
リーダーの心得 コスパより「サイパ」
心理的リソースを活かすマネジメント術
現代ビジネスは人材不足と従業員の定着に課題を抱える。組織と個人のパフォーマンス向上の鍵は、内なる「心理的リソース」の理解と管理にある。本記事では、元ゴールドマン・サックスの櫻本真理氏・田中渓氏がこの重要な要素を掘り下げ、個人と組織がポテンシャルを最大化する道筋を解説する。


「心理的リソース」の概念は、自分や他者への理解を深める「レンズ」となる。このレンズを通せば、個々の状態が解像度高く見え、「うまくいかない」を「関わり方のミスマッチ」と捉え直せる。この理解が行動を変え、組織全体のパフォーマンス向上へ繋がるだろう。
Q. 行動の原動力「心理的リソース」と、その4つのモードは何ですか?
人の心理的リソースは、「こうなりたい」という「願い」と「叶いそうだ」という「期待」が揃った時に生まれる。これは主に4つのモードがある。リーダーは自身とメンバーのモードを理解し、適切なアプローチが求められる。

希望モード: 社会貢献や楽しさに駆動され、自己も周囲も消耗しない理想的状態である。
恐れモード: 不安や恐れが原動力となる。短期的には高パフォーマンスだが、心身を消耗するリスクがある。
怒りモード: 対抗心に駆動される。強力だが、周囲に同様の強度を求めハラスメントに繋がる危険性を持つ。
省エネモード: 意欲がなく成果が出ない。自己消耗は少ないが周囲に負担をかける状態である。
Q. メンバーを「希望モード」へ導き、「願い」を見つける方法は何ですか?
多くの人は自身の「願い」を意識できていない。「希望モード」維持には「願い」の発見が不可欠だ。見つけるための7つの視点から自己を深く観察し、求めるものを明確にする。
過去にワクワクした体験
憧れる他者との比較
描く未来の想像
感情の揺れ動き(喜び・悲しみ)
何の制約もない場合の願望
「こうはなりたくない」という反面教師
自身の強み

人は自己決定している感覚で幸福度が増す。承認欲求も根本的に「自己を愛したい」「存在意義を感じたい」願いに繋がる。他者に依存せず内なる願いを追求し行動することが真の「希望モード」確立に繋がる。
Q. マンネリを打破し、心理的リソースを再充電して成長を続けるにはどうすれば良いでしょうか?
目標達成の幸福感は一時的だ。人は困難だが達成可能な目標へ「頑張れば届くかも」と奮闘する過程で、最も充実感を得る。マンネリ打開には、あえて負荷の高い挑戦を自ら課すのが有効である。例えば、現状20〜30%の達成度しか見込めないタスクでも、思い切って100%達成を目指す。この過程での知識・スキル習得や達成感は、自己能力獲得と自己肯定感に繋がり、心理的リソースを再充電する。現状維持ではなく、自らストレッチ目標を設定し挑戦し続けることで、飽きずに成長を促し、持続的な充実感と高揚感をもたらす。積極的な挑戦が自身の成長の鍵だ。
Q. 1on1面談の効果的な活用法と、避けるべきマネージャーの行動は何でしょうか?
1on1の真の意義は、部下の「願い」を仕事と繋げ、心理的リソースの状態を理解する機会だ。マネージャーは対話を通じて部下の消耗源と満たせる要因を洞察し、能力引き出しを支援すべきである。注意すべきは、マネージャーがリソースを奪わないことだ。権限移譲後の全体会議での細かい詰問は、部下にとって「尋問」と感じられ、心理的安全性を損なう。結果、発言しにくくなりリソースを削ぐ。詳細確認やフィードバックは、個別対話で行うべきである。関心を持ち真摯に耳を傾ける姿勢が、信頼を築き潜在能力を引き出す。
Q. 個人の願いと組織目標が対立した場合、マネージャーはどう対処すべきですか?
部下の「願い」と組織の「目標」が対立する時、マネージャーは率直な対話を行うべきだ。

まず、組織の制約、状況、部下への具体的な「期待値」を伝える。「この予算でこの成果が必要で、あなたにこの役割を期待する」と明示するのだ。その上で、メンバーのリソースと願いを理解し、「どうしましょうか」とギャップを共に考え、解決策を探る。マネージャーは願いを尊重するが、組織ゴール達成に責任を負うため、組織優先を念頭に置く。願いが叶わなくても、期待値とギャップを伝え続けることで、メンバーは立ち位置を正確に把握し、行動や新たな道の模索を判断できる。
Q. メンバーの「やる気」と「消耗度」に応じた4つのアプローチと、プライベート事情への配慮は?
メンバーへの最適な関わり方は、「やる気」と「消耗度」で異なる。以下4象限でアプローチを変える。
高消耗/低やる気: 休養を促す。
高消耗/高やる気: 支援(傾聴、タスク整理)。
低消耗/低やる気: 動機付け(目的共有、期待設定、成功体験)。
低消耗/高やる気: 挑戦の機会(ストレッチ目標)。
誤ったアプローチは逆効果を招く。プライベート事情(育児・介護など)による消耗へも配慮は必要だ。「個人の問題」と突き放さず、状況を理解し可能な範囲でサポートを申し出るべきである。ただし組織に限界はあるため、「期待値はこれだが、可能な範囲(期間限定サポートなど)でどう対応できるか」を対話で線引きし合意形成を図る。無関心は避け、チーム健全性を保ちつつ現実的な対応が求められる。
