
30歳より50歳創業がイグジット率は高い
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2024年4月24日
今回の「EXTREME ECONOMICS」のテーマはスタートアップ。スタートアップの経済学を専門とする加藤雅俊・関西学院大学教授が経済学の視点から見るスタートアップの意義や成功要因を解説。 <ゲスト> 加藤雅俊|経済学者 関西学院大学教授。イノベーションの経済学が専門。 一橋大学大学院で博士号を...
データが語るスタートアップの「残酷な真実」— 日本経済再活性化の鍵を経済学から読み解く
スタートアップは現代社会の希望の星だ。政府は巨額の予算を投じ、その成長を後押ししている。だが、スタートアップへの期待は果たして実像を捉えているのだろうか。
経済学者はデータと論理に基づき、私たちが抱くイメージとは異なる「残酷な真実」を明らかにする。関西学院大学の加藤正敏教授へのインタビューを通じて、スタートアップの経済的役割から成功の法則、そして日本の未来まで、その本質を深掘りする。
Q. なぜ政府はスタートアップを経済成長の起爆剤と考えるのか?
政府がスタートアップを積極的に支援する最大の目的は、経済全体の活性化である。経済学の視点から見ると、スタートアップは市場に新しい企業として参入する「新規参入者」として位置づけられる。彼らが市場に登場することで、既存の企業との間に競争が生まれ、それがイノベーションを促すのだ。
既存企業は、新たな競争相手に打ち勝つために、あるいは生き残るために、自らを変革しイノベーションを生み出すインセンティブが高まる。これにより、市場全体が活発になり、結果として経済成長につながると期待される。経済学の研究では、新規参入者という「入口」だけでなく、競争の過程で市場から退出する企業という「出口」も含め、市場の新陳代謝を総合的に分析している。
Q. スタートアップの増加が、経済活性化に直結すると考えるのは早計か?
「スタートアップが多ければ多いほど、経済が良くなる」という考えは、必ずしも正しいとは言えない。実際には、単純にスタートアップの数が増えるだけで経済が活性化するわけではないという。
その理由は、スタートアップの間に「多様性」が存在するからである。全てのスタートアップが成長し、成功するわけではない。成長ポテンシャルを持つ企業もあれば、そうではない企業もある。経済活性化につながるのは、あくまでも「大きく成長するスタートアップ」を生み出せるかどうかであり、単なる創業数の増加ではない。多くの研究者は、成長する可能性を秘めた企業をいかに支援し、数を増やすかという点に注目しているのだ。
Q. なぜ政府は、資金難でもない既存企業ではなく、スタートアップだけを特別に支援するのか?
政府がスタートアップを支援する真の目的は、経済活性化の期待だけではない。むしろ、創業期にあるスタートアップが直面する「情報の非対称性」という市場の失敗を是正することに、より深い意義がある。創業間もないスタートアップは実績に乏しく、外部からその実態や将来性が見えにくい。このため、金融機関からの資金調達や優秀な人材の確保、取引先の開拓などで、すでに事業基盤を持つ大企業に比べて圧倒的に不利な状況に置かれる。
政府の介入は、特定の企業を優遇するものではなく、このような市場の歪みを解消し、スタートアップが既存企業と同じ土俵で公正な競争ができるように、ハンディキャップを是正するための措置だ。創業間もない企業は様々な困難に直面しやすい。だからこそ政府が手助けすることで、競争市場における公平性を保とうとしているのである。
Q. スタートアップへの公的支援は、いつまで続けるのが妥当か?
政府のスタートアップ支援が無限に続くべきではない。研究結果によると、企業が最も急成長する可能性が高いのは創業後約5年以内であるという。この期間は多くの課題に直面する一方で、最大の成長ポテンシャルを秘めているため、この「勝負の期間」に支援を集中投下するのが合理的だと考えられる。
しかし、創業から長い時間が経ち、もはや成長が見込めない企業、いわゆる「ゾンビ企業」にまで公的支援を継続することは、市場原理を歪め、経済学的には正当性が低い。過剰な長期支援は、企業が自力で成長する努力を阻害し、市場から退出すべき企業を延命させてしまう。政府は、支援期間の線引きを明確にし、あくまで高成長期のスタートアップの自立を促す役割に徹すべきだと言えるだろう。
Q. 日本から第二のGAFAを生み出すことは本当に可能なのか?
日本からGoogleやAppleのような「スーパースター」企業を生み出すべきという議論が聞かれるが、それは容易ではない。経済学の視点では、GAFAのような巨大企業は政府が意図的に創出できるものではないと考える。
「大谷翔平選手を何人も育てようとするのと同じで、難しい」と加藤教授は語るように、スーパースターの誕生には運の要素も非常に大きいからである。特定の企業を「育成」しようと焦るのではなく、より多くの人々が起業に挑戦できるような土壌を整えることこそが、最も現実的で有効な戦略となる。起業家が増え、試行錯誤が繰り返されることで、結果としてスーパースターが生まれる可能性も高まるという長い目で見た視点が必要となるだろう。
Q. 創業から成功は既に決まっている?スタートアップの成否を分ける本質とは?
スタートアップの成功は、創業後の戦略以上に、「創業時点で起業家が持っている資源」に大きく左右されるという、データが示す「残酷な真実」が存在する。ここでの資源とは、お金や有形資産だけではない。起業家自身のこれまでの経験、知識、スキル、そして人脈といった「無形資産」が、成否を決定づける極めて重要な要因となる。
過去の起業経験や、参入する業界での職務経験は、市場の動向や顧客ニーズ、競合環境に関する深い理解を可能にし、それが成功確率を著しく高める。多くの研究がこの点を指摘しており、創業時のリソースが豊富なほど、スタートアップは成功しやすくなると結論づけているのだ。
Q. 起業家は若いほど成功しやすいというイメージは、データによって覆されるのか?
メディアで報じられる「若い天才起業家」のイメージとは異なり、実際のデータは驚くべき真実を示している。統計的に見ると、50代で起業した人の方が、30代で起業した人よりも成功する確率が約2倍も高いのである。
この背景には、起業家が持つ「資源」が関係している。年齢を重ねるごとに、業界経験や人脈が豊かになり、自己資金も蓄積されているケースが多い。これらの豊富な資源が、創業初期の不確実性を乗り越え、事業を安定させる上で大きなアドバンテージとなるのだ。若くして経験や資金が乏しい状態で無理に起業するよりも、まず業界で経験を積み、自己資金や人脈を培ってから挑戦する方が、成功への合理的なアプローチと言えるだろう。
Q. 大企業に眠る優秀な人材の「従業員スピンアウト」が日本の未来を拓くとは、どういうことか?
日本経済の再活性化に向けて、大企業に眠る優秀な人材が独立・起業する「従業員スピンアウト」の促進が極めて有効な施策となる可能性がある。これは、先に述べた「起業家が持つ資源」をすでに豊富に備えている人材が市場に参入することを意味するからである。彼らは業界知識、ビジネススキル、そして築き上げた人脈を武器に、高い成功確率でスタートアップを軌道に乗せるポテンシャルを持っている。
大企業側も、必ずしもデメリットばかりではない。スピンアウトした元従業員の企業と協業関係を築くことで、新たな知識やイノベーションが親企業に還流する「知識のスピルオーバー」といった好影響が研究で明らかになっている。リクルートやDeNAのように、企業が積極的に従業員の独立を後押しする文化を育むことは、日本全体のイノベーション創出につながる重要な一歩となるだろう。


