日本再興ラストチャンス
前編:ダイバーシティは洗脳か?【成田悠輔】
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2024年5月18日

ダイバーシティやDEIなど多様性推進の議論がされて久しいが、ジェンダーギャップ指数において、日本は諸外国に比べてまだまだ遅れをとっている。成田悠輔氏と有識者を招いて「多様性で企業の業績は上げられるのか?」をテーマに議論する。 <ゲスト> 星野朝子|経済同友会 社会のDEI推進委員会 委員長 日産自...
企業業績は多様性で本当に伸びるのか?日本社会が直面するDEI推進の課題と成功戦略
近年、「多様性」「公平性」「包摂性」(DEI)の重要性が叫ばれる。しかし、その推進は本当に企業業績の向上に繋がるのだろうか。アメリカではDEI推進が「逆差別」と指摘されるケースも存在する。一方で、日本ではジェンダー平等への意識の遅れなど、独自の課題を抱えている。本記事では、DEIが単なる理想論ではなく、企業競争力に直結する戦略であることを、具体的な事例と共に考察する。
Q. 多様性は本当に企業の業績向上につながるのか?
多様性の推進が企業業績に直接的な影響を与えるかという問いに対し、明確な因果関係を科学的に示すことは依然として困難である。しかし、小規模なチームでの実験では、男女バランスが取れ、活発な対話がなされるチームの業績が良いという相関が確認されている。
この課題に対する企業の姿勢は二極化する。一つは、多様性を明確な経済指標やKPI達成のための「手段」と捉える見方だ。もう一つは、多様性それ自体を企業の「文化」や「目的」と見なし、その内在的価値を重視する見方である。ゴールドマン・サックスがかつて人材獲得競争で劣勢に立たされた際、留学生や女性といった当時の「マイノリティ」に活路を見出し、「競争力の宝庫」として彼らを受け入れた事例は、前者のアプローチを示すものだ。
Q. なぜ日本は世界の多様性推進から遅れを取るのか?
日本は多様性推進、特にジェンダー平等において国際的に大きく立ち遅れている。2023年のジェンダーギャップ指数(GGI)では、健康や教育分野では高評価を得る一方で、政治参加はほぼ最下位だ。これは国会議員の女性割合が長らく低水準にとどまっていることからも明らかである。また、起業家など経済分野においても、明確な参入障壁がないにもかかわらず、歴史上成功した女性の例は極めて少ない。この状況は「挑戦したい女性が不足している」のか、「見えない壁が存在する」のかという根深い問いを提起している。
さらに複雑な状況として、アメリカに住む日本人(アジア系)の事例が挙げられる。彼らは言葉の壁や人数の少なさから実生活ではマイノリティ感覚を持つが、アファーマティブ・アクションの文脈では「アジア系アメリカ人」として「マジョリティ」に分類されることが多い。このため、実質的なマイノリティでありながら、多様性推進策の恩恵を受けられないという、二重の不利に直面することがある。
Q. 企業が多様性を戦略的に推進するには、何が必要か?
多様性推進は現場からのボトムアップだけでは限界がある。なぜなら、多くの職場ではこれまで男性中心で業務が滞りなく進んでいたため、自ら変革を求める動機が希薄な場合が多いためだ。組織に真の変革をもたらすには、明確な目標を掲げたトップダウンの強力なリーダーシップが不可欠となる。
日産自動車では、CEOが経営会議で各部門の副社長に対し、女性管理職比率の目標未達成について一人ひとり厳しく問い詰めた。「なぜできないのか」「人材がいないなら外部から採用しろ」と厳命することで、全社的な意識と行動の変革を促した事例がある。このような上層部からの断固たるコミットメントが、具体的な進展を促す大きな要因となった。
また、多様性を阻む大きな要因として、「良かれと思って」の無意識な配慮が存在する。例えば、上司が「女性は子育てで忙しいだろうから」と忖度し、海外赴任や難度の高いプロジェクトから遠ざける行為は、結果的にキャリア成長の機会を奪うことになる。日産ではこれを打開するため、「Be Tough on Woman(女性に手加減するな)」というスローガンを掲げた。上司は本人の意思を直接確認し、たとえ子供が3人いてもブラジル赴任を快諾した女性の事例のように、積極的にタフな経験を積ませる方針に転換したことで、女性の海外赴任者が激増した。これは、これまで思い込みで機会を奪っていた実態を浮き彫りにした出来事であった。
Q. 多様性推進が企業にもたらす具体的なメリットとは?
現代において多様性の推進は、企業の業績向上にとって「マスト(必須)」の要素と捉えられている。これには主に3つの観点がある。第一に、グローバル化が進む中、優秀な人材を獲得し続けるための競争力強化。第二に、顧客層が多様化する現代において、多種多様なニーズに対応するための企業内での多様な視点の確保。第三に、人権意識が高まる国際社会において、DEIに無関心あるいは軽視する企業が「悪評リスク」を負うことからの回避、つまりリスクマネジメントの観点である。
インクルーシブな職場文化は、マイノリティだけでなく、全ての従業員が心理的な安全性のもと、それぞれのポテンシャルを最大限に発揮できる環境を構築する。従業員が余計な気遣いや配慮をすることなく、安心して業務に集中できる状況こそが、企業全体のパフォーマンスを着実に引き上げることになる。
Q. 日本社会全体で多様性を浸透させる「オセロ戦略」とは?
社会レベルで多様性を受け入れる文化を醸成するには、強硬な反対意見を持つ層との消耗戦を避け、賛成でも反対でもない「分からない」と感じている約7割の世論層を味方につける戦略が有効である。これは、オセロの駒のように、まずひっくり返しやすい中立の駒をターゲットとし、最終的に全体の局面を変える「オセロ戦略」と呼ばれるアプローチである。全ての反対者を説得する必要はなく、社会の「空気」が変わることで、多様性は自然に浸透していくと考えられる。
例えば、同性パートナーシップ制度は、数年前に世田谷区や渋谷区が導入した当初は世論の支持が過半数に満たなかった。しかし、導入自治体が全国に広がり、今や人口の80%以上をカバーするに至ると、社会に「慣れ」が生じた。その結果、同性婚への賛成意見も7割に達するなど、徐々に世論が変化していく様が見て取れる。加えて、カミングアウトをオープンにしつつも、過剰な攻撃性を感じさせずに自然体で行動するロールモデルの存在も、社会の空気を変える上で重要な役割を果たす。
Q. マイノリティが日常で直面する見えないストレスとは何か?
カミングアウトしたマイノリティが直面する困難の一つは、非公式な情報ネットワークからの排除である。例えば、ゲイであることをオープンにした人物が、これまで参加できていた合コンなどの場、ひいてはそこから得られる昇進や社内の非公式なルールに関する情報から遠ざけられる現象は、非マジョリティが直面する隠れた不利益を示すものだ。これは、かつて女性社員が経験してきた「情報の壁」とも共通する。
また、マイノリティであることは、日常の中で常に自身のアイデンティティや、カミングアウトのタイミングを意識せざるを得ない心理的な負担を伴う。これはマジョリティには理解しがたいストレス源となる。男性から女性へ性別移行した人物が「男性だった頃は道で人が避けてくれたのに、女性になってから肩がぶつかるようになった」と語った事例は、マイノリティが社会的に軽視されがちな目に見えない地位の低さを、日常の些細な行動を通して経験している現実を象徴している。こうした細やかなストレスの積み重ねが、マイノリティが潜在能力を十分に発揮できない原因となることもある。