
なぜ早期留学ではなく、大学からの留学を勧めるのか
構成/岩辺みどり 撮影/林 直幸
英語圏の名門大学に進学するには、小中学時代からの準備が欠かせない。自らハーバード、スタンフォードで学んだ、起業家の松田氏が創る「海外進学の決定版ガイドブック」。第11話からのシーズン2は、実践編として具体的な解説を行う(5日連続で10話公開)。

学び方が変わらない日本教育
僕が代表を務めるCrimson Educationは海外大学進学塾ですが、トップスクールへの合格だけを目的にしているわけではありません。
僕がCrimsonで目指しているのは、一人ひとりの個性に目を向け、可能性を最大限引き出すことです。
海外進学塾であるCrimson Educationはこれまで多くの日本の高校生の海外進学を支援してきました。ハーバードなどのトップスクールに限らず、一人一人の特性にあったベストスクール合格のために伴走してきました。
そうして、日本国内のみならず世界中の生徒の出願支援を行なっていく中で、大切な事に気づきました。
それは、「既存の学校が海外進学に適していない」ということです。
海外進学の準備に適していないということにとどまらず、子どもたちの可能性にキャップをしてしまっています。飛び級することもできない上、授業の効率が非常に悪い。時間だけが奪われてしまい、自分が熱中できる課外活動やプロジェクトに取り組むことすら困難です。
そんな状況を打破すべく、海外進学塾が考える理想の学校教育を形にするためにオンラインのインターナショナルスクールであるCrimson Global Academy (CGA) を開校しました。

「教育の未来」を追求
CGAでは、オンライン上で米国の高校卒業資格にとどまらず、Advanced Placement (AP)やA-Levelという大学受験が可能な世界的なカリキュラムを学び、受験資格を取得します(高校カリキュラムについては、第15〜17話で解説)。
世界中から質が高いトップクラスの先生を集め、習熟度別で少人数制で授業効率も格段と高まります。オンライン上で世界中の仲間達とコミュニティや課外活動もできるのです。
UBERやPwCなどの世界的な企業でインターンができますし、ハーバード大学やコロンビア大学の教授がメンターとして付くリサーチプログラムも準備しています。オンラインで質の高い学びにアクセスし、好きな事を徹底的に探求できるようにサポートするこの学校こそが教育の未来ではないかと思っています。

僕が中学時代にいじめにあっていたことを第10話でお話しましたが、日本の学校に入ると僕みたいな子……文字の読み書きが他の子より圧倒的に苦手といったような子は、いじめの対象になりがちです。学校の評価尺度が読み書きを重視した内容やテストにあるからです。
しかし、今は教科書を読んだり、英語の例文を翻訳したりするような方法以外の学び方がたくさんあります。
文章のミスもAIが直してくれますし、文章も必要なら読み上げてくれますし、動画やアプリなど様々な学び方や表現方法があります。それなのに日本の教育は、私がいじめられていた当時と基本的な学び方が変わっていません。
教育アップデートの必要性
だからこそ学校教育をアップデートしていかなければいけない。我々大人の教育観自体をアップデートしていかなければいけないのです。
欧米の大学入試では、成績だけでなく課外活動が重視されますが、それは一人ひとりの興味や個性を尊重しているということでもあります。

一方、正解主義や同調圧力、個性をつぶすようなことを延々とやってきた日本教育では、近年AO入試が増えてきたとはいえ、主流は依然として一発勝負の大学入試試験です。つまり、テスト問題をひたすら解く形です。高校受験や中学受験も同様で、トップ校と言われるような学校もまだまだ試験重視です。
学校が入学者を選ぶ段階で、個性が全く尊重されていないのですから、学校教育も自然と試験重視になってしまっています。
そこから脱却していかないと、僕のような事例がますます増えていくはずです。だからこそ僕は、もっと個性を認められる教育への選択肢を増やし、大人の教育観をアップデートし続けたいのです。
中高6年間で約5000万円かかる
では、なぜ大学からの海外進学を勧めるのか。もっと早くてもいいのではないかという議論もあるでしょう。
もちろん、幼少期から海外に行ってしまうというのもありだと思います。母子留学で海外へ行く人も増えていますし、駐在など親の仕事での転勤もあります。連載のシリーズ1でもお話したように、語学力や主体的に動くマインドを育てるには、早いに越したことはありません。
しかし、現実的に幼少期から海外留学やボーディングスクール(寄宿制学校)に送り込むのは、非常にお金がかかります。
例えば近年、日本国内にもボーディングスクールが増えていますが、中高くらいのボーディングスクールでは年間600〜800万円の学費や寄宿費がかかります。中高6年間×800万円であると、約5000万円です。
それだけの費用を一般家庭が拠出できるでしょうか。その後には大学進学も続くことを考えると現実的ではありません。

さらに、ボーディングスクールと一口に言っても、その特徴は国や学校などによって異なります。お子さんの特性にベストフィットする学校を探すのは非常に難しい。いい学校を見極められたとしても、メリットとデメリットがあることも知っておかなければいけません。
ボーディングスクールに行けば、語学や多様性は早くから身につくと思いますし、自然の中での様々なアクティビティや社会的な活動、スポーツ、芸術など、学費が高いだけあってプログラムが充実しています。
ただ、これからの不確実な時代の中でたくましく生きることを重視した場合、全てが事前に整えられているボーディングスクールで適応力が育つかは難しいところです。
ボーディングスクールは大自然の中にある場合が多い。つまりは、田舎です。

すると、探究から仮説、検証といった活動をするとき、「街でインターンをしてみよう」「どこかのコミュニティ活動を手伝ってみよう」「他校を巻き込んで活動を立ち上げよう」といったことがやりやすい環境ではないのです。
閉ざされたコミュニティの中では、「自分で何かを立ち上げる」という起業家精神は育みにくいかもしれません。
また、ボーディングスクールには世界中から猛者が集まります。もちろん、刺激的な環境ですが、その中でトップクラスの成績を取らないと大学の入学審査には響きます。
こういったストレスフルな環境で育つ子もいると思いますが、私はストレスにやられて能力を発揮できない事例もたくさん見てきました。
最大インパクトを及ぼす大学時代
費用対効果を現実的に考えると、最大の効果を生むのは、大学からの海外留学です。
人生100年時代だとしても学校に通っているのは実際には15年程度。そこから社会人としてのキャリアは50年、60年と続きます。特に、大学の3〜 4年間(イギリスの学部は3年間)はその後のキャリアや生き方に大きな影響を与えます。
キャリアにつながる学びを多様な環境の中で磨きながら、仲間との信頼関係を築く。欧米の大学は、卒業生=アルムナイ(alumni)のネットワークも強いため、卒業生から企業や人を紹介してもらえたりします。そのつながりが人生の資産になります。
人生の学びの中で、ゲートウェイとして1番インパクトのある時期に、個性を尊重し、多様な学びが得られる海外大学で学ぶ。それこそ子どもに大きな扉を開くはずです。
今回は海外大学進学の必要性をお話しましたが、それでもみなさんは「でも東大がNo.1だよね」と思うかもしれません。その思い込みを解くためにも、次回は日本と海外大学の違いを東大とハーバード大を例にしてお話しましょう。