PIVOT LEARNING
【星野リゾートに学ぶ②】観光DXとマーケティング戦略
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2023年3月14日

経営者や専門家がビジネスの基礎や最新テーマを教える「PIVOT LEARNING」。星野リゾート代表の星野佳路氏に「真似されないビジネスモデルの創り方」を聞いた。
星野リゾートの勝ち残り戦略 ― 「買いやすさ」で差別化、「経験価値」で圧倒する
インターネットが旅行業界を劇的に変えた時代において、星野リゾートはどのようにして競争力を維持し、発展させてきたのか。代表の星野佳路氏がブランド戦略とマーケティングの核心を語る。

Q. 星野リゾートはブランド戦略をどのように構築してきましたか?
私たちは1991年から30年以上にわたり、デビッド・アーカー教授のブランド理論を基本にしてきました。1984年頃に出版された「マネージング・ブランド・エクイティ」を熱心に読み、その理論に忠実にブランドを育ててきた歴史があります。
星野リゾートのブランド体系は、マスターブランドとしての「星野リゾート」の下に複数のサブブランドが存在します。高級旅館の「星のや」、リゾートホテルの「リゾナーレ」、温泉旅館シリーズの「界」、都市観光客向けの「OMO」、若年層向けのカジュアルホテル「BEB」などがあり、さらに「その他の個性的な施設」というカテゴリもあります。
マクドナルドやコンビニエンスストアのようにどこも同じメニューやサービスではなく、各ホテルは個性的で異なる価値を提供しています。そのため、ブランドの統合管理が重要な課題でした。
マスターブランドとしての星野リゾートには「旅を楽しくする」というブランドイメージを持たせ、サブブランドには高級感や温泉旅館といった特徴を付けています。
Q. 最も重視しているマーケティング理論は何ですか?
30年前、私はフィリップ・コトラー教授の「マーケティング・ミックス(4P)」を重視していました。ある時、コトラー教授に会った際、「まだそんな古いものを使っているのか」と言われ、「ファイブ・ウェイ・ポジショニング」が現代的だと教えられました。
ファイブ・ウェイ・ポジショニングとは、全てのサービスと商品には5つの要素があり、その全てを最高レベルにする必要はないという考え方です。むしろ、競合と同じレベルのものを3つ作り、差別化するものを1つ、市場を支配するほど圧倒的な要素を1つ作るべきだというものです。
これが最も生産性が高く、収益率も高く、市場でのポジションを維持できるパターンです。特に「買いやすさ」という要素が含まれていたことが、インターネット時代にぴったりでした。
Q. 星野リゾートが選んだポジショニング戦略は?
私たちは「価格」「サービス」「商品」は業界標準レベルに保ち、「経験価値」で圧倒し、「買いやすさ」で差別化するというポジショニングを選びました。
特にインターネット登場以前は、予約は電話か旅行代理店(JTB)経由に限られていましたが、ITテクノロジーの発展により、自社で買いやすさを変えることが可能になりました。
Q. 「買いやすさ」をどのように実現していますか?
旅行市場には「カオスゾーン」と「エンプティゾーン」があります。カオスゾーンは多くの事業者が参入している部分で、部屋の予約や価格比較などが含まれます。一方、エンプティゾーンは誰もサービスを提供していない分野で、行った後のアクティビティや食事の予約などが含まれます。
私たちは直接予約(ダイレクトブッキング)の比率を65%まで高めています。これは業界でもトップクラスです。自社予約に集中するか、オンライン旅行代理店(OTA)に依存するかは大きなトレードオフですが、私たちは自社予約システムへの投資を選びました。
具体的には、食事やアクティビティの予約、航空券付きプランの提供、オンラインでのギフト券購入、PayPayとの連携による後払い・分割払いなど、様々な「買いやすさ」を実現しています。
Q. ITテクノロジーをどのように活用していますか?
IT活用には2つのパターンがあります。競争優位に使うか、単なる生産性向上に使うかです。多くの場合、新しいテクノロジーが登場すると「競合も使っているから自社も導入すべき」という議論になりますが、それでは結局コスト削減のための生産性向上にしかなりません。
私たちは逆のアプローチをとっています。まず「買いやすさを改善するためにはどうしたらいいか」という概念があり、それを実現するためにテクノロジーを活用します。テクノロジーありきではなく、やりたいことがあってテクノロジーを使うという考え方です。
現在、星野リゾートには56名のエンジニアがいます。これは日本のホテルチェーンとしては非常に多い数字です。外部のシステム会社に依頼していた時期もありましたが、自社でエンジニアを抱えることで、本当にやりたいことをタイムリーに実現できます。
Q. ブランド間の関係をどのように調整していますか?
最近、「界」ブランドと星野リゾートの距離を開けました。以前は「星野リゾート 界 熱海」のように表記していましたが、現在は「界」というサブブランドを独立させています。
これは戦略的な理由があります。「OMO」という都市ホテルブランドが増えることで、星野リゾートのブランドイメージがぼやける可能性があり、それが他のサブブランドに悪影響を与える恐れがあります。特に「界」は星野リゾートブランドへの依存度が高いため、「OMO」の展開に備えて「界」を星野リゾートから距離を置くことにしました。
「界」の認知率はすでに高くなっているので、さらに投資して50%程度まで高め、星野リゾートに依存しなくても集客できる体制を作ります。また、星野リゾート自体のブランドイメージも、「高級なものの集まり」から「リーズナブルなものから高級なものまで旅を楽しくするブランド」へと変えていく必要があります。
Q. ブランドの住み分けで最も重視する点は何ですか?
ターゲットとコンセプトの違いを明確にすることが最も重要です。温泉旅館なら「界」、12歳以下のお子さんを連れた家族旅行なら「リゾナーレ」というように、コンセプトの違いを明確にし、サブブランドのイメージがぶれないよう認知率を高める努力をすることが、星野リゾート全体の安定につながります。
Q. 広告ではなくニュースを重視する理由は何ですか?
私たちは広告をほとんど打ちません。むしろ、施設の魅力や季節ごとの異なるサービス、進化を顧客に伝えていくことで新しい需要を獲得しています。
雑誌やウェブ媒体、テレビ番組などで旅は常に重要なコンテンツとなっており、これらのメディアは常にニュースを探しています。そのニーズに応えることで、広告でプッシュするのではなく、自然に魅力をマーケットに伝えることができます。
ただし、コロナ禍におけるマイクロツーリズムのリピーターを作るなど、特定のプロジェクトではウェブ広告を活用することもあります。
Q. 観光産業におけるITの重要性をどう考えますか?
観光分野の競争は「カオスゾーン」での戦いが勝負を決めます。30年前と全く違い、ITの登場、オンライン予約エンジンの登場、様々な情報提供サイトの出現などにより状況は一変しました。
ホテルのサービスや食事内容はコモディティ化して同じようになる中、いかにこのデジタル領域での勝負に勝つかが全てを決めると考えています。旅行業界でまだやるべきことは非常に多く、真の意味で「買いやすさ」を実現するには多くの課題があります。
例えば、九州に複数ある星野リゾート施設を周遊する予約をワンストップで実現するなど、まだ解決すべき大きなテーマがあります。