
東大VSハーバード。財務諸表から見える大学の将来
構成/岩辺みどり 撮影/林 直幸
英語圏の名門大学に進学するには、小中学時代からの準備が欠かせない。自らハーバード、スタンフォードで学んだ、起業家の松田氏が創る「海外進学の決定版ガイドブック」。第11話からのシーズン2は、実践編として具体的な解説を行う(5日連続で10話公開)。

世界大学トップ10は英米が席巻
海外大学への進学は、自分にあった学校=ベスト・フィット・スクールを探すことにこそ意味があります。日本の東大至上主義のように、偏差値によって大学の評価が決まるわけではありません。
本当に大切なのは、自分の持っているビジョンやキャリアイメージ、そしてそれらを実現するために最適な環境を見極めていくことです。
自分にあった大学かどうかは偏差値ランキングだけでは判断できません。 教授陣の研究の質や学生の質のみならず 、その他の環境的な要因がフィットするかは人それぞれです。
だからこそ多面的に大学リサーチをする事が大切です。ベスト・フィット・スクールを探す方法については別の回で解説するとして、今回は教育の質や研究の質でも東大よりハーバードを目指した方が良い理由について話をします。
トップ校ばかりをフォーカスするのは好きではないのですが、今回は分かりやすく欧米と日本の大学の比較のために東大VSハーバード大学で比較します。
TIMES Higher Educationが出している「THE世界大学ランキング2021」のトップ10大学は、見ての通りイギリスとアメリカの大学で占められています。

これは単なる偏差値ランキングではありません。
ランキングはTIMES Higher Educationの他にQS World University RankingsやUS News University Rankingなど様々なランキングがありますが、基本的には「教育の質」「研究の質」「国際性」などで評価しています。
学生や卒業生にもアンケートを取りますし、教員の調査もします。研究の量と質、どれだけ論文が引用されているか、どれだけ研究にお金を投資しているのかといった研究環境も評価されます。

このランキングにおいて、日本勢は、東京大学が20〜30位くらいの間を行き来しており、京都大学は50位前後、慶応大学は600位くらいに位置しています。
教員年収1000万円の東大は安いのか
僕は海外進学マニアなので、いろいろな大学の財務諸表を見るのが好きです。
象徴的な財務諸表が、東大とハーバードのPL(損益計算書)とBS(貸借対照表)です。東大とハーバードを今度は違った観点から比較してみましょう。
まずは、学生数2万8000人を抱える東京大学の財務諸表からです。

病院経営を除いた場合の収入・支出はトントンの2074億円です。東京大学は国立大学、公的機関のため入ってきたお金は全て使うことになっています。
気になるのはその内訳です。教育研究経費が1019億円と最大の支出になっていますが、これは教育や基礎研究、ゼミや授業などに費やす金額です。その中には教員の給与なども全て含まれています。
次に、施設設備費の265億円は、研究施設や運動設備、校舎などに使われるお金です。
産業連携研究費の606億円は、大学院レベルで企業との共同研究などで支出しているお金です。ちなみに、東大の教員の平均年収は1000万円、学長の年収が2400万円です。
東大の2.6倍の教育研究費をかけるハーバード
では、ハーバード大学の財務諸表を見てみましょう。

驚くことに東京大学よりも学生数は少なく、2万3000人しかいません。
それにも関わらず支出は5200億円で、東大の2.5倍以上です。教育研究経費も2.6倍、施設設備費は3倍以上、産学連携研究費も1.5倍です。さらに教員の平均年収は2800万円に上り、学長に至っては1億7000万円の報酬を得ています。
しかも、驚くべきことに、この平均年収でも欧米の大学教授の中では安いほうなのです。
欧米の大学教授は、自分で会社を経営したり、企業のアドバイザーや社外取締役を務めたりするのも一般的です。その報酬も含めると、トップレベルの教員の多くは、億に近い金額を稼いでいます。
世界の頭脳の集まる中心へ
よく考えてみてください。あなたが大学教授でレベルの高い研究をしているとしたら、1000万円の公募と2800万円の公募のどちらに応募したいでしょうか?
当然のことながら、教育研究経費や産学連携研究費が潤沢にあって、自分の待遇が良いところで研究したいし、教えたいと思うはずです。
教育は人なりと言いますが、最終的に「誰が」教えているかによって教育の質は大きく変わります。さらに、優れた教育環境を求めて世界中から優秀な学生が集まるのです。
教育の環境、教授の質、研究の内容、同級生や学友のレベル……これだけ人に投資ができていると、世界中の優秀な頭脳が集まり、より教育体験が豊かになっていくのです。
「本当に東大で大丈夫ですか?東大より素晴らしい教育環境ありますよ。行ける可能性が少しでもあるのならば、目指してみてはいかがでしょうか」というのが僕の提案です。

選択肢を自分の手に
もちろんハーバード大というのは一つの分かりやすい事例です。他の大学にも素晴らしい研究者がいます。
さらにグローバルな競争に対応していく力は間違いなく日本よりは海外で生活した方が身につきます。多様性という点でも、海外大学には世界中から学生が集まってきます。
選択肢はアメリカだけではありません。イギリスをはじめ、質の高い教育を提供する大学はヨーロッパにも多くあります。英語で学べるプログラムが多いオランダも人気の進学先になりつつあります。
経済的に厳しければ奨学金を取れるように動くという手もあります。ヨーロッパの大学では学費が日本と同等水準、もしくは、無料のところもあります。日本の私立大学に通って一人暮らしをする程度の金額で、ヨーロッパの大学で学ぶことができるのです。
今の時代は、世界中の教育機関の中から、「自分はどこの国のどの大学が合うか」を積極的に選べます。もちろん、広い選択肢を見た上で、「最終的に日本のこの大学がいい」と決断するのもすごくいいと思います。
大事なのは、海外進学することではありません。自らの選択において、「自分が何者であるか」を見据えた上での主体的な意思があるかどうかが重要なのです。それくらい大学進学は、人生の方向性を決める大きなライフイベントなのですから。
今回は、東大とハーバードを比較しながら、海外大進学を薦める理由をお話しました。次回から、海外の大学選びについて具体的に解説していきます。