PIVOT TALK BUSINESS
売り上げより価値にこだわれ【後編】
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2024年8月11日

メジャーリーグサッカーから学ぶスポーツマネジメントを中村 武彦さんから学びます。
MLSに学ぶスポーツビジネスの未来形:日本型の可能性を探る
日本とアメリカのスポーツビジネスにはどのような違いがあり、そこから何を学べるのか。メジャーリーグサッカー(MLS)での経験を持つ中村武彦氏にスポーツビジネスの歴史的背景や日本の成長可能性について聞いた。
Q. MLSとJリーグの歴史的な違いは?
スポーツビジネスは1800年代のイングランドに始まりました。当初は地域の人々が年に数回集まるイベントで、勝敗よりも交流が目的でした。産業革命で交通手段が発達すると、他の町との交流が始まり、ルールや審判、記録の概念が生まれました。この過程で「うちの町があの町に負けるわけがない」という地域の誇りも芽生えました。
現代のヨーロッパサッカーはこの伝統を継承しています。例えばバルセロナとレアル・マドリードの対戦(クラシコ)では、単なる試合の勝敗を超えた地域の誇りがかかっています。
一方、歴史や伝統のないアメリカでは、移民たちが同じことを試みましたが定着しませんでした。代わりに興行主(プロモーター)が登場し、チケットを販売するビジネスモデルが発展しました。この違いから、ヨーロッパでは歴史と伝統としてスポーツが発達し、アメリカではビジネスとして発展したのです。
この違いは現在のクラブ運営にも表れています。アメリカではチームが売買されたり移転したりするのが一般的です。例えばロサンゼルス・ドジャースは元々ブルックリン・ドジャースでした。一方、FCバルセロナがマドリードに移転するなどヨーロッパでは考えられません。
Q. 日本のスポーツビジネスはどちらのモデルに近いですか?
日本は歴史と伝統を重んじる国なのでヨーロッパ型の要素が多分にあります。しかしアメリカ型のビジネスメソッドも取り入れられるでしょう。
日本は自動車や家電産業でも海外から技術を取り入れ、精度を高めて世界一の製品を作ってきました。スポーツビジネスでも両方から良いところを取り入れれば、世界レベルのスポーツビジネス国家になる可能性があります。重要なのは「ハイブリッド」の発想です。どちらか一方のモデルにこだわる必要はありません。
現時点でMLSがJリーグより先行している面もありますが、それを単純に比較して優劣を決めるのは意味がありません。むしろ2つの異なるモデルが存在する今、良いところを取り入れながら日本の良さを残していくことで成長速度が上がるはずです。
Q. MLSから学べる具体的なビジネスモデルはありますか?
外部から資金を呼び込みたいなら、投資家が参入しやすいルールを整備することが重要です。スポーツの魅力は予測不能なところにありますが、それが時にビジネス上の障害になることもあります。そこで何らかのルール設定が必要かもしれません。
日本のプロ野球もドラフト制度を採用し、クローズドリーグとして運営されています。つまり日本国内でも様々なモデルが共存しています。
またチームごとに異なる戦略を持つことも大切です。あるチームは「サッカーを売り物にする」、別のチームは「地域密着型」、また別のチームは「エンターテインメント性重視」といった具合に、リーグ内で多様性があっても良いのです。人口が少ない地域ではサッカーだけでは集客が難しいかもしれないので、エンターテインメント要素を強化する必要があるかもしれません。
Q. スポーツビジネスの特徴的な強みは何ですか?
スポーツビジネスには3つの特徴的な強みがあります。「共感」「感情移入」「一体化」です。
「共感」とは知らない人同士でもゴールが決まった瞬間にハグしたり、SNSでシェアしたりする行為です。普通の商品を買う時にはこのような行動は起きません。
「感情移入」はPK戦で見ていられなくなったり、試合終盤の緊迫した場面でテレビを切ってしまうほど感情が動くことです。
「一体化」はファンが「私たちが勝った」というように、自分自身がチームの一部になったような感覚を持つことです。
これらの要素をデジタルコンテンツや実際の観戦体験にうまく取り入れることで、魅力的なコンテンツになります。
Q. MLSではフロント人材はどのように働いているのですか?
MLSは様々な業界からの人材が集まる多様性のある環境です。コミッショナーは元NFLの人材ですし、フロント人材も「ピッチ外の選手」として毎年契約交渉があります。給料の高い人は代理人を通じて交渉し、一方で厳しい世界でもあり、6年間の勤務で約30人が退職していくのを見てきました。
MLSでは「ジョブ型」の雇用形態が特徴的です。専門性を持った人材が自分のスキルを活かして働きます。人材の流動性も高く、例えば上司だった人がある日突然アーセナルに引き抜かれたり、営業部の人がインテルミラノのCROになったりといった移動があります。
アメリカでは一般的に転職が多いですが、スポーツ業界では特に厳しい面もあります。初年度の給料は非常に低く、「今年はクビにならないだろう」と上司に確認したほどでした。厳しい環境ですが、様々なチャンスもあります。
Q. アメリカにおけるサッカーの今後はどうなると思いますか?
面白い傾向として、元々コミュニティ意識が薄くビジネス主導で発展したMLSですが、今では若者の間でサポーター文化が広がっています。ヨーロッパや日本のように地元のチームを応援する文化が新鮮に受け止められ、地域への帰属意識がサッカーを通じて根付き始めています。
課題としては、アメリカの広大な国土をカバーしきれていないことが挙げられます。時差が4つもある大国なので、若い選手の発掘が難しい状況です。また「Pay to play」と呼ばれる有料の育成システムがあり、経済的に余裕のある家庭の子どもしかアカデミーに通えない問題もあります。
近年MLSはヨーロッパに選手を高額で移籍させるようになり、2000万〜3000万ドルで取引されるケースも出てきました。人材発掘と育成がうまく連携できれば、さらに面白い展開になるでしょう。
Q. MLSはアメリカの4大スポーツに入る可能性はありますか?
既に「5大スポーツ」と言う人もいるほどで、1試合あたりの平均観客動員数は3位になっています。これが継続して拡大すれば、4大スポーツに食い込む可能性は十分あります。データでは若者はNBAかMLSを好む傾向が見られるので、将来性はあると言われています。
Q. Jリーグの可能性についてどう思いますか?
Jリーグは非常に大きなポテンシャルを持っています。既に世界レベルの選手が各国のリーグで活躍しており、これからが楽しみです。単に批判したり真似したりするだけでは成長できません。日本の自動車メーカーが世界で成功したように、スポーツビジネスでも世界を代表する国になる可能性は十分にあります。
海外で活躍するには「自分が日本人である」ということを理解することが最も重要です。海外で働いていた時、アメリカ人に勝とうとして英語や文化を身につけようとしましたが、それは不可能でした。発想を変えて「アメリカ人はなれない日本人としての自分」がMLSにどのような価値を提供できるかを考えたところから、キャリアが開けました。自分のアイデンティティを理解することがグローバルで活躍する鍵なのです。