日本再興ラストチャンス
前編:日本は観光大国になれるか
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2023年8月26日

【collaborated with 経済同友会】 日本再興ラストチャンス。日本が失われた30年を経て、これからどのように経済を再興するべきなのか。経営者と有識者と対談を通じて、日本再興に向けた具体的なアクションプランを発信していく。 【Sponsored】 <ゲスト> デービッド・アトキンソン(...
観光大国ニッポンへの道筋:インバウンドが拓く新たな未来か、構造課題が壁となるか
コロナ禍が収束し、日本の観光産業は目覚ましい回復を見せている。2023年6月には訪日外国人観光客数が200万人を突破し、コロナ禍前の水準に迫る勢いである。しかし、この復活劇は単なるV字回復と言えるのだろうか。国内総生産のわずか1%程度とされる観光産業が、本当に日本の基幹産業へと成長する潜在力を秘めているのか。今回の議論では、成田悠輔がその経済的意義に鋭い疑問を投げかける。この問いに対し、森トラスト社長の伊達美和子、アソビューCEOの山野智久、小西美術工芸社社長のデイビッド・アトキンソンといった、日本の観光産業を牽引するトップランナーたちがそれぞれの視点から提言と分析を展開した。本記事では、この熱い議論を通じて、日本が真の観光大国となるための戦略と、乗り越えるべき構造的課題を深掘りする。
Q. 日本の観光産業は果たして国の基幹産業になり得るのか?
「観光産業は日本の家計消費の1%程度であり、基幹産業と呼ぶには小粒すぎるのではないか?」成田悠輔はこの問いを投げかけた。しかし、森トラスト社長の伊達美和子は、インバウンド消費額4兆円が自動車輸出額8兆円に次ぐ第2位の規模であることを挙げ、その重要性を強調した。国内観光消費を含めれば、市場総額は2019年に29兆円に達し、その経済的インパクトは決して無視できないレベルである。
デイビッド・アトキンソンは、観光がもたらす「波及効果」の大きさを指摘する。特に、人口減少に悩む地方にとって、製造業の誘致が困難な中でインバウンド需要は死活問題となる。観光客がもたらす収益は地方経済を直接的に潤す生命線であり、この側面を過小評価すべきではない。また、外資系ホテルであっても、賃料、従業員の給与、建設費用、食材調達など、売上の大部分は国内に還流し、広範な産業に波及すると解説した。
Q. なぜ訪日客の客単価が高水準で推移する背景には何があるのか?
2023年には訪日客数がコロナ禍前の約8割まで回復し、同時に1人あたりの消費単価も高水準を維持している。この現象に対し、アトキンソンは「単価上昇は円安に加えて、富裕層の誘致という側面が大きい」と分析した。円安は、来日を決定した旅行者の財布の紐を緩め、「より良いホテルや食事」への消費を促す。さらに、高騰する航空運賃を負担できる遠距離の欧米富裕層や、中国からの限られた富裕層が現在の中心客層である点が、高単価を後押しする。
ホテル価格高騰の背景には、需要増だけでなく構造的な問題がある。伊達は、コロナ禍で観光業界を去った人材が戻らず、「人手不足によってホテルが全ての客室を販売できない状況にある」と指摘した。需給バランスの逼迫が価格を押し上げる。山野智久は、海外主要都市と比較して日本のホテルの価格がまだ割安であり、品質を考慮すれば「価格を引き上げる余地は十分にある」と加えた。特に旅館業においては、適正な価格設定への改善の余地が大きいという見解である。
Q. 観光客の急増による「観光公害」をどうすれば解決できるのか?
訪日客数の増加は喜ばしいが、その一方で、バスの混雑やゴミ問題といった「観光公害(オーバーツーリズム)」は避けられない課題である。伊達は、これらの社会インフラへの負荷を軽減するのは公共の役割であると強調した。その解決策として、各自治体が「観光税」を積極的に導入し、その税収を観光振興や具体的なインフラ整備、混雑緩和策などに充てる「目的税化」が不可欠であると提言する。
アトキンソンは、観光客が交通機関や上下水道など住民と同様に様々な公共サービスを利用する点を指摘し、住民ではない彼らが受益者負担として貢献する重要性を示唆する。観光税導入には、業界からの反発や税収の使途の透明性確保など課題もあるものの、観光公害を放置すれば「地域社会の受け入れ拒否」に繋がり、産業全体の持続性が損なわれるリスクがあることを認識する必要があるだろう。
Q. 地方の観光施設はどのような経営戦略で成長を実現できるのか?
日本の観光産業を成長軌道に乗せるには、特にホテルや旅館への「持続的な投資」が不可欠である。伊達は、新規ホテルの開発だけでなく、既存施設の戦略的なリノベーションが重要だと述べた。例えば、部屋の拡張、露天風呂付き客室の導入、和室へのテーブル席設置など、顧客のニーズに合わせたグレードアップで商品価値を高め、低価格競争から脱却して高単価を実現することが可能になる。これにより、これまで1万円程度でしか販売できなかった部屋を4〜5万円、さらには10万円で提供できるようになると言う。
しかし、多くの施設がこの投資を行えない背景には、資金不足だけでなく、明確な経営戦略の欠如がある。伊達は、経営指標を従来の稼働率だけでなく、「一人当たり付加価値額」にまで着目することの重要性を強調した。日本の観光産業の一人当たり付加価値額は全産業平均を下回る現状にあり、利益最大化のための戦略的思考と、具体的な実行計画が必要である。この転換が、低収益体質の改善と持続的な成長を可能にする。
Q. 日本の観光産業が真の観光大国へと成長するために何が必要か?
観光業は「低収益性が低賃金を生み、結果として深刻な人材不足を招く」という構造的な悪循環に陥っている。アソビューCEOの山野智久は、この根本問題の解決策として「DXによる生産性向上」を第一に掲げた。労働集約型である観光業において、デジタルツールの導入は不可欠であり、人が行うべきではない業務の自動化を進め、収益性と従業員の賃金分配率を改善することが急務である。
また、業界全体の活性化には「他業種からの新規参入やスタートアップの力」が重要である。山野自身が立ち上げたアソビューの成功は、既存の観光業界の常識にとらわれず、デジタル技術を駆使して新しいビジネスモデルを創出できる可能性を示している。このようなチャレンジが業界に刺激を与え、新たな成長のモデルを生み出す原動力となる。さらに、山野は「有給消化率の向上」や「学校休暇の柔軟化」による国内需要の平準化を提言し、特定の時期に集中する混雑を緩和し、稼働率を年間で最適化することを目指す。地方の交通インフラ不足解消のため、ライドシェアのようなサービスの導入も不可欠だろう。
今回の議論から、日本の観光大国化には多角的かつ構造的なアプローチが必要なことが明らかになった。デイビッド・アトキンソンは「賃金の引き上げ」という、問題の核心を改めて強調した。単純な訪日客数の増加だけでなく、施設の高付加価値化に向けた「持続的投資」、収益性を向上させるための「経営戦略の転換」、オーバーツーリズムを回避するための「観光税導入」、そして何よりも「人」への適切な還元が不可欠だ。DXの推進や新規参入によるイノベーションが業界の変革を加速させ、需給の平準化が持続可能な成長を支えるだろう。これらの複合的な努力によって、日本はGDP比1%という現状を超え、真に豊かな観光体験を提供し、地方創生をも牽引する基幹産業へと昇華できるはずだ。目の前の課題を直視し、大胆な変革を推進する今こそ、日本が真価を問われる時である。