9 questions
ダイバーシティ経営
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2022年2月26日

時代を切り拓くビジョナリーをゲストに招き、「9つの質問」でその実像と未来に向けたビジョンを解き明かす。インタビュアーは、PIVOT CEO 佐々木紀彦とPIVOT チーフ・グローバルエディター 竹下隆一郎。 <ゲスト> 及川美紀/ポーラ 代表取締役社長 1969年生まれ。東京女子大学文理学部卒業後...
「美」と「ケア」で社会を牽引。ポーラ社長が語る、真のサステナブル経営とは?
化粧品ブランド「ポーラ」初の女性社長である及川美紀氏が語る、キャリアパス、そして企業文化変革への情熱には多くの示唆がある。サステナブル経営と女性活躍推進をテーマに、トップランナーが実践する「宣言と数字」による組織変革の本質に迫る。
Q. これまでのキャリアで、最も大きな転機は何であったか?
及川氏は1991年に入社後、早々に結婚が決まり、同じ部署にいた夫との勤務ができないという社内規定により、入社2年目から埼玉の販売会社へ17年間出向した。ここではビューティーディレクターへの販売・美容指導、新製品教育といった営業現場のサポート業務に注力し、お客様に一番近い最前線で仕事に打ち込んだ。経営者であるショップオーナーの成長を支援することに喜びを感じ、65歳まで出向先で全うするつもりでいたと言う。
この現場経験が後の本社での商品企画や経営判断に活きる最大の強みとなるが、転機は突然訪れる。出向中に本社の昇格試験を受けたが、まさかの不合格。この挫折が「本社は私のことを忘れていないか」「仕事を改めて見直すきっかけになった」と、及川氏は自身の働き方を根本から見つめ直すこととなった。その結果、翌年の管理職試験に合格し、長年の現場経験を商品企画部に活かすべく、マーケティング未経験ながら部長として本社に呼ばれる大抜擢人事を経験した。まさに「社内転職」と語る通り、そこがセカンドキャリアのスタートだったと及川氏は振り返る。
Q. チームを率いる管理職としての考え方はどのように変化していったのか?
及川氏は根っからのプレイヤー気質であると自覚している。管理職になった当初、口出しや手出しをせずにはいられず、「自分のコピーを作りたいのか?」「及川さん流でないと認めてくれない」などと部下から指摘されたこともあったという。こうした反発は大きな戒めとなり、多様な個性を尊重し、部下たちが最大限に能力を発揮できるようなマネジメントスタイルの確立に繋がっていった。
Q. ポーラが女性管理職比率5割という目標を掲げる真意は何か?
ポーラは「株式会社ポーラで女性管理職5割」を目標としているが、これは特別な数字目標ではなく、「あるべき姿」だと及川氏は語る。新卒採用の総合職男女比が5:5であるならば、能力差がないという前提に立てば、管理職比率も5:5であるべきだと考えるからだ。現在の3割という管理職比率から残りの2割が少ない原因こそが問題だと及川氏は問題提起をする。これは子育てなどを理由に女性を昇進候補から無意識に外してしまう「アンコンシャスバイアス」や、男性中心の働き方を前提とした制度設計という構造的な課題に起因すると認識している。
具体的なKPIを設定することで、「なぜ目標に届かないのか」という問いが生まれ、それが評価基準の見直しや育成制度の改善など、組織を動かす具体的な行動へと繋がる。漠然としたスローガンではなく、「5割」という明確な数字目標が、課題解決に向けた本質的な議論と変革の出発点になるのである。
