライナは越境攻撃に踏み切ったのか?今後、両国の戦いはどう展開して行くのか?現状分析と今後のシナリオを地経学研究所の小木洋人主任研究員に聞いた。 <ゲスト> 小木洋人|地経学研究所 主任研究員 2...
ロシア・ウクライナ戦争の展望:停戦への道筋と世界秩序への影響
Q. 開戦から2年半が経過したロシア・ウクライナ戦争の現状はどうなっていますか?
地政学研究所主任研究員の小木洋人氏によると、現状ではロシアが優勢な状況が続いている。2022年の開戦当初はロシア軍の運用に問題があり、ウクライナ軍がうまく防衛していたが、現在は消耗戦的な状況となっている。
近代の戦闘は砲弾や大砲など火力の優位性が重要で、さらに誘導機能や偵察機能が加わり精密性が増している。両国がこのような戦い方をマスターし、物量もある程度ある状態で対峙すると、領土を確保するために前進することが難しくなる。
特に弾薬の供給量が重要な要素となっており、ロシアは1日に約1万発の砲弾を使用しているのに対し、ウクライナは約2000発と5分の1から6分の1程度の差がある。この物量の差により、ロシアがじわじわと優位に立っている。
ロシアは戦時経済体制を敷き、弾薬の生産を維持・拡大している。また北朝鮮やイランからの支援、中国からのデュアルユース(軍民両用)の工作機械などの流入もあり、当面はロシアの物量面での優位は変わらないだろう。
Q. ロシアが物量で優位に立っているなか、ウクライナがロシア領内のクルスク州に侵攻した背景は何ですか?
クルスク侵攻には複数の軍事的理由がある。一つは戦力分散の意図だ。2024年5月頃からロシア軍がウクライナ第二の都市ハリコフ北部に侵攻攻撃を仕掛けてきた。この圧力を緩和するため、ロシア軍があまり準備していない後方から攻め、戦力を引きつける狙いがある。
また、ロシアの攻撃の鍵となっている対地攻撃機などをなるべく撃破し、戦力を削ぐ目的もある。
タイミングについては、ウクライナ軍情報局長のブダノフ氏が「ロシア軍の兵力増強は1ヶ月から1ヶ月半で最高潮に達する」と発言していたことが関係している。ロシア側の動員がピークに達する時期にこの作戦を実行し、ロシア側の勢いを止める意図があったと考えられる。
ウクライナ軍がロシア領内に入ることで、ロシア領内からロシア領内への攻撃が可能となり、ロシア国内の空軍基地などを直接攻撃できるようになった点も重要だ。これによって戦況に変化をもたらす可能性がある。
Q. クルスク侵攻によって、ロシアの主張する「レッドライン」は変化したのでしょうか?
プーチン大統領がたびたび言及する「レッドライン」は、元々固定されたものではなく常に動いている。例えば、ハリコフやヘルソンでウクライナが反転攻勢を行い領土を取り返した際、ロシア側は「戦術核を使用するかもしれない」という報道を出したが、これはブラフだと考えられる。
レッドラインの内容自体も不明確だ。ウクライナに対して何らかの報復(戦術核を含む)を行うという意味なのか、アメリカや欧州NATO諸国に対する報復という意味なのか明確ではない。
実際に戦術核を使用した場合、地上作戦を好転させることができるのか疑問が残る。放射能の影響でロシア軍自身も被害を受けるため、実際的なメリットは少ない。
歴史的に見ても、第二次世界大戦後、第三国が軍事援助したからという理由で、その第三国に対して戦争を仕掛けた例はほとんどない。そのためアメリカや欧州に対して何らかの報復を行うハードルは非常に高い。
結果として、レッドラインは主に脅しの材料として使われており、クルスク侵攻によってその実効性は低下している。
Q. 今後、この戦争はどのようなシナリオを描く可能性が高いですか?
クルスク攻撃がうまく進展しても、直ちに停戦に向かう可能性は低い。両国とも約20万人近い死傷者を出している中で、簡単には終結しないだろう。
ロシア側はプーチン大統領の政策として始めた戦争を失敗と認めることはできず、一方でウクライナ側も元々の目的がゼレンスキー政権の排除・無力化だったロシアを信用できない。
2024年はロシアが戦時経済で補給を拡大している状況だが、2025年以降、ウクライナがじりじりと押し返していき、ロシアの中国、北朝鮮、イランからの支援が先細った時点で、ロシアが戦争継続の困難さを認識する可能性がある。
しかし、それでもすぐには終結せず、徐々に全体的な力関係の変化の中で停戦に向かうと予想される。最低でも2年程度は戦闘が継続する可能性が高い。ただし、アメリカなどの軍事援助の継続状況や、米国の政権交代によって状況は変わりうる。
仮に停戦が実現しても、2014年のクリミア併合と東部ドンバス地域の紛争後のように、散発的な打ち合いが続く不安定な状況が続く可能性が高い。
Q. 米国大統領選挙の結果は、この戦争にどのような影響を与えますか?
トランプ氏が大統領に当選した場合、ウクライナ支援に大きな影響を与える可能性がある。過去のトランプ政権時代に、ウクライナへの武器支援を予算があるにもかかわらず一時停止した前例がある。
現在の補正予算は2024年4月頃に成立し、総額約287億ドルのうち、すでに半分近くが使用されている。残り約164億ドルは現在のペースでは2025年4月か5月頃まで持つと予想されるが、その後の支援が続くかどうかは不透明だ。
トランプ氏自身は「自分が交渉すればうまくいく」と主張しているが、そのような交渉が成功する保証はない。重要なのは、支援が中断する「空白期間」が生じた場合、ロシアにとって軍事的な好機となる可能性がある点だ。
また、トランプ氏は「欧州がもっと負担すべきだ」と主張しており、NATO首脳会議でも「公平な負担分担」という文言が盛り込まれた。しかし、現時点で欧州諸国がアメリカの分まで肩代わりする意思表明はなされていない。
支援が続く場合でも優先順位が重要で、特に防空ミサイルの供給が最も重要になるだろう。
Q. 最終的に停戦となった場合、世界秩序はどのように変化するでしょうか?
欧州の安全保障秩序においては、NATO加盟国がGDPの2%を防衛費に充てる国が増加している。特にポーランド、バルト三国、北欧諸国が積極的に防衛力を強化している。欧州諸国は、アメリカの貢献が減少しても対応できる体制を目指している。
停戦後も、ウクライナは戦争以前の領土を完全に取り戻せない可能性が高い。完全な勝敗をつけた形での終結よりも、お互いにこれ以上継続が困難という状況で、一旦停戦し、その後交渉するというシナリオが考えられる。
ただし、プーチン大統領の突然の健康問題や政治的変化があれば、状況は大きく変わる可能性もある。後継者が全く別の政治的立場から登場した場合、戦争を終わらせる可能性はあるが、同じグループからの後継者であれば継続する可能性もある。
世界秩序全体としては、この紛争によってロシアが国際社会でさらに孤立し、中国との関係が強化される一方、西側諸国の結束と防衛協力が強化される形で再編される可能性が高い。