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顧客構造の可視化 5segs 9segs【西口一希④】
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2024年2月26日

経営とマーケティングをどうすればうまくつなげることができるのか。P&G、ロクシタン、スマートニュースなどでマーケティングを担当してきたStrategy Partnersの西口一希氏。
カスタマーダイナミクスとは?顧客構造の可視化と活用法
企業がある程度成長すると、全体市場の把握が困難になり、戦略的な意思決定に支障をきたす場合がある。そこで役立つのが「顧客構造の可視化」と「カスタマーダイナミクス」の考え方だ。これらの手法を活用すれば、どこにリソースを配分すべきかという戦略立案の土台を効率的に構築できる。今回は経営とマーケティングをつなぐ具体的な方法について解説する。
Q. 企業が成長すると、どのような課題が生じるのですか?
事業が一定レベルまで成長すると、マーケット全体が見えなくなるという問題が発生する。具体的には、市場全体の顧客数がわからない、自社のポジションが把握できないといった状況に陥る。これでは効率的な経営判断ができない。
理想的には、現状と将来の市場における自社の立ち位置、ロイヤル顧客の特性、顧客の離反理由、新規顧客獲得のための効果的な投資先などを把握した上で戦略を立てるべきだ。この構造が見えている状態と見えていない状態では、経営やマーケティング活動の質が大きく異なる。

Q. 顧客構造を可視化するための簡易的な方法はありますか?
最も簡単な方法は、自社の売上データを活用することだ。多くの企業は顧客のID管理をしており、同じ顧客が購入した商品やサービスを把握できる状態にある。
具体的な手順としては:
1. 特定年度(例:2020年度)の1年間に自社のサービスを購入した顧客の売上ランキングを作成する
2. より長期間(例:2020〜2022年の3年間)の累計での顧客ランキングも作成する
3. これら二つのランキングを比較分析する
この比較により、以下のような顧客分類が可能になる:
ロイヤル顧客:両方のランキングで上位に位置する顧客
離反顧客:単年では上位だが長期では消えている顧客
急成長顧客:単年では見えないが長期で上位に入ってきた顧客
さらに、これらの顧客グループごとに購買パターン、購入商品、顧客属性などを分析することで、成功パターンと失敗パターンが見えてくる。例えば、初回に購入する商品によってリピート率が変わるケースや、特定の商品購入後に離脱するパターンなどが明らかになる。
Q. より広い市場全体を把握するにはどうすればよいですか?
自社データだけでは全体市場は見えないため、アンケート調査が必要になる。まず、自社が対象とする市場の範囲を明確に定義する必要がある。例えば「スマホで動画コンテンツを視聴する人」という広い定義にするか、「経済コンテンツに特化した動画を視聴する人」と狭く定義するかで、市場規模と自社の位置づけが大きく変わる。
市場を定義したら、以下のような段階で顧客を分類する:
1. 自社を知っているか(認知)
2. 利用したことがあるか(経験)
3. 現在も利用しているか(現在利用)
4. どのくらいの頻度で利用しているか(頻度)
これにより、顧客を5つの基本セグメントに分類できる:
ロイヤルユーザー:認知があり、高頻度で利用
一般ユーザー:認知があり、低頻度で利用
離反ユーザー:過去に利用していたが現在は利用していない
認知あり未利用:知っているが利用したことがない
未認知:そもそも知らない

同じ調査で競合についても質問すれば、市場における競合の状況も把握できる。
Q. 顧客セグメントをさらに詳細に分析する方法はありますか?
より詳細な分析には「9セグズマップ」という手法が効果的だ。これは前述の5つのセグメントをさらに細分化し、現在の利用状況に加えて「次も利用したいか」という将来の意向も考慮する方法である。
具体的には:
1. ロイヤルユーザーを「積極ロイヤル」(次も利用意向あり)と「消極ロイヤル」(次は利用意向なし)に分ける
2. 一般ユーザーも同様に分ける
3. 離反ユーザーも「復帰意向あり」と「復帰意向なし」に分ける
4. 認知あり未利用も「利用意向あり」と「利用意向なし」に分ける
5. 未認知は単一セグメントとする
この「次も使用したいか」という指標は「ネクストパーチェスインテンション(NPI)」と呼ばれ、将来の市場シェア予測に高い相関があることが研究で示されている。好感度やNPS(Net Promoter Score)より将来の市場シェア予測に効果的だとされる。
Q. カスタマーダイナミクスとは何ですか?
カスタマーダイナミクスとは、顧客を静的な存在ではなく、常に変化する動的な存在として捉える考え方だ。前述の9セグメントの間を顧客は常に移動している。
主な顧客の動きには以下のようなものがある:
1. 成長ルート:一般ユーザーがロイヤルユーザーになる、利用頻度や単価が上がる
2. 復帰ルート:離反した顧客が再び利用を開始する
3. 離反ルート:ロイヤルユーザーが利用を減らしたり、やめたりする
これらの動きを把握することで、どこに注力すべきかが明確になる。例えば:
ロイヤルユーザーがなぜ離反するのかを理解し、防止策を講じる
離反したユーザーを復帰させる施策を強化する
一般ユーザーをロイヤル化する方法を見つける
認知はあるが未利用の顧客を初回利用に導く

このようなセグメント間の移動を定期的にモニタリングすることで、マーケティング戦略の効果を測定し、改善することができる。
Q. 資源配分の優先順位はどのように決めるべきですか?
理想的には、データに基づいてセグメントごとの費用対効果を厳密に計算し、最も効率の良い施策に集中投資すべきだ。しかし、すべてのケースでそれが可能とは限らない。
経験的には、以下の優先順位が効果的なことが多い:
1. 既存のロイヤルユーザーの維持・強化
2. 一般ユーザーのロイヤル化
3. 離反ユーザーの復帰
4. 認知はあるが未利用の顧客の利用促進
5. 未認知層への認知拡大
特に注意すべきは、認知度の低い段階でマス向けの大規模キャンペーンを行うことの非効率性だ。テレビCMやイベントは「やった感」が得られるが、顧客のロイヤル化パターンが確立していない段階では、費用対効果が低いことが多い。
また、ブランディング投資も同様の罠がある。ブランドは「記憶の固定化」のためのものであり、まず提供価値が明確でなければ効果は限定的だ。

Q. マスマーケティングと1対1マーケティングはどう考えるべきですか?
マスマーケティングと1対1マーケティングは対立概念ではない。どちらも極端に偏ると非効率になる。
1対1マーケティングは個別対応の手間がかかりすぎ、マスマーケティングは認知度の低い段階では無駄が多い。実際のビジネスでは、その中間に最適解があることが多い。
昭和時代は人口増加と生活必需品の普及期だったため、マスマーケティングが効果的だった。しかし現在の成熟市場では、自社が確実に価値を提供できるセグメントを絞り込み、そこに集中投資するアプローチが効果的だ。成功している企業は特定のターゲットに絞った戦略で高収益を上げている。
定期的に顧客構造と動態を分析し、どのセグメントにどのような施策を行うべきかを常に見直すことが、持続的な成長には不可欠だ。