Q. 抜擢人事と降格を伴うキャリアシステムが組織にどのような効果をもたらしているのか?
ポーラでは、及川氏自身が経験したように「抜擢人事」を積極的に行い、適材適所をスピーディーに実現する流動性の高い組織を目指している。特に3年ほど前からこの抜擢人事を「仕組み化」し、「抜擢後3年以内に所定の試験に受からないと降格」というルールを設けている点は特徴的だ。これは、抜擢して終わりではなく、そこで力をつけることを求めるとともに、万が一荷が重いと判断された場合は元の役職に戻れる、いわばトライ&エラー&トライの機会を提供しているのである。
降格を経験した社員の精神的な落ち込みは避けられないものの、その際には「なぜ抜擢したのか」「なぜこの決断に至ったのか」を丁寧に説明するコミュニケーションを重視する。役員が自ら説明し、本人の再起を諦めずにサポートする文化が、社内の透明性と納得感を醸成し、従業員の新たな挑戦を後押ししている。このような制度は組織の硬直化を防ぎ、男女問わず、常に新たな挑戦を促し続ける。「退職せず社内でポジションチェンジができる」点が多くの人材が働きやすいと感じる要因だろうと及川氏は話す。
Q. トップによる「宣言」が、どのように社内の変革を促進するのか?
日本社会のジェンダーギャップ指数が120位(2021年当時)という現実は、多くの企業において、まだ問題意識が「気づいたレベル」に過ぎないことを示している。会議において女性が一人だと「女性代表」としての意見を求められ、個人としての意見が言いにくいという実情がある。そのためには、最低3割程度の多様なメンバー構成が議論の質を高める上で不可欠である。
及川氏は、「男性育休100%取得」などのトップからの具体的な「宣言」が、組織に変革をもたらす最強の起爆剤となると指摘する。「宣言したからにはやる」という社内の共通認識が醸成され、人事部だけでなく、現場の社員が自発的にワーキンググループを立ち上げるなど、ボトムアップの動きが生まれる。この「言っちゃったもんね」文化は、組織を内側から動かし、社員の主体的な行動と課題解決を促す大きな原動力となるのだ。
Q. ポーラが掲げる「We Care More.」というビジョンに込められた意味と、化粧品の未来をどう捉えているのか?
ポーラの2029年に向けたビジョン「We Care More.」は、創業者・鈴木忍氏の「手荒れた妻を想うハンドクリーム」から始まった「ケアの精神」が原点だ。このケアの対象を、創業時の一人から「人・社会・地球」へと広げ(Moreの横軸)、さらに深く(Moreの縦軸)追求する意志を示している。
従来の「やらなければならない義務」としてのスキンケアから、「自分を慈しむ大切な時間」「自分をメンテナンスする時間」「リラクゼーションの時間」へと価値観を再定義することが、これからの化粧品の役割だと及川氏は強調する。鏡に映る自分の姿が、心の状態や自信に直結するように、スキンケアはメンタルヘルスを保ち、精神的な安定をもたらす「ウェルビーイング」の手段となり得る。製品提供に留まらず、こうした体験価値を創出することで、事業は心の栄養という、より広範な領域へと発展する。これにより、ポーラはお客様にとっての豊かな時間や幸せの実現を目指しているのである。
Q. 「美は発見するもの」という独自の美意識と、新たに設立された「ポーラ幸せ研究所」について聞かせてほしい。
及川氏にとって、画一的な美を追い求める時代は既に終わり、「美は自分で作り出し、発見するもの」へと価値観はシフトしている。他人や自分の中に多様な美しさを見つけ、育てていくことこそが、持続可能な美しさ(サステナブルビューティー)に繋がると言う。
100周年に向けて、及川社長は自ら所長となり「ポーラ幸せ研究所」を設立した。「会社で働く全ての人々、ブランドを使ってくれるお客様が幸せな働き方、豊かな時間を手に入れる」という目標を掲げ、これを「宣言」することで社内の様々な部門が議論に参加している。曖昧な「幸せ」というテーマも、「宣言」することで社員の自律的な動きを誘発し、組織の活性化と企業文化の醸成を促進している。この研究所は、ポーラの目指す究極のビジョンを体現するものであり、社長が「言ったからには責任を果たす」というリーダーの覚悟を示していると言える。