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ロイヤル顧客の正しい定義方法【西口一希②】
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2024年2月26日

経営とマーケティングをどうすればうまくつなげることができるのか。P&G、ロクシタン、スマートニュースなどでマーケティングを担当してきたStrategy Partnersの西口一希氏。
310社を超える企業支援で得られた教訓:なぜロイヤルユーザーの定義は大半が間違っているのか?
多くの企業が「これが私たちのロイヤルユーザーだ」と自信を持って言うが、実際にはその定義が間違っていることが多い。なぜ企業はロイヤルユーザーを見誤り、それがビジネスにどのような影響を与えるのか。310社以上の企業支援経験を持つ西口一希氏の知見から、企業成長の鍵となるロイヤルユーザー戦略について探る。

Q. なぜ多くの企業がロイヤルユーザーの定義を間違えるのですか?
多くの企業が「これがロイヤルユーザーだ」と思っているユーザー層は、実際には利益にあまり貢献していない場合が非常に多い。この誤解が生じる主な理由は、ロイヤルユーザーを単に売上の観点だけで見ているからだ。ライフタイムバリュー(LTV)も売上ベースで計算している企業が多いが、これは完全に間違った使い方である。
正しいLTVの算出は「利益」で行うべきである。新規顧客と既存顧客では、同じ売上額でも利益率が大きく異なる。新規顧客獲得には多くのコストがかかるため、同じ10万円の売上でも、新規顧客からの利益はほぼゼロか低くなる一方、既存顧客からは高い利益が出る構造になっている。
Q. ロイヤルユーザーについて何パターン理解すべきですか?
成長軌道に乗っている企業が理解しているロイヤルユーザーの定義は、通常5つ程度ある。多いところでは3〜10パターン程度のロイヤルユーザー像を把握している。
大規模なブランドや商品、数千万人が使用するような製品では、さらに多くのパターンが存在することもある。数十パターンを把握すれば、ロイヤルユーザーの7〜8割を説明できるようになる。ただし多くの企業や事業主は、ロイヤルユーザーを1種類だけで定義しがちだ。
ポジショニングという言葉も誤解されていることが多く、最初は1つのポジショニングからスタートしても良いが、必ず複数のセグメントの顧客がバリュードライバーになっていく。3〜10パターン程度の解像度が見えていないと、事業戦略として足りない。

Q. 経営において、数字よりも顧客心理を重視すべきなのはなぜですか?
企業経営の中で日々注目されているのは、新規顧客獲得数や既存顧客維持率などの行動指標と、売上・利益といった財務指標だ。しかし、その間にある「なぜ顧客が買ってくれたのか」「なぜ競合から離れないのか」という顧客心理の部分は、多くの企業の視界から欠落している。
この「顧客心理」は、会社のデータベースに入っていないことが多く、AIを含めた現在の技術でも完全に把握するのは難しい。だからこそ、この領域に集中することで競合との差別化が可能になる。
例えば実績を継続的に残している経営者やマーケターは、顧客の反応を常にチェックし、自社商品の強みや顧客が評価している点、改善機会について考え続けている。単に「売れた、良かった」で終わらせるのではなく、「なぜ売れたのだろう」という意識を持ち、顧客心理を想像する会話を組織内で増やすことが重要だ。

Q. LTVの計算において陥りやすい間違いは何ですか?
LTVは過去10年ほどで広く使われるようになったが、多くの企業が間違った使い方をしている。最大の間違いは、LTVを売上ベースで計算していることだ。LTVは必ず利益ベースで計算すべきである。
新規顧客と既存顧客では、同じ売上額でも利益率が大きく異なる。目先の売上を上げようとして新規顧客を多く獲得すると、単年度の売上は上がるが、LTVを毀損していく構造が生まれる。
また、LTVは過去の累計結果から計算される過去指標であり、将来の予測指標ではないという誤解もある。よくあるのは、過去のLTV(利益)を上回らないようにCPA(顧客獲得単価)を設定するという考え方だが、これには大きな問題がある。LTVは過去の結果でしかなく、CPAは現在の指標であるため、時間軸のずれが生じる。
CPAを下げて顧客獲得数を増やそうとすると、安売りや刺激的な提案など短期的施策に走りがちだ。結果として「CPAは下がり、顧客数も増え、売上も上がった」が、2年後にはLTVが大幅に下がるという事態につながる。

Q. 効果的な顧客分析のアプローチとは?
企業成長のプロセスでは、最初は少数の顧客と1対1で対話しながら製品やサービスを磨き上げる。しかし、成長して顧客が増えていくと、不特定多数のマーケットに向けた戦略になり、個々の顧客の姿が見えなくなる。
この課題を解決するためには、不特定多数となりがちな市場を構造的に分解し、重要な顧客と潜在顧客を見極め、そこにリソースを集中させる必要がある。しかし、第3段階(グレイナーの企業成長モデル)に入ると「誰が顧客か」「誰が重要か」「何が重要か」が分からなくなり、単に「売上を上げてください」「数字を増やしてください」という指示しかできなくなる。
効果的なアプローチとしては、顧客の行動データだけでなく、「なぜその行動をとったのか」という心理的な側面も分析し、両者を紐付ける必要がある。
例えば、あるサービスでは20人の学生にインタビューした結果、サッカーの動画と業界分析の動画から流入するパターンが見えてきた。また、時事解説コンテンツでは50〜60代の視聴者が多いなど、異なる顧客セグメントの特徴が明らかになった。しかし、これらの顧客が本当にロイヤルユーザーになるかは別の問題であり、さらに深い分析が必要になる。
企業が持続的に成長するためには、単なる数字だけでなく、顧客心理と行動データを紐付け、真のロイヤルユーザー像を複数パターン理解することが不可欠である。その上で、利益ベースでLTVを正確に測定し、長期的な視点で顧客戦略を構築していくことが成功への鍵となる。