
人の成功をねたまない子どもの育て方
構成/岩辺みどり 撮影/林 直幸
成長マインドセットと経済格差は関係ない
前回、固定マインドセットが持つ危険性について説明しました。
「自分の能力は先天的に決まっていて、努力しても変わらない」と考える固定マインドセットから、「自分の能力は努力によって成長する」と考える成長マインドセットへどうすればシフトできるのか。
結論から言うと、成長マインドセットは、家庭や学校など周囲の大人が適切に関わることによって、後天的に育むことができます。
成長マインドセットを持つ子たちが、レベルの高い学校に合格したり、賞を取ったり、活躍する姿を見ると、「元々頭がよい家系に生まれたからじゃないか」「親が東大や社長だったから結果的に成功する子になるのだ」と思う人もいるでしょう。
しかし、それは正しくありません。成長マインドセットは、経済格差や貧富の差に関係ないのです。
それはスタンフォード大学のキャロル・ドゥエックが研究で証明しています。

チリの全高校生を対象とした調査において、生徒を「成長マインドセット」なのか「固定マインドセット」なのか特定し、テストの結果を経年的に見ていきました。
すると成長マインドセットを持つ子どもの学習成果は、固定マインドセットの子どもよりも高くなりました。しかも、成長マインドセットを持つ子どもたちの中で、貧富の格差は学習成果に影響しない、という結果が出たのです。
いじめで自殺すら考えた中学時代
さらに興味深いのは「固定マインドセットは成長マインドセットに変えられる」ということです。それを証明するのが、私自身の体験かもしれません。
僕は、ハーバード、スタンフォードと海外の大学院に2つ通い、今、経営者をしながら3つ目となる修士を取るためコロンビア海外大学院で学んでいます。それだけを聞くと、僕の人生が明るい道ばかり歩いてきたように思われるかもしれません。
しかし実際には、子どもの頃は読み書きも苦手だったので学校の勉強ができず、いじめられていました。先生が板書をして、それをノートに書き取る日本の授業スタイルは、読み書きが苦手な僕には全く合わなかったのです。成績が悪く、みんなに馬鹿にされ、つらい日々を送りました。

それでも一念発起して私立の中学に行きますが、中2の頃からいじめが始まりました。幼い頃身体が弱かったこともあって成長も遅く、身体が小さくてスポーツも苦手でした。勉強は相変わらずできず、成績は最下位。色弱のせいで芸術系の課題もうまくできません。僕が見ている色と先生が見ている色が違うのだから、仕方ありません。
昼休みになると毎日のようにクラスメイトから柔道の技をかけられ、暴力を受けました。そんな中、ある日唯一の親友だと思っていた友人さえ、自分がいじめのターゲットになるのが怖くて、いじめっ子側に回ってしまったのです。それが何よりもショックでした。
そのとき、僕は本気で自殺を考えました。学校の屋上から飛び降りて、いじめた奴らに見せつけてやろうと思ったのです。
僕を救ってくれた松野先生
今週こそ決行しよう。そう決めた直後に、僕に声をかけてくれた先生がいました。恩師となる松野先生です。
責めるわけでも、同情するのでもなく、先生はこう言いました。
「松田、どうすれば強くなるのか一緒に考えよう」
身体が小さいからいじめられる。だったら身体を鍛えようと毎朝トレーニングに付き添ってくれました。成長にはどんな食べ物や生活習慣がいいのか運動生理学の本を調べて、一緒に勉強してくれました。
そうするうちに自分が強くなっていきました。身体も伸び始めて、身体的に強くなっていることを実感し、自信がついていきました。僕は成功体験を積み重ねられたのです。
徐々に自分の考えを言葉にできるようにもなっていきました。小さな成功体験を積み上げていくことでさらに自己効力感は上がり、グループの中でリーダー的な役割に挑戦することも増えました。そうして、いつの間にかいじめから抜け出すことができたのです。
高校生になる頃には、クラスの中心的な存在になっていました。松野先生のおかげで、僕は人生をピボットすることができたのです。「僕のような状況にいる子どもたちと向き合いたい」。そう思って、体育教師を志すようになりました。
ハーバード、スタンフォード、起業……無理だと思えるような数々の挑戦も、「やってみよう」「きっとできる」と一歩踏み出せたのは、このときの原体験があるからです。
僕を信じてくれた親や先生によって成長マインドセットを育ててもらえたからです。いじめを受けて、もうダメだと思っていた僕も、マインドセットを変えることができたのです。
今この連載を読んでくれている方で、「これまでの自分はうまくできなかった」と思う方も、今から成長マインドセットを育てることはできるのです。
人の成功を喜べる子どもに
では、成長マインドセットを育てるために、どう親は子どもに接するといいのでしょうか?
子どもが100点のテストを持って帰ってきたとします。そのとき、あなたはなんと声をかけますか?
成長マインドセットを育てるためには、100点を褒めてはいけません。褒めるべきは、100点を取るためのプロセスです。そして、あなたがそのプロセスを見ていたことをきちんと伝えます。「今回、勉強の仕方を工夫して頑張っていたよね。そういうところきちんと見ていたよ」と。
子どもはプロセスを褒められているから、次にチャレンジしようと思える。プロセスに意味があることに確信が持てる。すると、成長マインドセット、そして挑戦マインドセットが育っていくのです。僕も、松野先生が日々変わろうと努力する僕を見守り、認めてくれたから努力し続けることができました。
成長マインドセットの逆である固定マインドセットを持っている子どもは、人の成功や幸せを恐怖に感じてしまいます。先天的な才能や環境でしか成功できないと思うので、自分を負かすものに対してどう対応すればいいのか分からないのです。

一方、成長マインドセットを持っている子どもは、他人の成功を喜ぶことができます。「他人から自分は何を学べるのか」という思考へと転換していきます。自分も努力、挑戦をすればきっとできることがあると信じているからです。
100年時代を前向きに生き抜く子どもを育てたいのなら、まずは親こそが成長マインドセットを持ち、学び続けて、前向きに生きていきましょう。ビジョンを語り、幸せに生きる姿勢を見せましょう。そして子どもをよく観察し、語り合いましょう。僕がずっと語ってきたことは、何より子どもに愛情を注ぐということなのです。
この連載のシーズン1(第1話〜第10話)では、具体的なハウツーではなく、大きな世の中の流れや、親力の育み方や、英語への向き合い方や、マインドセットについて語ってきました。
そうした前提知識やマインドセントがないままにハウツーばかりを学んでも、子どもを海外トップ大学に進学させることも、子どもに幸せな人生を送らせることもできないからです。
シーズン1を読んでくださったみなさんは、より具体的な実践を学ぶための準備ができているはずです。いよいよシーズン2の初回となる11話からは、海外トップ大学進学の実践編に突入します。
